吉田由美の眼☆スズキの新型「スイフト スポーツ」には高級車のエッセンスが流れてる!?

結城さんは、新型スイフト スポーツのほかに、東京モーターショーなどに出展されるコンセプトカーなども手掛けるスズキのカーデザイナー。そんな結城さんと「スイフト」との関係は10年以上にも及びます。

「スズキでは、2004年に発売したグローバルモデルを初代のスイフトと位置づけていますが、私はその初代で先行デザインの立案や量産のエクステリアデザインを担当しました。そして今回の3世代目では、先行デザインの段階から量産車のチーフデザイナーまでを務めていました」(結城さん)

そもそもスイフトには、日本向けの5ナンバーボディと海外向けのワイドボディという“ふたつのスイフト”が存在します。今回、フランクフルトでお披露目された新しいスイフト スポーツは、海外向けのワイドボディをベースに、専用のエアロパーツをプラス。いかにも走りが良さそうな雰囲気が伝わってきます。

「私は、2017年の東京モーターショーに展示するコンセプトカーなどにも関わっていますが、スズキは基本的に、コンセプトカーでも量産車でも、小さくて誰もが手の届くクルマ、でもそこに、なんらかの楽しさや面白さをトッピングした、小さくても魅力が詰まったクルマづくりを目指しています。スイスポも、ベース車はBセグメントの実用車ですが、いい足、いいエンジンを与え、走るとワクワクするような楽しさをプラスしています。もちろん、軽自動車の『ハスラー』や『ラパン』などにも、それぞれでトッピングの味を変え、違う楽しさ、違う魅力を与えています」(結城さん)

一方、スズキといえばバイクのイメージも強いですよね。クルマのデザインにもそうした要素は反映されているのでしょうか?

「バイクは実用性というよりも、道楽としての価値が重要です。一方、スズキのクルマは、まずは実用的な“庶民の足”であることを前提としながら、そこに何か、毎日の暮らしが楽しくなるような価値を与えたいと考えています。そして、その方向づけが個々の商品の個性として見えてくる…、そういったアプローチで個々のクルマに魅力をプラスしたいと考えています」(結城さん)

スイフトのデザインは、初代と2世代目とではほとんど変わりませんでしたが、今回の3世代目では大きく変わりました。その狙いとは?

「変化こそ盛り込みましたが、実は3世代目にも、シルエットなどにはスイフトのDNAをしっかりと残しています。また、日本では販売していませんが、セダンなど派生モデルのデザインをカッコ良くすることも考えながら、デザインのバランスをとりました。そもそもスズキ社内には、スイフトに思い入れの強い人が多く、特に新しいスイスポでは新しいエンジンが搭載されるということもあって、担当者たちは全員ノリノリでした。デザインとともだけでなく、速さもしっかり伴ったクルマになることが予想できていましたので『自分たちが欲しくなるクルマを作るぞ』と作り手たちが面白がって開発したのです。実際、チーフエンジニアは、すでに新型をオーダーしたと聞いています(笑)」(結城さん)

そんなスイスポですが、実は日本での販売台数のうち25%が、黄色のボディカラーなのだとか。個性的なクルマは有彩色が売れる傾向にありますが、キャラクターカラーがこんなに売れるというのは、なかなか珍しい例です。

「実はヨーロッパでは、黄色のボディカラーを出すのは今回の新型が初めてなんです。初代スイフトは、かつてJWRC(世界ジュニアラリー選手権)で活躍していたこともあって、欧州では“黄色い弾丸”とも呼ばれていたのですが、黄色いボディカラーを市販していたのは、日本市場のみでした。欧州では地味な色が好まれることもあって、販売してこなかったのです。しかしスイスポ専用の“チャンピオンイエロー”は、日本市場でこのクルマのイメージリーダーになっています。そこで今回の新型では、グローバル市場でも黄色のイメージで行こう! ということになりました。

でもこの色、相当彩度が高いので、例えば、ファッション的に考えると、コーディネートしにくい色だと思います。しかし、ファッションなどを起源とするトレンドカラーなどではなく、元々スズキのバイクのイメージ色であり、その後、JWRCに参戦したラリーカーの色でもあるので、先祖代々の伝統を継承した、いわば“スズキのスポーツスピリットを示す色”ともいえるのです。さらに今回のスイスポでは、ルーフの色を塗り替えやすいようなデザインにしています。屋根を塗りかえるだけなら塗装費は安価で済みますので、新型ではルーフの色を自由にカスタマイズし、遊んでいただければな、と思っています」(結城さん)

結城さんは、歴代のスイフトを手掛けられていますが、正反対の存在ともいうべきラパンも担当されています。初代ラパンのコンセプトカーや、スポーツグレードの「ラパン SS」を手掛けられたほか、2世代目ラパンではチーフデザイナーを務められました。

「日本では、スイフトは男性向けのクルマというイメージが強く、逆にラパンは女性向け、といった印象を抱かれるかもしれません。しかしヨーロッパでは、スイフトオーナーの6割以上が女性なのです。そうした、日本と欧州との趣向の違いも、我々デザイナーにとっては面白いですね。

欧州にはMINIやフィアット「500」があり、オジサンからお嬢さんまで、皆がかわいいと思って乗られています。そういった、性別や年齢を超えて共感を得られるかわいらしさの表現というのは、日本車が苦手といわれる部分ですが、スズキはハスラーなどでそういった表現ができているのかな、と考えています」(結城さん)

さて、そんな結城さんからご覧になって、今回のフランクフルトショーで気になったクルマは、どのモデルでしょうか?

「マイバッハ『6』ですね。後ろ下がりのデザインは、私も2011年にコンセプトカーの『レジーナ』でトライしたのですが、最近の高級車では、そうした傾向のものが増えてきました。スズキが超高級車を作ることは一生ないと思いますが(苦笑)、個人的に好きですし、デザイントレンドは高級車から小さいクルマへ下りてくることも多いので、高級車もいろいろと見ています。

ちなみに内緒ですが(苦笑)、私がチーフデザイナーを務めた2世代目のラパンでは、昔のクルマとかも参考にしました。ロールスロイスの面の取り回し方なども、密かに参考にしてします。スイフトも、ネット上などでは『マセラティやアストンマーティン、ジャガーに似ている』などといわれていますが、水平基調の中でスポーティな表現をしている点や、工芸的な抑揚をつけて情緒的に見せている点など、造形の考え方には通じるものがあるかもしれません。そういった点で、高級車を参考にすることはありますし、参考にしつつ似通うことがないよう、見え方を変えることもあります」(結城さん)

結城さんは、個人的に高級車のデザインがお好きとのことですが、クルマの“お国柄”についても興味津々なのだとか。

「それぞれの国の、一番高いクルマと一番安いクルマにはお国柄がしっかりと現れるので、非常に面白いですね。例えばイギリス車だと、ロールスロイスとMINI。イタリア車だとフェラーリとフィアットの500や『パンダ』。日本だとトヨタの『センチュリー』と軽自動車。

その間に位置する、グローバル市場を狙った中型車は、世界的に似通ったムードになってしまうことが多くお国柄が出にくいのですが、各国の一番上と一番下のモデルには、その国の文化を背景とした個性が出ているものが多いですね。なぜかというと、例えば、小さくて安いクルマは、何かを割り切らないと成立しないのですが、何を残して何を割り切るのか、といったところに、実はお国柄が出るのです。一方の超高級車では、どんどん何かを足していき“おもてなし”をプラスしていく際に、その国のホスピタリティや思想が出てくる。そして、そういった正反対のクルマからは、実はなんらかの共通点を感じられることがあるのです。モーターショーなどでは、そういった視点で小さいクルマと大きいクルマを見て楽しんでいます」(結城さん)

モーターショーでのクルマの楽しみ方まで教えていただいた結城さん。私も間もなく開催される東京モーターショー2017では、各国の高級車とベーシックカーを見て楽しむことにします!

(文/吉田由美 写真/吉田由美、スズキ)


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