“バイク版SUV”の注目株!スズキ「Vストローム」ならどこまでも行けそう

■心臓部にスズキのヘリテージが結集した注目バイク

Vストローム・シリーズのルーツといえるのが、1988年に発売された「DR750S」。当時、人気の高かったデザートレースを席巻したマシンで、“DR-BIG(ディーアール・ビッグ”の愛称で親しまれました。くちばしのように飛び出たフロントフェンダーがデザイン上の特徴で、このアイコンがVストローム・シリーズにも継承されています。中でも、新しいVストローム1050は、この特徴をさらに際立たせたデザインに。より直線基調のラインを採用し、迫力が増しています。

エンジンは、DR-BIGが大排気量の単気筒だったのに対し、Vストローム1050はV型2気筒を搭載。このエンジンは、スズキのロードスポーツバイク「TL1000」から受け継がれたもので、コンパクトながらハイパワーなユニットとして定評があります。新しいVストローム1050のそれは、排気量こそ従来と同じ1037ccですが、2020年12月に導入される新しい排出ガス規制に対応。最高出力も、従来モデル比で7馬力アップとなる106馬力を発生します。

環境性能を高めながらパワーアップを果たすという、相反する性能を同時に満たすことができたポイントは、電子制御スロットルの採用です。49mmという大口径スロットルを採用することで出力を向上させながら、電子制御化することで作動を緻密にコントロール。環境性能とリニアなスロットルフィーリングを実現しています。1990年代に生まれたエンジンを、先進技術で時代に対応させたVストローム1050は、スズキ2輪のオフロード車とオンロード車のヘリテージを受け継いだマシンといえるでしょう。

■XTはエクステリアだけでなく電子制御装備も充実

新しいVストローム1050には、標準モデルと、装備を充実させた「Vストローム1050XT」がラインナップされています。今回の試乗車である後者には、オフロードイメージの強いスポークホイールやナックルガード、アンダーガードなどが装備され、外観もアドベンチャーイメージを強めています。

細かな部分でも、ウインカーがLED化されているほか、フロントスクリーンの高さ調整が標準モデルの3段階に対し、XTでは11段階となるなど、差別化が図られています。

そうした装備の違いは、エクステリアだけにとどまりません。XTには、車体姿勢をピッチ、ロール、ヨーという3軸のジャイロメーターと、前後、左右、上下という3軸の加速度センサーで検出する“6軸IMU(慣性計測ユニット)”を搭載。このIMUとABSを組み合わせ、車体姿勢に応じてABSの介入度合いを最適にコントロールする“モーショントラックブレーキシステム”や、上り坂での停車中にブレーキを30秒間保持してくれる“ヒルホールドコントロールシステム”、高速道路におけるクルーズコントロール機能など、多彩な電子制御デバイスを採用しています。

それでいて、標準モデルは143万円、XTは151万8000円と価格差はわずか。それを考えると、XTはかなりお買い得なモデルといえるでしょう。

■どこまでも走って行きたくなる快適性と気持ち良さ

今回、試乗車として選択したのは、装備の充実したVストローム1050XT。リッタークラスのアドベンチャーモデルだけに、車重は247kg(標準モデルは236kg)と重量級で、シート高も850mm(標準モデルは855mm)と高めです。しかし、またがってみると、着座部分こそ幅広で厚みがあるものの、前方が絞り込まれ形状になっているため、足つき性はスペックから想像するより良好です。身長175cmの筆者の場合、両足のつま先がしっかりと接地しました。エンジンがスリムなこともあり、信号待ちの際など、片足でも支えやすく不安感はありません。

走り出してみると、スペック上の車重から予想するより、はるかに軽快。タイヤが太すぎないせいか、街中の狭い路地でも車体を持て余すようなことはなく、左右に傾ける操作も軽く、小回りが効きます。それでいて、スピードが乗ってくると安定感が増すので、経験の浅いライダーでも安心して乗れそうです。最近のスズキ車では一般的になりつつある、発進時に自動でエンジン回転を高めてくれる“ローRPMアシスト”も、安心感の高さにひと役買っています。

走行中は、ライダーの耳に届くVツインならではの排気音が心地良く感じます。低回転域では適度なパルス感があり、回転が上昇していってもその味わいを残したまま、スムーズにトップエンドまで回り切ります。こうした、扱いやすさと高回転域におけるパワー感の両立こそ、このエンジンが長らく高評価を得ている理由なのでしょう。電子制御スロットルの恩恵もあり、どんな回転域からでもアクセルをひとひねりするだけで、路面をつかむような良好なトラクションを感じつつ車体を加速させられるので、アクセルを開けるのが楽しくなってきます。

しかも、高速道路を使っての移動も快適そのもの。フロントスクリーンを最も高い位置にセットしておけば、ヘルメットに当たる風をほとんど感じることはなく、走行安定性にも優れているので、思わずどこまでも走って行けそうな気分になります。巡航中、アクセルを開け続ける必要がないクルーズコントロールも、長距離ツーリングの強い味方となるでしょう。

一方、ステージをワインディングに移すと、軽快なハンドリングと、コーナーから立ち上がる際、アクセルを開けた時に伝わってくるVツインエンジンの鼓動感が心地良く、ついついペースも上がりがちに。とはいえ、スーパースポーツモデルとは異なり、マシンに急かされることがないのは、いかにもアドベンチャーモデルらしいところです。Vストローム1050XTは3段階に切り替え可能な走行モードも搭載しており、積極的にライディングを楽しみたい時は、アクセル操作に対して俊敏に反応してくれる「A」モード、ゆったりと流したい時にはレスポンスを控えめにした「B」モードや「C」モードといった具合に、気分やシチュエーションに合わせてエンジン特性を選ぶこともできます。

ワインディングをハイペースで飛ばせる優れた走行性能と、ちょっとした未舗装路へも気兼ねなく入って行ける高い走破性を備えながら、街中でも扱いやすい“懐の広さ”も兼備したVストローム1050XT。熟成を重ねてきたVツインエンジンのポテンシャルの高さに加え、それをエントリーライダーにもフレンドリーな特性へと調律している電子制御技術の高さも見逃せません。

特に新型では、電子制御デバイスの充実したXTを選んだ方が、どんなレベルのライダーでも賢い選択だと感じられました。ライバルのアドベンチャーモデルに比べてリーズナブルでありながら、幅広いライダーを受け入れてくれるVストローム1050XT。長距離ツーリングを満喫したいライダーにとって、気になるモデルがまたひとつ増えました。

<SPECIFICATIONS>
☆Vストローム1050XT
ボディサイズ:L2265×W940×H1465mm
車両重量:247㎏
エンジン:1036cc 水冷V型2気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:106馬力/8500回転
最大トルク:10.1kgf-m/6000回転
価格:151万8000円


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文&写真/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

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