ターボ仕様があるといいね!マツダ「MX-30」の走りはクーペらしい特別感が希薄

■電動車用としてロータリーエンジンが帰ってくる

MX-30に搭載されるパワートレーンを見て「あれ、このクルマってEV(電気自動車)じゃなかったっけ?」と思った人は少なくないだろう。何を隠そう、筆者もそう思ったひとりだ。

MX-30が初めてお披露目されたのはちょうど1年前。東京モーターショー2019でのことだ。その際、展示されていたのは左ハンドルの欧州仕様で、“マツダ初の量産EVになるモデル”と紹介された。だから、EV専用モデルとして登場するものとばかり思っていたら、日本仕様はガソリンエンジンにモーターを組み合わせた“マイルドハイブリッド”仕様が先行デビューとなった。そのいきさつについて、まずは整理しておこう。

すでに発売がスタートしているMX-30の欧州仕様は、日本向けとは異なり、EVのみの設定。日本向けのようなマイルドハイブリッド仕様は設定されず、欧州向けMX-30にエンジン搭載車は(現時点では)存在しない。

マツダによると、日本と欧州とでパワートレーンが異なる理由は、“マルチソリューション”という思想に基づくためだという。これは、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、EV、ハイブリッドなど、さまざまなパワートレーンを搭載できるよう車両を開発しておき、提供する国や地域の事情によってそれらの組み合わせを変える、という考え方だ。MX-30の場合、心臓部にモーターを組み合わせるという大前提を掲げながら、市場の動向を考慮し、欧州はピュアEVから、日本では“ひとまず”マイルドハイブリッドからという展開となった。

日本向けに“ひとまず”と書いたのには理由がある。実は、2021年1月に、日本向けにもEV版を追加するとマツダ自身が明言しているのだ。つまり、日本向けのMX-30は、“EV専用車ではないけれど、EVも選べるクルマ”なのである。出来栄えが楽しみなマツダ初の量産EVを味わえるまで、もう少しの辛抱だ。

そして、もうひとつのうれしいトピックは、EV版の“その先”も明らかにされたこと。「ロータリーエンジンを発電機として使ったマルチ電動化技術を、2022年前半から順次投入していく」とマツダの丸本 明社長が宣言したのである。発電用とはいえ、ついにロータリーエンジンが復活するのだ。

このマルチ電動化技術を駆使したパワートレーンが、レンジエクステンダーを組み合わせたEVなのか、ハイブリッドなのか、はたまたPHEV(プラグインハイブリッドカー)なのか、もしくは上記すべて(!?)なのか、まだまだ謎は多いが、期待せずにはいられない。

■排気量がアップしたかのようなe-スカイアクティブG

将来の展望も気になるMX-30だが、ここからはマイルドハイブリッド仕様の印象について紹介したい。

パワートレーンの核となるのは2リッターのガソリンエンジン(156馬力)で、そこに6.9馬力の小型モーターを組み合わせる。これまでマツダは、ガソリンエンジンに“スカイアクティブG”という名称を与えてきたが、マイルドハイブリッド版は電動化を意味する“e”をプラスした、“e-スカイアクティブG”と呼ばれる。

e-スカイアクティブGは、大型かつ高出力のモーターを搭載した“ストロングハイブリッド”車とは異なり、停止直前のアイドリングストップを除き、エンジンを止めて走ることはなく、モーターはあくまで黒子としてエンジンのアシスト役に徹する。そのため、走行中はモーターの存在を感じにくいのだが、モーターの付いていない同排気量のスカイアクティブGと比べると、停止状態から加速する際、アクセル操作に対する反応の良さと滑らかさを感じられ、まるで排気量がアップしたかのような印象を受ける。これこそが、e-スカイアクティブGのメリットなのだろう。

モーターを追加した最大の目的はもちろん燃費の向上だが、それに関してはストロングハイブリッドのような強烈なインパクトはない。カタログに記載される“WLTCモード燃費”も15.6km/Lと控えめだ。とはいえ、エンジンの効率が悪い発進時などをモーターがアシストしてくれるから、実用燃費では数%の燃費アップが見込めるだろう。そう考えると、大幅なコストアップなしに燃料を節約できるマイルドハイブリッド仕様は、コストパフォーマンスにおいては有効な仕掛けといえるだろう。

もうひとつ、MX-30で素晴らしいと感じたのは、アイドリングストップから復帰する際のマナー。一般的なアイドリングストップ機構のように「キュルル」とスターターが回る音がなく、スッとエンジンがかかるのでスマートかつ快適なのだ。

■CX-30よりも強固になったドア周りが走りに効いてる

では、発進後の印象はどうか? MX-30はFF仕様でも車両重量が1460kgと重めなので、2リッターの自然吸気エンジンがベースでは力不足なのでは? と心配していたが、それは全くの杞憂だった。ふたりが乗った状態で移動しても、市街地はもちろん、幹線道路や高速道路でも力不足の印象は皆無。強烈な加速など強い個性こそ感じられないが、気持ちよく走れた。このクラスの多くはトランスミッションにCVTを採用しているが、MX-30(や他のマツダ車)はコンベンショナルな6速ATを搭載している。ドライバーのアクセル操作に対する加速感はATの方がリニアなため、そうした印象につながっているのだろう。

一方、ハンドリングは、ドライバーの意図を組んで思い通りに曲がってくれるという、マツダ車の美点をそのまま受け継いでいる。側面のドア開口部が大きいため、旋回時に車体が変形し、クルマの挙動に悪影響を及ぼすのではないかと心配していたが、そんな感覚は一切なかった。担当したエンジニアは「ドア開口部の周囲をガッチリ強化したのに加え、サスペンションの取付上部を『CX-30』より強固にした」といっていたが、そうした細部の作り込みが優れたハンドリングに効いているのは間違いない。

またMX-30は、ブレーキも一般的なものではなく、“バイワイヤ”と呼ばれるタイプを採用している。これは、ブレーキペダルを踏み込んだ量が、ブレーキ液を通してそのままディスクブレーキへと伝わるのではなく、まずは電気信号に置き換えられ、それをクルマが、モーターによる回生ブレーキと物理的なディスクブレーキとに自動で振り分け、減速する仕組みとなる。その自然なフィーリングは、とても完成度が高い。

さらに驚いたのは、乗り心地だ。車体構造の基本を共用するCX-30や「マツダ3」と比べても、乗員に優しい印象。路面の段差を超える時も、しっかりと衝撃を緩和してくれる。これはハンドリングと同様、強化された車体による影響が大きいと思われるが、MX-30の走りを語る上での大きな魅力となるだろう。

ちなみに、FF仕様と4WD仕様を比べると、前者の方が段差を乗り越える際の衝撃がより小さく、総じて乗り心地がいいと感じた。快適性を重視するなら、筆者はFF仕様をおすすめしたい。

■心臓部にも見た目に負けないインパクトが欲しい

「主張するのではなく、あくまで自然体で馴染むように」。開発をまとめた主査の竹内 都美子さんは、MX-30のパワートレーンに関してそう説明する。確かに、今回試乗したマイルドハイブリッド版は、特性にクセがなく、動力性能にも過不足はなく、その言葉が示すような味つけとなっている。パワートレーンはクルマのキャラクターを左右するのではなく、あくまで縁の下の力持ちというコンセプトなのだろう。

しかし、MX-30というクルマのキャラクターを明確にするという意味においては、現状のマイルドハイブリッド版は少し物足りなく感じるのも事実。MX-30は、クーペスタイルをまとった他のSUVと比べても、明らかにスペシャルな印象が強いクルマだ。一般的なクーペSUVが4ドアなのに対し、MX-30は実質的に“左右に補助的なリアドアを組み合わせた2ドア”なのだ。見た目だけクーペテイストに仕立てたモデルではなく、明確な個性を持つクルマだからこそ、特別感のあるパワートレーンがあれば、さらにクルマの個性が際立つと思うのだ。

具体的には、「CX-5」などに搭載される2.5リッターのガソリンターボエンジンをe-スカイアクティブG化したパワートレーンなどあれば、と思う。燃費を意識しつつも、力強い加速も味わえる電動化された2.5リッターターボ…。見た目からして個性満点のMX-30には、正直いってそれくらいのインパクトが欲しいところだ。仮にこの夢が実現すれば、MX-30はもっと面白いクルマになるに違いない。

<SPECIFICATIONS>
☆MX-30(2WD)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1550mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:156馬力/6000回転
エンジン最大トルク:20.3kgf-m/4000回転
モーター最高出力:6.9馬力/1800回転
モーター最大トルク:5.0kgf-m/100回転
価格:242万円〜

<SPECIFICATIONS>
☆MX-30(4WD)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1550mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:156馬力/6000回転
エンジン最大トルク:20.3kgf-m/4000回転
モーター最高出力:6.9馬力/1800回転
モーター最大トルク:5.0kgf-m/100回転
価格:265万6500円〜


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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