600馬力オーバーの加速は強烈!BMW「M8」は速く美しく贅沢なスーパースポーツ

■クルマ好きの心をくすぐるニクい演出

M8は、BMWグループ内でモータースポーツ活動や超高性能モデルの開発を担うBMW M社が手掛けたスペシャルなモデル。

ベースとなる「8シリーズ」はBMWの最上級クーペで、ライバルはメルセデス・ベンツの「Sクラスクーペ」やレクサスの「LC」といったところ。優雅なデザインとラグジュアリーな雰囲気を特徴とする。

そんな大人のための2ドアクーペをベースとするだけあって、M8はとても美しい。低く構えたフォルム、緩やかに傾斜した優美なリアピラー、そして、ダイナミックに張り出した前後フェンダーなど、車体側面の豊かな抑揚は特筆に値する。クルマに乗り込む前から目がくぎ付けとなり、時が経つのも忘れ、その世界に引き込まれてしまうほどだ。

中でもフロントフェンダーには、後方に8シリーズのそれより大きく口を開けたエアアウトレットを装備。またフェンダー内部には、20インチのタイヤ&ホイールと、巨大なブレーキローター&ブレーキキャリパーが鎮座している。Mモデルならではの戦闘力の高さが、直感的に伝わってくる演出だ。

ちなみに今回の試乗車は、M8の走行性能をひと際高めた「M8コンペティション」に専用の「Mカーボンエクステリアパッケージ」を装着したモデルで、フロントグリルやドアミラーカバー、リアスポイラーなどが光沢あるブラックに塗られているように見えるが、これらはすべてカーボン製。標準装備の“Mカーボンルーフ”と合わせ、クルマ好きなら見ているだけで思わずニヤリとするはずだ。

迫力満点のエクステリアに対し、インテリアはひと言でいえば豪華絢爛。M8の本拠地はサーキットだが、インテリアからはそうした獰猛さがあまり感じられない。立体的な表面仕上げが特徴の上質なレザーシートを始め、“スポーツ走行前提”の無骨な雰囲気は控えめだ。最上級クーペならではのラグジュアリーな空間に仕立てられている。

もちろん細部に目を向けると、超高性能スポーツモデルらしい演出も忘れてはいない。一見するとラグジュアリーなシートは、実際に座ると、ハードな走りにトライしてもカラダをしっかり包み込んでくれるし、ステアリングホイールは操作フィールにこだわった太い形状で、“10時10分”の位置に大きなコブが設けられたMモデル専用デザインとなる。

またシフトレバーは、形状だけでなく操作方法も通常のモデルと異なるし、車内のアクセントにもなっているカーボンファイバー製のデコレーションパネルは、レーシングカーを想起させてくれる。

単にラグジュアリーというわけではなく、それでいて“いかにも”といった仕立てでもない。クルマ好きの心をくすぐるさり気ない演出が心憎い。

■実用エンジンとは対極にあるエネルギッシュな強心臓

M8コンペティションで走り出すと、乗り味の奥深さに感心させられる。

まず、排気量4.4リッターのV8ツインターボエンジンは、高性能仕様であるM8コンペティションでは実に625馬力(標準仕様でも600馬力!)を発生。とんでもなくパワフルで、気軽にアクセルペダルを踏み込めないくらい強烈な加速を披露する。

だからといって、単にハイパワーなだけではない。このエンジンの真骨頂は、なんといっても繊細かつダイナミックなフィーリングに尽きる。例えば、わずかにアクセルペダルを踏んだ時の滑らかな反応や、アクセルペダルを通して伝わってくる繊細な回転フィールは、低い速度域であってもドライバーに感動をもたらしてくれる。

一方、ひとたびアクセルペダルを深く踏み込めば、弾けるように湧き出すエネルギッシュなパワーに驚かされる。ありきたりな実用エンジンとは対極にある、ドライバーの官能を刺激するドラマチックな世界だ。

ちなみに、“S63B44B”型と呼ばれるM8コンペティションのエンジンは、アグレッシブなサーキット走行も考慮し、オイル供給に関して特別な仕掛けを用意。極度にGフォースが掛かり、オイルが“片寄り”するようなシーンでもオイルをきちんと供給できるよう、通常の経路とは別に、オイルを吸引できる小部屋がオイルパンに設けられている。

さらにコンペティション仕様は、エンジンマウントにも“極めて硬い”専用品がおごられる。これは、乗員に微振動が伝わるのには目をつぶり、エンジンフィーリングを重視した結果だが、日常領域でドライブしている限り、振動が気になるといったネガは感じられなかった。

そんなS63B44B型エンジンを全開にした際の加速フィールは、激しすぎるのと同時に、もはや楽しすぎて笑うしかない。まるで麻薬であるかのように、ドライバーを快楽の世界に誘ってくれる。

とはいえM8コンペティションは、アクセルを全開にすると、停止状態から100km/hまでわずか3.2秒で到達してしまう。ドイツのアウトバーンのように、アクセル全開の状況を長く楽しめる環境がない日本の公道においては、合法的にアクセルを全開にできる時間、いい換えれば、快楽を堪能するためにドライバーに与えられた時間は、3秒ほどしかないわけだ。

そのため、このエンジンの本質をより深く堪能したいなら、迷わずサーキットへ行くべきだ。その際は、無理にコーナーを攻めなくても、エンジンの能力を引き出すだけで存分に楽しめることだろう。

■レーシングカーを想起させる多彩な調整機構

こうした絶対性能と並ぶM8の特徴が、各種制御系の多彩なセットアップ機能だ。

エンジンレスポンスやステアリングフィール、サスペンションの硬さなどを総合制御する一般的なドライブモード切り替えに加え、メーターパネルやヘッドアップディスプレイの表示、運転支援システムの介入などを切り替える「Mモード」は3パターンから選べるし、トランスミッションの変速モードは快適性重視から効率性重視まで3段階に切り替えられる。その上、電子制御式4WDシステムとリアのディファレンシャルも3つのモードから特性を選択できるのだから、すごいとしかいいようがない。超高性能車でもここまで調整機能が多彩なクルマは珍しく、まるでレーシングカーのようである。

そうした中でも特に珍しいのが、ブレーキのフィーリング調整機能だ。M8のブレーキは、一般的な負圧式ブースターではなく、電動アクチュエーターを導入したものだが、その制御プログラムが複数用意されているのである。ブレーキの反応や減速時におけるペダルの踏み込み量まで好みに応じて調整できるのだから、なんともマニアックだ。

また、3パターンが用意される4WDシステムの調整機能は、安定性重視の「4WD」、ほぼ後輪駆動に近い「4WD SPORT」、DSC(横滑り防止装置)をオフにし、完全な後輪駆動状態となる「2WD」モードが用意される。2WDモードが存在する理由は、もちろんドリフト走行を可能にするため。超ハイパワー車ゆえ、繊細なアクセルワークが求められるし、限界性能自体がケタ外れに高いから、ドリフトを楽しむにはかなりの腕が必要となる。つまりこれは、初心者お断りの超上級者向けモードといえる。

実際にドライブしてみると、切り替えメニューが多彩過ぎて、途中でドライバーの頭が混乱しそうになる。そのため、あらかじめ各種制御をセットアップしておき、それらをステアリングに付いたボタンで再現する“Mセットアップ”という機能も用意されている。

自分好みの乗り味にセットアップしていく歓びを味わえる一方、それを簡単に呼び出せる利便性も備えているのだ。

■クーペにも増してエレガントなカブリオレ

そんなM8のコンセプトは「本格的なサーキットモデルでありながら公道も快適に」というもの。世界的に見て超一流の走行性能を誇る一方、コンフォート性能においても不満がないのだから、まさにジキルとハイド、完全なる二重人格だ。

走行モードを「スポーツ」から「コンフォート」に変えるだけで、それまでガチガチだったサスペンションは信じられないほど滑らかに、かつ乗り心地も良くなり、シフトアップ時やアクセルオフ時に「バババッ」という爆発音をとどろかせていたエキゾーストノートも、まるでエンジンが止まったかのように静かになる。

その上、高速道路での渋滞中には、手放し運転を実現するハンズオフ機能まで備えているのだから、移動空間としての快適性は抜群だ。超高性能車といっても扱いづらいことはなく、サーキット走行から休日のショッピングまで、シーンを問わずオーナーのカーライフに寄り添ってくれる。

さらにM8には「M8カブリオレ」というオープンモデルも用意されている。ルーフはファブリックを多層化したソフトトップで、開閉に要する時間はわずか15秒ほど。走行中も50km/h以下であれば開閉できるので、気軽にオープンドライブを楽しめる。

M8カブリオレのスタイリングはクーペにも増してエレガントだし、サイドウインドウを上げて走れば車内への風の巻き込みも少なくて快適。もちろん、ルーフを閉じれば静粛性もかなり高いため、長距離ドライブも苦にならない。

性能的にも価格的にも、M8/M8カブリオレはクルマ好きにとっては高嶺の花だ。手に入れてその性能をフルに引き出すことは容易ではないが、もしも一緒に時間を過ごすことができれば、間違いなく幸せを感じられることだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆クーペ コンペティション
ボディサイズ:L4870×W1905×H1360mm
車両重量:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:4394cc V型8気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:625馬力/6000回転
最大トルク:76.5kgf-m/1800〜5860回転
価格:2444万円

<SPECIFICATIONS>
☆カブリオレ コンペティション
ボディサイズ:L4870×W1905×H1355mm
車両重量:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:4394cc V型8気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:625馬力/6000回転
最大トルク:76.5kgf-m/1800〜5860回転
価格:2553万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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