ランエボみたいに曲がるぞ!三菱「エクリプスクロスPHEV」はエコ車だけど走りも楽しい

■“エボX”生産終了後も受け継がれる高度な4WD制御技術

以前、PHEV仕様のSUVを乗り比べる機会があったのだが、その際、意外な発見があった。三菱「アウトランダーPHEV」のハンドリングがあまりにも素晴らしかったのだ。

特にスゴいなと感じさせたのは、さほどスピードが乗っていない状態で、大きく曲がっている峠道のカーブを旋回する時。軽い身のこなしでグイグイと曲がっていったのだ。2トン弱という重い車重や、重心位置の高いSUVといったハンデを感じさせることなく、軽やかに曲がっていく様子には驚かされた。PHEVということで、とかくパワートレーンにばかり注目が集まりがちなアウトランダーPHEVだが、実はハンドリングも優れたクルマだったのだ。

そして先日、マイナーチェンジを機にラインナップに加わった「エクリプス クロスPHEV」に乗って衝撃を受けた。アウトランダーPHEVよりもさらにハンドリングが軽快だったのだ。

ここでいう軽快とは、ハンドルを切ると車体が俊敏に向きを変える、クイックに動くといった意味ではない。ハンドルを切るとドライバーの思い通りに素直に曲がり、違和感なくスムーズに反応してくれる身のこなしの軽さを指す。エクリプス クロスPHEVは、まるでスポーツカーのそれを想起させる身のこなしだったのである。

「車重がアウトランダーPHEVと変わらない2トン弱のクルマで、そんな素直に動くわけがないだろう」と思う人もいるかもしれない。確かにスペックを見ただけでは、そう思ったとしても間違いではない。しかし、エクリプス クロスPHEVを生み出したのは、あの三菱自動車だ。4WDメカを駆使することで車重や重心高といった物理的ハンデを跳ねのけ、良好なハンドリングを生み出すというのは同社の得意ワザなのである。

その象徴ともいえるのが、かつてモータースポーツシーンを沸かせたスポーツセダン「ランサー エボリューション」シリーズだ。中でも、2007年に登場した最終進化型「ランサー エボリューションX(テン)」に導入され、究極のハンドリングを実現した高度な4WD制御技術は、“エボX”の生産終了後も三菱自動車に脈々と受け継がれている。

ランサー エボリューションX

そしてそれは、“エボX”のガソリンターボエンジンに代わって、ふたつのモーターが駆動力を生み出しているという違いこそあれど、最新モデルであるエクリプス クロスPHEVにも継承されているのだ。

ちなみに、三菱自動車のエンジニアによると「エンジンの駆動力を分配するデフは、前後のトルクバランスを直接、コントロールできるものではない。その点、(同社製)PHEVに搭載される電気式4WDは、モーターのパワーを正確に分配できることから、前後輪の駆動力を綿密に制御できる」という。

■PHEVユニットを搭載できるよう大改良を実施

今回、エクリプス クロスのマイナーチェンジに合わせて追加されたPHEV仕様のパワートレーンは、基本的にアウトランダーPHEVのそれに準じている。

PHEVとはハイブリッドカーの一種だが、一般的なハイブリッドカーよりも搭載されるバッテリーの容量が大きく、外部からの充電にも対応する。そのため、日常領域ではエンジンを止め、モーターだけで走行することが可能(エクリプス クロスPHEVの場合、カタログに記載されるWLTCモードで最長65km)。また、モーター走行時の最高速度は、日本の高速道路の法定速度までフォローできるようになっている。

一方、EV(電気自動車)とは異なり、ガソリンを入れれば走り続けることができるため、航続距離やバッテリー充電の心配をすることなく、長距離を走れる点もPHEVの美点。まさに“EVとガソリン車のいいとこどり”をしたクルマであり、エコ性能に優れる一方、EVよりも現実的な選択肢として位置づけられている。

エクリプス クロスPHEVのパワートレーンは、エンジンが2.4リッターの自然吸気4気筒、バッテリー容量は13.8kWh、駆動用モーターは前輪用が82馬力、後輪用が95馬力という構成になっている。通常走行では、バッテリーに蓄えられていた、もしくはエンジンにて発電した電気でモーターを回して走行する一方、高速領域になると効率改善のために、エンジンパワーを直接、路面へと伝える仕組みとなる。

ちなみに、エクリプス クロスPHEVはアウトランダーPHEVと同じプラットフォームを使っているものの、本来、PHEVの搭載を考慮した設計になっていなかったため、PHEV化に向けては多大な苦労があったようだ。2018年にガソリンターボ車の発売がスタートした後、PHEVモデルの追加が決定したが、特にリアのオーバーハングが短いことから、フロア下にシステムを搭載できないなどの課題をクリアする必要があったという。

そのため今回のマイナーチェンジでは、PHEVユニットを搭載できるよう大幅な改良を実施。新型のリアオーバーハングが105mmも伸びた理由は、主にラゲッジスペースのフロア下にPHEVユニットの一部を収めるためだったという。

ちなみにエクステリアデザインは、「デリカD:5」を思わせる派手なフロントマスクへと変更。リア周りも、クーペフォルムのせいで犠牲になりがちな後方視界を確保すべく採用されていた上下2段のリアガラスがなくなり、コンビネーションランプも新形状のものへと刷新されている。

つまりPHEV化をきっかけに、さまざまな領域において変更の手が加えられたのが、今回のマイナーチェンジなのである。

■「ターマック」モードではクルマが積極的に向きを変える

そうした苦難の末に誕生したエクリプス クロスPHEVだが、開発当初の試作車において、想定していなかった事態が発生したという。開発陣によると「曲がりすぎるクルマになってしまった」のである。

PHEVユニットの設計を最適化し、アウトランダーPHEVに比べて車体の中央寄りに配置した結果、エクリプス クロスPHEVの試作車は物理的な条件が良化し、回答性の高いクルマになってしまったのだ。その試作車があまりにもよく曲がるため、例えば、前後輪の駆動力配分をアウトランダーPHEVより前輪寄りのセッティングにするなど、逆に曲がらないよう味つけを変更。そこから市販モデルのセッティングを決め込んでいったというから面白い。

エクリプス クロスPHEVの軽快なハンドリングは、そうした苦労の末に確立された賜物といえる。特にドライブモードで「ターマック」を選ぶと、クルマが積極的に向きを変える味つけとなり“らしさ”がさらに際立つ。バッテリーをフロア下に搭載するため見た目以上に重心が低いという強みこそあるが、2トンに迫るSUVで峠道を楽しく運転できるとは! あらためて同社の得意ワザを見せつけられた思いだ。

加えて、モーター駆動車ならではの特徴ともいえる優れた静粛性や、シャープかつ伸びやかな加速感も爽快なドライブフィールにひと役買っている。PHEVというと、とかくエコなクルマと見られがちだが、エクリプス クロスPHEVは物理的な美点を活かした良好なハンドリングと、爽快なモーター駆動という両面から、ドライビングを楽しめるクルマに仕上がっているのだ。

ただし、そんなエクリプス クロスPHEVにもウィークポイントが存在する。後席のフロアが高くなっていることや、ラゲッジスペースが若干狭くなっているといった実用面での弱点こそさほど気にならないが、やはりネックとなるのは価格だろう。384万8900円〜というプライスタグは、確かにアウトランダーPHEV(436万4800円〜)と比べれば安いし、令和2年度の実績で22万円の購入補助金を利用できるといっても、ガソリンターボ車(4WD)と比べて実質80万円以上も高いのは事実。開発陣は「ライバルに相当するハイブリッドカーとほぼ同じ」と説明するが、絶対的に高価に見えてしまうのは否めない。

その一方、エコなのに楽しいエクリプス クロスPHEVの商品力は、相当高いと自信を持って断言できる。この価格差をどのように捉えるかによって、エクリプス クロスPHEVに対する評価は大きく変わってくるだろう。

エクリプス クロスPHEVはエコで楽しいクルマだが、もしかしたら、その最大の功績は「三菱自動車って楽しいクルマを手掛けるメーカーだったよね」ということを、あらためて思い出させてくれたことかもしれない。近年、地味な印象が強かった同社だが、エクリプス クロスPHEVの導入を機に、再び、楽しいクルマを手掛けるメーカーというイメージが広まることを期待したい。

<SPECIFICATIONS>
☆PHEV P
ボディサイズ:L4545×W1805×H1685mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:2359cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:128馬力/4500回転
エンジン最大トルク:20.3kgf-m/4500回転
フロントモーター最高出力:82馬力
フロントモーター最大トルク:14.0kgf-m
リアモーター最高出力:95馬力
リアモーター最大トルク:19.9kg-m
価格:447万7000円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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