これぞ現代のホットハッチだ!メルセデスAMG「GLA45S」は“使える”上に超刺激的

■パワーだけなら人気スポーツカーをも凌駕

メルセデスAMG「GLA45S 4マチック+(プラス)」を正式名称とするGLA45Sをドライブしながら、「好事家にとってはたまらない、“選ばれた人”のためのクルマだな」と思った。あまりにもターゲットスポットが狭くて濃厚すぎるゆえに、クルマ側が買う人を選ぶようなモデルだからだ。

そもそもAMGとは、モータースポーツへの参戦と並行し、高性能な市販モデルの開発を行うメルセデス・ベンツ(ダイムラー)内の組織だ。とはいえ、かつては完全に独立した企業で、以前からメルセデス・ベンツ車のチューニングを主に手掛けていたものの、1980年代には三菱自動車の「ギャランAMG」や「デボネアAMG」など、日本メーカーとジョイントした経験も持つ。

そんなAMGは、1980代からメルセデス・ベンツとの関わりがより深くなり、1999年にダイムラー社に吸収されたことでメルセデス・ベンツの1部門となった。そして現在では、メルセデスAMGというダブルネームを冠したブランドが誕生し、“普通のメルセデス”では味わえない刺激的な走りを味わえる市販車を続々と手掛けている。

一方、GLA45Sのベースモデルである「GLA」は、メルセデス・ベンツにとって最小のSUVであり、基本的なメカニズムはコンパクトハッチバックの「Aクラス」と共用している。GLA45SはそんなGLAに、AMGが強靭な心臓とそれに見合う足回りを与えたモデルだ。エンジンは2リッターの4気筒ターボながら、最高出力はなんと421馬力。これは、高性能スポーツカーであるトヨタ「スープラ」の387馬力を上回る数値で、それをコンパクトSUVにドッキングしたとなれば、どれほどのモンスターモデルであるかがイメージできるだろう。とにかく普通じゃない。

GLA45Sには「GLA35 4マチック」という弟分が存在する。その走りの楽しさとオールマイティな性能は、クルマ好きの物欲を刺激する素晴らしい出来栄えだったが、今回のGLA45Sは、そのさらに上を行く。だから当然、「違いがどこにあるのか?」、「さらに上を選ぶ価値があるのか?」が気になってくる。

■GLA35とはエンジンも駆動系も全くの別物

GLA45SとGLA35の大きな違いは、エンジンとドライブトレーンだ。

実は両車のエンジンは、全くもって別物だ。GLA35の306馬力も過剰といえるほどの速さを見せつけるにもかかわらず、GLA45Sはさらに4割ほどパワーアップし、過剰ともいうべき421馬力をたたき出す。

その常識外れなハイパワーを絞り出すべく、GLA45Sはより大きなターボチャージャーを組み合わせているが、それをエンジンルームへ納めるために、GLA35とはエンジンを搭載する向きを前後逆にしている。さらにエンジン自体も、回転方向だけでなく内部構造や型式までGLA35のそれとは異なる。見た目では違いが分かりにくいが、それくらいGLA45Sは手の込んだクルマなのだ。

GLA45Sの駆動方式は前輪駆動をベースとした4WDで、走行状況に応じ、前後輪への駆動トルクの配分量を前輪100:後輪0から、前輪50:後輪50までの範囲で変化させる。ここまではGLA35と共通だが、リアのディファレンシャルが大きく異なる。GLA45Sのそれには左右輪へのトルク配分機構がプラスされていて、状況に応じて左右のタイヤに伝えるトルク量をコントロールし、サーキットから滑りやすい路面まで最適なトラクションを生み出すと同時に、クルマをよりコントロールしやすくした。

ちなみに価格は、GLA35の702万円に対し、GLA45Sは895万円。上級グレードの軽自動車が1台買えてしまうほどの差がある。

早速、試乗へと出掛けよう。まずはGLA45Sの性能を味わおうと、走行モードを「S+」に切り替える。すると「スイッチが変わりました!」と訴えかけるかのように、アイドリングのエンジン回転数が200回転ほど上がる。それに伴って排気音が野太くなり、ドライバーのテンションが高めてくれる。

そこからアクセルペダルを深く踏み込むと、7000回転まで一気にエンジンが吹け上がる。その時の感覚は“爽快”というよりも“迫力”といった表現がふさわしく、エンジン回転数が上がれば上がるほど爆発力が高まるから、昂る気持ちを抑えるのが大変になるほどだ。

さらに走行モードを「レース」へと切り替えると、より積極的にシフトダウンを行ってくれる。その際、排気管から響く「パンッ!」という破裂音がド迫力。メルセデスAMGの各モデルは、こうした音やフィーリングの演出に定評があるが、GLA45Sもレーシングカーをドライブしているのかと錯覚しそうなほど刺激的で、SUVであることなど思わず忘れてしまう。

このように、まるでレーシングカーのような乗り味が魅力のGLA45Sだが、走行モードを「コンフォート」に切り替えれば、普通にドライブできるどころか、乗り心地の良さに驚かされる。

もちろん、リアシートやラゲッジスペースはベース車のGLAと同様、十分ゆとりがあるため、ファミリーカーとしてのマッチングも良好だ。

気になるのは、見た目において“いかにも”な特別感が少々乏しいところだが、やんちゃすぎるよりもこれくらい周囲に馴染むくらいの方が、ファミリーカーとして見ればベターなのかもしれない。

■SUVにも刺激が欲しい人にとっての貴重な選択肢

GLA45SとGLA35の違いをひと言で表現するならば、「どこまで理想を追求しているか?」だと思う。

GLA45Sの方が、よりパワーがあるとか、駆動系がより高性能だといった分かりやすい違いもあるけれど、エンジンを搭載する向きを逆転させるなど、より高性能をカタチにするための手の込んだ仕立てこそが、GLA35との最大の違いといえる。それが193万円という価格差につながっているのだろう。

普通に考えれば、走行性能はGLA35でも十分だ。サーキット走行を除けば「GLA45Sでなければパワーが足りない」というシーンに出くわすことはまずない。さらにいえば、GLA45Sの価格を見れば、もう少し頑張って、より車体の大きいメルセデスAMG「GLC43 4マチック」(973万円)を選ぶという手だってある。こちらの方が大きくて見栄えも良く、リアシートやラゲッジスペースも広い分、実用性も高い。

一方、さらに走りを重視するなら、SUVのGLA45Sではなく、同じエンジンと駆動系を組み込んだ4ドアクーペのメルセデスAMG「CLA45S 4マチック+」(870万円)や、ステーションワゴンの「CLA45S 4マチック+ シューティングブレーク」(880万円)を選ぶのが王道だろう。いずれもGLA45Sより重心が低いから、ハンドリング面でのアドバンテージが大きい。

さらに、そもそも論をいってしまえば、コンパクトSUVにこれほどの高性能が必要か? という話にもなってくる。しかし世の中には“小さくて速いSUV”を求めている層が、多くはないけれど確実にいるのだろう。GLA45Sはそんな数少ない人たちに向けた、なんとも贅沢な企画の商品だと思う。

「SUVにも刺激が欲しい」。そう考える人たちにとって、GLA45Sは貴重な選択肢となる。現在、コンパクトカーのセールスの約半分はSUVになっているが、そうした現状を鑑みると、GLA45Sのように小さくて速くて刺激的なSUVは、かつてのホットハッチの現代的な解釈といえるのかもしれない。

<SPECIFICATIONS>
☆GLA45S 4マチック+
ボディサイズ:L4440×W1850×H1585mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:421馬力/6750回転
最大トルク:51.0kgf-m/5000~5250回転
価格:895万円

>>メルセデス・ベンツ「GLA45S 4マチック+」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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