進化した夢のエンジンの実力は?人気の小型SUV マツダ「CX-30」改良版の進化と真価

■エンジンと先進安全装備をアップデート

今回、CX-30に施された改良は、先に実施されたマツダ3のそれとほぼ共通する。

マツダが世界で初めて実用化した独自の燃焼方式“SPCCI(火花点火制御圧縮着火)”と、マイルドハイブリッドシステムとを組み合わせた新世代ガソリンエンジンのスカイアクティブXは、燃焼制御を最適化することで、ほぼすべての回転域でトルクと出力が向上。同時に、“高応答エアサプライ”と呼ばれるスーパーチャージャーの過給を緻密に制御することで、素早いアクセル操作にも追従できるようにし、応答性を向上させている。ちなみに名称も、従来のスカイアクティブXからeスカイアクティブXへと変更されている。

一方、1.8リッターの直4クリーンディーゼル“スカイアクティブD”は、“EGR”という、有害物質のひとつであるNOxを減らすべく再還流させる排ガスの制御をより高精度で行うことで、アクセルペダルを踏み込んだ際、もたつきなく吹き上がるようにした。このEGR最適化の効果で、最高出力が116馬力から130馬力へと向上している。

改良は先進安全装備にも及んでいる。前走車の追従走行機能と、ステアリングアシスト機能によって構成される“CTS(クルージング&トラフィック・サポート)”は、従来モデルでは約55km/h以下でしか作動しなかったが、今回の改良で作動領域が高速域まで引き上げられ、高速道路でも使えるようになった。

高速域では、積極的にハンドルを握って「走る歓びを感じてもらいたい」との思いから、従来モデルでは意図的に高速域でのCTS作動をキャンセルしていた(技術的には可能だった)そうだが、そうはいってもロングドライブ時は、CTSに頼って疲労軽減を図りたい時もある。そうしたユーザーの声に耳を傾け、今回の変更に至ったという。

■eスカイアクティブXは10馬力&1.7kgf-mの性能向上

まず試乗したのは「ドライバーの意図に応える瞬発力を高め、自在感を洗練させた」という触れ込みのeスカイアクティブX搭載車。トランスミッションは6速AT、駆動方式はFWDという仕様だ。

従来、CX-30のスカイアクティブX搭載モデルは、高輝度ダーク塗装のアルミホイールと大径のマフラーカッターくらいしか他のエンジン搭載車との識別点がなかった。しかし今回の商品改良で、eスカイアクティブX車専用のエンブレムがフロントフェンダーに追加されている。「乗るたびに所有感を感じてもらいたい」との判断からだというが、これは賛否両論ありそうだ。個人的に、マツダ車のエクステリアデザインは、余計なものをそぎ落としていく引き算の美学の上に成り立つものだと感じているため、少々複雑な思いだ。

ここでもう少し詳しく、eスカイアクティブXの変更内容を解説しておこう。SPCCIは本来、混合気への着火を点火プラグに頼らず、温度と圧力によって自己着火させる燃焼方式だ。なぜそんな複雑なことをエンジンにさせるかというと、熱効率を高められるポテンシャルを秘めているため。熱効率が高まる分、エンジン特性を燃費向上へ振ることもできるし、出力アップを図ることもできる。

ただし、温度と圧力だけに頼った自己着火による燃焼は、制御が難しい。そのため、これまで他メーカーでは実用化に至らなかったのだが、マツダのSPCCIは点火プラグの火花を利用し、圧縮着火を制御する技術を確立した。この火花点火制御圧縮着火を実現するには、エンジンのシリンダーごとの燃焼状態を正確に把握する必要がある。そのためのデバイスが“CPS(筒内圧センサー)”で、燃焼圧力を元にシリンダー内の状態を予測し、EGRと空気の量をコントロールしている。

今回の改良では、その予測精度を高めることができたため、ドライバーのアクセルペダルの踏み込み量に対し、素早く空気量を立ち上げられるようになった。その結果、応答性が向上し、トルクと出力の向上が実現したというわけだ。ちなみに新しいeスカイアクティブXは、最高出力が180馬力から190馬力に、最大トルクは22.8kgf-mから24.5kgf-mへと向上している。

■ドライバーのリズムで気持ち良く走れる

ドライブしていて体感上の効果が大きいのは、出力やトルクのアップよりも応答性の向上だ。それ自体は、本来、圧縮着火の特徴のひとつであり、改良前のエンジンにも備わっているはずだったが、実感するのが難しかった。以前のスカイアクティブXは、画期的なエンジンという触れ込みの割に、感覚に訴えるインパクトに乏しかったというのが正直な感想だ。有名店で出された食事を期待して口にしたところ、いまひとつパンチに欠ける、みたいな、ムズムズした感情を抱いたものだ。

その点、改良版のeスカイアクティブXは、間違いなく反応が良くなった。「良くなった!」と明確に意識できるというよりも、ドライバーのリズムで気持ち良く走れるため、後から振り返った際、「そうか、アクセルペダルの動きにきちんとエンジンが追従していたから気持ち良く走れたんだな」と理解できる感じだ。

裏を返せば、エンジンのもたつきがない。AT仕様にはドライブモード切り換えスイッチが付いており、これを「SPORT」モードにすると高めのエンジン回転数を維持するようになる。例えば、高速道路のジャンクションにあるような、高速の上りコーナーでジワッとアクセルペダルを踏み込んでいくと、3000回転手前付近から一層の快音を響かせ、同時にグッと背中を押すような、隠し持っていた底力が感じられるようになる。そんなeスカイアクティブXの“美味しいところ”を探りながらのドライブはとても楽しい。

またSPORTモードは、エンジン制御とATの制御を積極的に走りの方向へと切り換えるが、今回の商品改良ではそこに、“GVC(Gベクタリングコントロール)”の制御が追加された。「ダイレクトなステアフィールを実現する」ために制御量を変化させたとのことだが、エンジンの応答性が高まったのを生かして、ハンドルを切り始めた際に素早くトルクを落とし、旋回中の外側のタイヤに荷重を掛けるようにして回頭性を高めるという内容だろう。

そんなスパイスも利いているのか、SPORTモードに切り換えると、コーナーが連続するセクションではリズミカルな走りをより楽しめるようになる。

■後席の快適性はコンパクトSUVでは敵なし

今回は短時間であったが、ATの4WD仕様もドライブできた。4WDの制御は、エンジンパフォーマンスの向上に合わせて再セッティングしたというが、商品改良によってベースのトルクが上がったため、後輪に伝達できるトルクの絶対値自体が上がったというのが実態だ。後輪に伝達できるトルクの絶対値が大きくなったために制御性が高まり、安定して走れる領域が広がったことになる。

乾燥した舗装路を走っただけなので、新旧の変化を感じ取れた自信はないが、2WD車と4WD車との違いは、はっきりと体感できた。マツダの4WDは、雪道などで前輪がスリップした際に初めて、後輪へとトルクを配分して走破性を高めるといった、緊急時の“お助けデバイス”に留まっていない。発進、加速、旋回、減速というあらゆるシーンにおいてタイヤの荷重変化に応じ、4本のタイヤの能力を効率的に引き出すべく、日常的に後輪にトルクを配分している。そのため、4輪がしっかり路面を捉えている感触がドライバーに伝わり、安心感につながる。日常的な走行シーンにおいてもありがたみを感じられるのは、マツダ4WDの大きなメリットだ。

サスペンション特性を変更したマツダ3の商品改良とは異なり、CX-30はサスペンションには手をつけていないという。ドライブしていてフラット感が増したように感じたのだが、それは気のせいだろうか。とはいえ、変更の有無はともかく、運転している時のフラット感の高さは印象的で素晴らしい。表現を変えれば、乗り心地がいい。特に、多くのコンパクトSUVが苦手としがちな後席の快適性に関しては、敵なしの印象だ。

商品改良を受けたCX-30が、エンジンを中心としたドライブトレーンの改良によってさらに魅力を高めたのは間違いない。走って良し、移動空間として過ごして良し、十分な広さの荷室があって使い勝手良しと、総合バランスに優れている。コンパクトSUVとしての魅力に、一層磨きが掛かったといえるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆X Lパッケージ(2WD/AT)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1540mm
車重:1490kg
駆動方式:FWD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
エンジン最高出力:190馬力/6000回転
エンジン最大トルク:24.5kgf-m/4500回転
モーター最高出力:6.5馬力/1000回転
モーター最大トルク:6.2kgf-m/100回転
価格:374万5480円

>>マツダ「CX-30」

文/世良耕太

世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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