F1譲りの心臓部と好相性!MT仕様の「メガーヌR.S.トロフィー」は操る楽しさが超濃密

■メガーヌR.S.はルノー・ブランド最後のスポーツモデル?

量産FWD(前輪駆動)車最速のDNAを受け継ぐのが、ルノーのメガーヌをベースに仕立てられた高性能バージョン、メガーヌR.S.とR.S.トロフィーだ。“R.S.”とはルノー・スポールの略である。

ルノー・スポールはふたつの組織で構成されている。ひとつはルノー・スポール・レーシングで、もうひとつはルノー・スポール・カーズだ。“レーシング”はF1を頂点とするモータースポーツ向けの技術開発を行う組織。一方の“カーズ”は、モータースポーツ活動で培った知見を生かし、スポーティな味つけの市販車を開発する組織である。メガーヌR.S.は後者で開発が行われた。

ご存じの方も多いと思うが、近年ルノーは、モータースポーツ活動をアルピーヌ・ブランドに集約しつつある。ルノー・ブランドで行っていたF1参戦活動を2021年からアルピーヌに切り換えたのがその象徴だ。市販スポーツモデルの開発も、ルノーではなくアルピーヌに集約させる流れ。こうした動きを見ると、今後、ルノー・ブランドの新しいスポーツモデルが出てくるとは想像しづらい。メガーヌR.S.は、モータースポーツ直系としては最後のR.S.になるかもしれない。そう思って対峙すると、特別な感情がわいてくる。

過酷なことで名高いドイツのニュルブルクリンク北コース(全長約20.6km)でメガーヌがタイムアタックを始めたのは2代目モデルからで、2008年には8分16秒9という当時の量産FWD車最速記録を打ち立てた。2011年には、足回りなどに手を加えた「メガーヌR.S.トロフィー」で8分7秒97へとタイムを更新。2014年には、第3世代の“メガーヌ3”に設定された「メガーヌR.S.トロフィーR」で8分の壁を破る7分54秒36を記録している。そして現行型の“メガーヌ4”では、空力や足回りの強化、徹底した軽量化によってさらにタイムを短縮。2019年4月に、メガーヌR.S.トロフィーRで7分40秒100の新記録を樹立している。

ニュルブルクリンクでタイムアタックに挑むR.S.トロフィーRが、サーキットにおける“ラップタイム至上主義”のコンセプトでまとめられたモデルなら、“R”の付かない“フツー”のR.S.トロフィーは、公道での使用を基本に“サーキット走行にも耐えられる仕様”としたモデルである。つまり、メインの走行ステージをサーキットに置いたのがR.S.トロフィーR(日本では2020年に50台限定で販売された)、公道に軸足を置いたのがR.S.トロフィーというわけだ。ちなみにラインナップには、もっと公道寄りに仕立てられたスタンダードなR.S.も存在する(それでもベースとなった「メガーヌ」に比べれば、はるかにスポーティだが)。

■よりレーシーなムードが漂うR.S.トロフィーの室内

素のR.S.とR.S.トロフィーの最大の違いは、後者には“シャシーカップ”が与えられていること。より正確に内容を記せば、足回りのチューニング度合いが異なる。マニアックに深掘りすると、スプリングレートがフロントで23%、リアで35%高められているほか、アンチロールバーの剛性が7%高められ、ダンパーレートは25%高く設定されている。また、フロントのバンプストッパーは10mm長くなっており、実質的にスプリングレートを上げたのと同じ効果を発揮する。

一般的に、サーキットを走ると荷重移動が大きくなるが、コーナーに進入した際のロールを抑え、より姿勢を安定させようというのがシャシーカップの狙いだ。スプリングレートはフロントよりもリアをより硬くしていることから、ロール剛性の配分をリア寄りにし、素のR.S.よりもリアタイヤを積極的に働かせようとする意図が感じられる。これは、限界域での走行でフロントタイヤの余力を残しておくためだろう。

またディファレンシャルギヤは、素のR.S.が電子制御多板クラッチタイプなのに対し、R.S.トロフィーのそれはヘリカルギヤの組み合わせで構成されるトルセンLSDとなる。歯車のみで構成されるトルセンLSDの特徴は、動作が確実でリニアなこと。そのため、コーナリング時のアクセルのオン/オフによる車両姿勢のコントロール性に優れる。サスペンションと同様、これもサーキット走行を念頭に置いた選択だ。

そんなR.S.トロフィーは、フロントブレーキにも専用品をおごる。素のR.S.は一般的な鋳鉄の1ピースタイプだが、R.S.トロフィーが鋳鉄製のベンチレーテッドディスクにアルミ製ハブを組み合わせた2ピースタイプとなる。2ピースタイプ(“フローティングマウント”とも呼ばれる)は、熱によるディスクの変形が抑えられる分、負荷の高い走行時の制動安定性に効果を発揮する。また、ハブの強度や剛性が求められなくなる分、ハブに軽量素材を採用することが可能となる。そのメリットを生かし、R.S.トロフィーは1輪当たり1.8kg(左右合わせて3.6kg)の軽量化を果たしている。

インテリアは、シート生地などに人工スエードの“アルカンターラ”を採用するのは素のR.S.と同じだが、R.S.トロフィーはシート自体がレカロ製となる。同じなのはシートの表皮だけといってよく、フォルムは全くの別物。素のR.S.はヘッドレストが別体なのに対し、R.S.トロフィーのレカロシートはヘッドレスト一体のバケットタイプとなる。

これにより。室内の印象は大きく異なり、R.S.トロフィーはよりレーシーなムードが漂う。

■足回りのセッティングは明確にサーキット向き

R.S.トロフィーには“EDC”と呼ばれるデュアルクラッチ式の6速ATと6速MTが設定されるが、今回試乗したのは6速MTの方だ。素のR.S.にはEDCのみの設定なので、MTのメガーヌR.S.が欲しい場合、選択肢は必然的にR.S.トロフィーとなる。ちなみにMTを選択すると、パーキングブレーキは電動式ではなくレバー式になる。

エンジンが生み出すパワーを自在にコントロールできるのがMTの利点だが、メガーヌR.S.トロフィーはそのメリットを存分に味わえる1台だ。操っていてうれしくなるのは、エンジンが素晴らしいことの証でもある。1.8リッターの直4ターボエンジンは、300馬力の最高出力を発生。最大トルクはEDCの42.8kgf-mに対し、MTモデルは40.8kgf-mと若干見劣りするが、これはトランスミッションの許容トルクの差に対応したものだろう。とはいえ実用上は、2kgf-mの違いなどなんら影響を及ぼさない。

メガーヌR.S.トロフィーのエンジンは、スムーズな吹け上がりに感動すら覚える。「本当にターボ仕様なのか?」、「排気量は本当に1.8リッターしかないのか?」と首をかしげたくなるほど、アクセル操作に対して俊敏に力が湧き上がり、相当力強い。さらにいうと、刺激的なサウンドも鳥肌ものだ。

メガーヌR.S.トロフィーのエンジンは、ターボチャージャーの軸受(ベアリング)に、フリクション低減効果がより高いセラミックボールベアリングを使用しているが、このF1を始めとするモータースポーツ由来の技術が効いているのだろう。アクセル操作に対するレスポンスは抜群で、だからこそ、任意のエンジン回転をドライバーの意志で選びやすいMTとの相性がいい。アクセルペダルを操作する右足の動きとエンジンが生み出す力、そして、その力がタイヤへと伝わって加速を生み出す際のダイレクトなフィーリングが、MTで操るR.S.トロフィーの身上だ。

公道での快適性においてもなんら問題のない素のR.S.と対比させると、R.S.トロフィーの引き締まった足回りは明確にサーキット向きであることを感じる。路面のアンジュレーション(うねりや起伏)によってはスプリングと共振し、内臓に響くような振動が襲ってくることもある。これについては覚悟が必要だろう。ただし、クルマの機敏な動きや走行時の姿勢の安定性など、締め上げられた足回りの恩恵は公道でも十分に享受できる。

サーキットスペックに仕立てたメガーヌR.Sトロフィーは、サーキットを攻め込む気分を一般公道でも疑似体験できる硬派なモデルだ。特に今回ドライブしたMT仕様は、エンジンパワーをドライバーが任意にコントロールでき、操る楽しさを存分に味わえる。とはいえ、決して格好だけの見かけ倒しではないため、ドライブする際はそれなりの覚悟が必要だ。

<SPECIFICATIONS>
☆R.S.トロフィー(MT仕様)
ボディサイズ:L4410×W1875×H1465mm
車両重量:1460kg
駆動方式:FWD
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:300馬力/6000回転
最大トルク:40.8kgf-m/3200回転
価格:494万円

>>ルノー「メガーヌR.S.」

文/世良耕太

世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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