急速充電にも対応したPHEV メルセデス「A250eセダン」は走りの二面性が個性的

■ピュアEVの普及にはまだまだ高いハードルがある

未来を先取りしたクルマといえば、多くの人はEV(電気自動車)を思い浮かべるだろう。EVの特徴は、“走行中”に限れば地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出しないこと。補助金などの政策もあって、今後日本でもジワジワと販売台数が増えていくと見られている。

そんなEVは、スムーズな加速フィールなど走り味に楽しさや心地良さを感じられるのも魅力。加えて、自宅に充電環境が整っていれば、ガソリンスタンドへ給油しに行く必要がないため、面倒な手間いらずという実用面でのメリットもある。今、EVを日常のアシにした場合、こちらの方を魅力的に感じる人も多いはずだろう。

しかし、EV購入に際しては、決して低くないハードルが存在するのも事実である。

ひとつ目のハードルとなるのが航続距離。一般的なガソリン車やディーゼル車、そしてハイブリッドカーなどは、1回の満タンで500km以上程度走れるモデルが多いのに対し、1度の満充電でそこまでの距離を走れるEVはわずかしか存在しない。

おまけにEVは、充電に時間を要することも大きなハードルだ。急速充電器を使っても、500km走れる分の電気を蓄えるには1時間以上要するのだから、「途中で充電すればロングドライブだってOK」と、気軽にはいいがたいのである。

さらに補助金を使えるとはいえ、EVの価格は同クラスのエンジン車に比べればまだまだ高価。こうした価格の問題も、EVの普及を妨げるひとつの要因となっている。

■EVのような乗り味とエンジン車の利便性を兼備したPHEV

これらEVのデメリットから、「電動車への乗り換えはまだまだ時期尚早」と感じている人も多いのではないだろうか? そんな人にこそぜひ知って欲しいのがPHEVだ。

PHEVは、日本車でいうとトヨタの「プリウス」や「RAV4」、三菱の「アウトランダー」などに搭載されている機構で、その特徴はEVとハイブリッドカーの美点を“いいとこどり”していること。エンジン車やハイブリッドカーと同様、燃料を給油し続ければどこまででも走り続けることができ、ユーザーに不便を強いてこない。

一方、バッテリーには家庭用充電器などからの外部充電も可能で、例えば「プリウスPHV」なら約70kmの距離を、エンジンを止めてモーター駆動のみで走れる。これだけの距離を走れれば、日常の移動には十分事足りるだろう。普段はガソリンを使わずEVのような乗り味を実現しながら、エンジン車と同様にロングドライブも不便なくこなせるというふたつの顔を備えているのがPHEVなのである。

そんなPHEVは、ヨーロッパ車のラインナップが充実している。中でも積極的にラインナップを拡充しているのが、ドイツのメルセデス・ベンツだ。セダンのラインナップだけを見ても、今回フォーカスする最小モデルのAクラス、中心的存在の「Cクラス」(2022年上陸予定)、そして「Eクラス」と多くのモデルに展開。現時点では、フラッグシップの「Sクラス」には用意がないが、先代モデルに存在していたことを考えると、追って現行モデルにも登場すると考えるのが自然だろう。

■日本の急速充電器の規格にもしっかり対応

今回はそんなメルセデスのPHEVから、AクラスのPHEVであるA250eを取り上げる。A250e には5ドアハッチバックとセダンが設定されているが、今回試乗したのは後者の方。何を隠そう、メルセデスのコンパクトカーとして初のPHEVというのが、このモデル最大のトピックだ。

搭載するエンジンは1.4リッターの直列4気筒ターボで、バッテリー容量は15.6kWh。普通充電のほかCHAdeMO(チャデモ)と呼ばれる日本の急速充電器の規格にもしっかり対応している。ちなみにモーターのみで走れる航続距離は、WLTCモードで70.2kmと発表されている。

PHEVといえばエコカー、というイメージが強いが、A250eの内外装にエコカーらしさは皆無。ガソリンエンジンを搭載する「A180」やディーゼルターボ車の「A200d」ではオプション扱いとなる「AMGライン」が標準装備されており、大きく口を開いたフロントバンパーやサイド&リアスカートが装着された上、18インチのタイヤ&ホイールを履くなど見た目はスポーティグレードそのものだ。

タイヤの銘柄はそのクルマのキャラクターを見分ける目安となるが、試乗車はピレリの「チントゥラート P7」というプレミアムコンフォートタイヤを装着。エコタイヤでないことからも、A250eは走りの面でも特にエコを意識したクルマではないことが伝わってくる。

インテリアも同様で、赤いステッチのアクセントが目立つスポーティな仕立てとなる。

一方、実用性においては、ラゲッジスペースのフロアが他のグレードより4cmほど高く、荷室容量が減っているのが唯一の違いだ。

そのため、もし購入を検討する場合は、あらかじめ実車でチェックしておくことをおすすめする。

■走行モードを変えることで二重人格のように走りがキャラ変

A250eのハンドリングは、驚くほど完成度が高い。車重は1690kgとガソリン車と比べて約300kgも重いが、コーナリングではそれを感じさせない安定感があり、スポーティな走りを楽しめる。ハンドルを切ってからの反応が鈍かったり、イメージ通りに曲がってくれなかったりという重さによるネガを感じさせないのは、走行用バッテリーを搭載することで、前後重量バランスの最適化や低重心化を実現しているからだろう。

加速フィールも、160馬力のエンジンに75馬力のモーターが加わるから、力が足りないといった印象は一切なし。それは、30.6kgf-mという極太のトルクを、動き始めるところからすぐに発生させることのできるモーターの力強さゆえ、といってもいいだろう。特に、発進加速時の軽快感はエンジン車にはない力強い感覚があり、なかなか魅力的である。

走りといえば、A250eは「C(コンフォート)」、「ECO(エコ)」、「S(スポーツ)」に加え、可能な限りエンジンを止めて走る「EL(エレクトリック)」、バッテリー残量を一定に保つ「BL(バッテリーレベル)」、そして味つけをカスタマイズできる「I(インディビジュアル)」という6種類の走行モードを用意。「6つもあると迷いそうだ」と思う人もいるかもしれないが、日常は「C」もしくは「ECO」に入れ、エンジンを止めて走りたいときだけ「EL」を使うようにすれば事足りる。

走行モードを切り替えながら走ると、まるで二重人格のように走りのキャラが変わることに驚かされる。

「EL」の走りはまるでEVのようであり、エンジンが止まるため当然ながら音や振動は伝わってこない。モーターによる走行フィールはスムーズで、車速もしっかり伸びる。その上、モーターがとにかく粘り、バッテリー残量さえあれば100km/hを超える領域でもエンジンが掛からないのには驚いた(最高140km/hまでエンジンを止めた状態で走れる)。またアクセルペダルに「これ以上踏み込むとエンジンが掛かる」という領域を教えてくれる、踏力が重くなるポイントが存在するのは面白い工夫といえるだろう。

一方、走行モードを「S」にすると、基本はエンジンで走るようになる。そのため走り味はエンジン車のような感覚が強く、その上、3リッター自然吸気ガソリンエンジンに匹敵する強力なトルクを誇るモーターがブースターとして働くため、ハイパワーモデルと錯覚しそうなほど力強い。その時の躍動感はガソリンエンジンを搭載するスポーツカーに匹敵。ガソリン車の走りが好きという人も、これなら納得できるはずだ。

日本メーカーのPHEVはスポーツモードでもモーターで走る感覚が強く、エンジンの存在感が希薄である。その点A250eは、それとは全く逆の、あえてエンジン車らしい走行フィールに仕立てている。そんな「S」モードと、あたかもEVっぽい「EL」モードを兼備した2面性こそが、日本メーカーのPHEVにはないA250eの面白さといえるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆A250eセダン
ボディサイズ:L4560×W1800×H1460mm
駆動方式:FWD
エンジン:1331cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:160馬力/5500回転
エンジン最大トルク:25.5kgf-m/1620〜4000回転
モーター最高出力:102馬力
モーター最大トルク:30.6kgf-m
価格:600万円

>>メルセデス・ベンツ「Aクラス セダン」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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