【惜別試乗】さようならC5、さようならシトロエンのハイドロ

空飛ぶジュータンの秘密はサスペンション。“ハイドラクティブIIIプラス”です。1950年代後半に、ほかならぬシトロエンの手によって開発されたハイドロサスペンションの最新版であり、これまでも独特の浮揚感ある走りが絶賛されてきました。

ちなみにハイドロサスは、空気(実際は窒素ガス)をバネに、油で姿勢を制御しています。独特の浮揚感を生み出す要因のひとつは、空気バネ。空気を入れた注射器を思い浮かべると、分かりやすいかもしれません。出口に栓をして注射器を押すと、最初は柔らかいのに、奥に行くほどどんどん硬くなりますよね。アタリが柔らかいのにコシがあるといわれる、これがハイドロ独特の走行フィールなのです。

さて、孤高の存在感を保ってきたハイドロですが、とても残念なニュースが舞い込んできました。シトロエンのハイドロ、ついにディスコンが決定したようなのです。これには日本だけでなく、世界中のシトロエンファンがザワついているようですよ。

この事態を受け、輸入元であるプジョー・シトロエン・ジャポンから発売されたのが「C5ファイナル・エディション」です。国内限定60台という惜別のハイドロモデル。この機会を逃すまいと、最後のハイドロを堪能してまいりました!

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コレ、乗った瞬間に違いが分かります。“水と油”は仲が悪いのに、“空気と油”は実に仲良しなんですね。まず、アクセルをオンしてもノーズアップなし。「ん? ノーズアップしないなんて普通だよね?」とおっしゃる方、その通りです。しかしC5に乗ると、普通のクルマがいかにノーズを上げているかに気づかされます。とてつもない、フラットライド。

このフラットライド感に対して、エンジンのフィーリングも抜群です。もっと排気量が大きいのかと思ったら、1.6リッターのターボユニットなのですね。6速ATがよく躾けられていて、フワーと間断なく加速してくれるキャラクターが、まさにC5にピッタリ。

ファイナル・エディションの内装は、モノトーンで落ち着いています。フランス車のイメージからすると少し硬派な印象ですが、ドイツ車から乗り換えたとしても違和感ありません。ユニークなのは、ステアリングホイールを回しても、大きなセンターパッドは一緒に回らず、そのままドライバーに正体して留まるところ。嫌いじゃありません。

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スルスルと加速して、高速道路をクリージングすることにしました。思わず口角が上がります。同乗者がいたら、試しに写真を撮ってもらうといいでしょう。きっと口角、上がっているはずです。

かつて経験したことのない浮揚感。コレはやはり、空飛ぶジュータンですね。念のため「空飛ぶジュータンやキン斗雲なんて乗ったことないから伝わらない」という方には、凪の海で大型クルーザーに乗っているかのよう、と説明申し上げたいと思います。ただし、クルーザーで海を進む時に感じる水の硬さが、C5にはありません。もっと、ずっと無抵抗。水面からも解き放たれたフィーリングです。

少し解説しますと、C5は単にフラットを保っているわけではないようです。高速走行では空力特性を良くするために、実はノーズを下げているのだとか。ステアリングを握っていて実感できるものではありませんでしたが、油圧を利用して姿勢制御へ積極的に介入しているようです。

例えば、停車中にリアゲートを開けると、荷物を積み下ろしやすいようリアサスを下げて床を低くしたり、走行中に段差を越える時や、凸凹道を走る際は、車高を上げてクリアランスを広げたり。多彩なシーンで、ハイドロがドライバーをサポートするようにできています。縁の下の力持ち。なんか惚れちゃいますね。

短い時間での試乗ではありましたが、これまでハイドロが世界中にファンを作り、愛されてきたのも納得です。こんなのほかに見当たらないですから。同時に、日常の足にしてもっと乗り込めば、ハイドロの奥深い世界が待っているのでは? と感じています。

どうでしょう、最後のハイドロ。ちょうどクルマの買い替えを考えていた方は、超絶ラッキーなタイミングかもしれませんよ。

<SPECIFICATIONS>
☆C5ツアラー ファイナル・エディション
ボディサイズ:L4845×W1860×H1490mm
車重:1680kg
駆動方式:FF
エンジン:1598cc 直4+ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:156馬力/6000回転
最大トルク:24.5kg-m/1400-3500回転
価格:502万5000円

(文・写真/ブンタ)

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