【オトナの社会科見学】日産GT-Rの精緻さは人の“手ワザ”から生まれていた!

現在、日産自動車の国内主力工場は、全国に6カ所あります。エンジン製造を手掛けるいわき工場と横浜工場。車両の組み立てを担当する追浜工場、日産車体湘南工場、日産自動車九州、そして、GT-Rの故郷である栃木工場という陣容です。

栃木工場は、約293万㎡という敷地面積を誇る国内最大の工場であり、年間約25万台という生産能力を有しています。1968年の操業開始時は鋳造部品の製造を担っていましたが、’71年に車両の組み立て工場が完成。現在は、海外向けインフィニティブランドの中大型車、そして「フーガ」や「スカイライン」、「フェアレディZ」といった国内向けの高級車・スポーツカーを製造します。さらに栃木工場内には、1周6.5kmという巨大なテストコースも併設されているなど、とにかく広大です。

そんな栃木工場で、GT-RはフェアレディZなどと同じ製造ライン、つまり、複数の車種が流れる“混流生産”方式で作られています。工場内には、部品を積んだ無人運搬機がひっきりなしに行き交っており、必要な場所に必要な部品を随時届けています。これを止めてしまうと生産ラインに影響が及ぶため、見学前には注意事項の説明を入念に受けたのですが、それもそのハズ。車体のアッセンブリーラインだけで全長900m。必要な部品が届かないからちょっと取りに行く…、なんてワケにはいかないのでした。

さて、製造ラインを見ると、約6m間隔でフェアレディZやスカイラインがコンベア上をゆっくりと進んでいきます。現在はこのラインだけで、1日約210台がラインオフしていますが、GT-Rは輸出用を合わせても、平均して1日数台というペースなのだとか。1000万円級の高額車ですから飛ぶように売れる、ということはないのですが、GT-Rの組み立てにはこだわりが詰まっており、その分、手間も掛かるため、最大でも1日20台程度の生産が限界だといいます。

ご存知の方も多いかと思いますが、GT-Rのエンジンは“匠”と呼ばれる4名の職人が手で組み立てています。“最先端の電子装備を満載した最新スポーツカー”と聞くと、すべてオートメーション化された無人工場での組み立てを想像してしまいますが、こちら栃木工場のラインも、内外装をはじめ、エンジンやギヤボックス、サスペンションの装着まで、想像よりもはるかに多くの“人の手”による作業が行われています。

もちろん、重量物を持ち上げる、パーツを締め付ける、など、人の動きをサポートする最先端のロボットが随所に配置されていますが、肝心の“組み付け”や“調整”は、ほぼ人の手による作業といった印象です。例えば、ショックアブソーバーや足まわり部品などは、ロボットアームの補助により持ち上げる力は要りませんが、周囲のパーツに注意を払いながら、人の手で装着されていきます。その際、指定の位置に寸分のズレもなくピタリと収める様子は、まさにお見事。職人ワザという言葉がピッタリでした。

組み立ては外装や内装、エンジンなど、パートごとにまとめられており、工程ごとに入念なチェックを受けるほか、組み立て完了後も検査の数々が続きます。このように、出荷までに幾度となくチェックをくり返すことで、GT-Rが工業製品として高い精度と品質を実現しているのは事実。しかし、高品質なモノづくりの根本を支えているのは、匠の称号こそありませんが、寡黙にして冷静、正確にして精密に作業をこなす、栃木工場の“職人”たちであるのは間違いありません。

ロングドライブで感じた、飛ばさなくても感じることのできるクルマとしての出来の良さ。低速域での扱いやすさに代表される感触のチューニングやGT-Rならではの味わい。そして所有する悦び…、そうそう、ドアの開閉だけでも分かる高い精度感も、その一端でしょう。それらを生み出しているのは、少量生産を謳う欧州製のライバルにも全く劣ることのない、日産自動車 栃木工場のクラフトマンシップなのだ、と改めて実感したクルマ旅でした。

<SPECIFICATIONS>
☆プレミアムエディション
ボディサイズ:L4710×W1895×H1370mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3799cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:570馬力/6800回転
最大トルク:65.0kg-m/3300〜5800回転
価格:1170万5040円

(文/村田尚之 写真/村田尚之、日産自動車)

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