初代「ロードスター」のレストアサービスは、マツダの情熱とこだわりの塊だった!

そうなると気になるのは、サービスの具体的な内容ではないでしょうか。現時点では、現在、手に入らないパーツの復刻と再供給、そして、ユーザーのクルマを預かってのレストアサービスが予定されています。

レストア作業に臨むには、まずはパーツの確保が重要となりますが、販売終了から長い時間を経たNAでは、近年、いくつかの重要部品が入手できなくなっていました。その中には、純正タイヤやソフトトップ、ナルディ社製のステアリングやシフトノブなど、“ロードスターらしさ”を象徴するパーツも多数あったのです。

「まずは、NAならではの、オリジナルのドライブフィールを大事にしたいと考えました。とはいえ当時の純正タイヤは、すでに生産が終了。タイヤは乗り味に直結しますから、絶対にタイヤは復刻したいと考えました。レストアサービスの件をタイヤメーカーの方に相談したところ、ブリヂストンさんが『ぜひやりましょう!』と賛同してくれたのです。

でも、設計図を元に検討会を開いてみても、なかなか納得できるタイヤにはたどりつけず…。そこで、マツダ・ミュージアムに展示されているNAの純正タイヤをお持ち帰りいただき、図面だけでは分からない内部構造などの調査もお願いしました。加えて、当時の“BSロゴ”の復刻もお願いしたのですが、そちらも快く引き受けていただきました」

ブリヂストンでも、さすがに当時の型は廃棄されていたということですが、同社は新たに型を起こし、純正タイヤの形状やトレッドパターンを復刻。とはいえ、タイヤの特性を左右するコンパウンドだけは、さすがに当時のものを入手できなかったため、両社の担当者が試行錯誤を繰り返したといいます。

「コンパウンドは、現在、入手できるものの中から、最も当時のものに近い仕様を選びました。当初は、なかなか当時の乗り味を再現できませんでしたが、何度も修正を重ねることで、オリジナルのフィーリングを再現できたと思います。マツダにもブリヂストンにも、NAの開発に携わっていたエンジニアがまだ残っているので、検討会や試乗会ではそのメンバーたちにも立ち会ってもらったのですが、やはり皆さん、NAに対する思い入れは深いようで、会話も自然と盛り上がりましたね(笑)」

ビニール製のソフトトップもNAロードスターらしいパーツといえますが、こちらも長らく、入手不可能な状態にありました。NAはスクリーン部分が透明のビニール製で、紫外線や風雨による経年変化、また、折り畳み時に生じるシワなどで、劣化が進んでしまったクルマも少なくありません。

「当時、ソフトトップの生地はドイツから輸入していたのですが、すでに現地でも生産中止になっていました。リアスクリーンがガラス製の、NB用の幌を改造して装着しておられるオーナーさんもいらっしゃるのですが、それだとスクリーンだけを開けて風を浴びながら走る“NA開け”ができません。そこで、当時と同じ品質、質感の幌やビニールを世界中から探し出し、なんとか復刻することができました。

また、ナルディ製のウッドステアリングやシフトノブも欠品だったので、リペアして再使用することを検討していました。ところが、ダメ元でメーカー本国の担当者に相談してみると『当時の素材がまだあるので、協力しましょう!』との回答をいただいたのです。こうしたサプライヤーの方々とのやりとりも、いい思い出ですね」

パーツのサプライヤー側にしてみると、生産が終了した部品の型や製造機具を所有し続けることは、コストなどの面を考えると大変なこと。しかも、NAは長寿モデルで、グレードやモデル展開も複雑だったため、さすがに欠品パーツすべてを再生産することはできませんでした。それでも山本さんは、今後もサプライヤー側と再供給に関する交渉を継続していくそうです。

さて、パーツの再供給以上に、多くのNAファンが注目しているのは“車両を預けてのレストア作業”の方だと思います。自動車整備工場で行う“修理”とは何が違うのか、どのような手順なのか、気になる点も多いことでしょう。

「車体やパーツの分解、洗浄、塗装といった作業は、マツダの宇品工場内に併設されたファクトリーで行います。エンジンもリビルト工場で修復する予定です。

お申し込みの受付は、基本的に本社で行う計画で、クルマをこちらへお持ち込みいただくことになります。また、車両状態はクルマごとに異なりますから、あらかじめ入念にチェックし、お引き受けできるかどうかを確認します。大きな事故を経験したクルマなど、修復できないクルマをお引受けしてしまい、分解後に『やっぱりできません』というわけにはいきませんからね。その後、どこまでレストアを施すのかをオーナーの方と面談。そして、最終工程まで本社で作業するという流れになります。ちなみに、関東地方での受付も検討しているのですが、その場合、私とエンジニアが面談に伺う予定です」

まさに、生まれ故郷に里帰りしての徹底したレストアサービス。車両の診断を重視する点は、メーカーならではのこだわりを感じさせる部分といえるでしょう。それゆえ、必然的に完成度への期待が高まりますが、依頼するオーナーは、愛車が復活する姿を直接目にしたり、余すところなく記録に残しておきたいと思われたりするのではないでしょうか?

「レストアをご依頼いただいたオーナーの方には、可能な限り作業をご覧いただけるようにしたいと考えています。また、クルマの修復データをお渡しするのはもちろん、補修内容や補修箇所をビフォー/アフターのスタイルでチェックいただけるよう、写真などの記録をブックレットにまとめ、お渡しすることも検討しています。今回のサービスでは、こうしたプロセスも大事なことだと思うのです。そして完成した暁には、そのブックレットにマツダの認証をつけ、私のサインも入れる予定です」

【次ページ】レストアしたNAロードスターの価値を高める施策も検討中

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