実は隠れたブーム!? レプリカ世代なら気になる今ドキの2ストバイク事情

▲1988年式ホンダ「NSR250R SP」

その後のレーサーレプリカブームでは、多くの魅力的な2ストマシンが世に送り出されます。なかでも伝説的な存在となっているのがホンダの「NSR250R」。乾式クラッチなどを装備した“SP”も人気でした。特に写真の1988年式は「実際は60馬力以上出ている」というまことしやかな噂があり、“ハチハチ”と呼ばれて今でも別格の扱いを受けています。

実は、この「NSR250R」、ジムカーナのレースでは今でも現役というかトップに君臨し続けています。最終型でも1993年式なので、約30年を経過しても第一線で活躍を続けられるとは、いかにこのマシンの完成度が高かったのかが分かります。

▲1989年式ヤマハ「TZR250」

レーサーレプリカといえば、ヤマハの「TZR250」も忘れてはいけない存在です。「NSR250R」のライバルとして、サーキットや公道でもバトルを繰り広げていました。特に1989年と90年に発売されたモデルは、“後方排気”と呼ばれる前方に吸気口、後方に排気口を設けた通常とは逆の構造を採用し、吸排気をスムーズにすることを狙っていました。チャンバーの排気口がシートカウルにあるので、後方を走ると顔に白煙を吹きかけられるようなマシンでした。

▲2000年式ヤマハ「RZ50」

レプリカブームとともに全盛期を迎えた2ストマシンでしたが、その後は排出ガス規制が厳しくなったことで、急速に国内のラインナップから姿を消していきます。その波は50ccの原付一種にも及び、2000年には国産メーカーのラインナップからは2ストモデルは姿を消しました。

メーカーのラインナップからなくなったことで、レースの世界もそれまでの2スト中心から4スト化が進み、特にロードレースでは2ストマシンの活躍の場はほとんどなくなってしまいました。その後は、エンデューロなど一部のレーシングマシンで、細々と2ストマシンの販売が続くことになります。

 

■オフロードでは再び2ストブームが到来!?

しかし、ここに来て、一部で2ストマシンの人気が再び盛り上がって来ています。

近年のオフロードの世界では、“ハードエンデューロ”と呼ばれる過酷な岩山などのシチュエーションで争われるレースの人気が高まっていますが、そうしたレースでの上位入賞はほぼ2ストマシンが占めているのです。軽量で瞬発的なパワーがある特性が、過酷でグリップの悪い路面状況にはマッチしている様子。今やハードエンデューロは“2ストでなけれ勝てない”と言われるまでになっています。

このように一部で2ストブーム再来のようなことが起きているのは、KTMやハスクバーナなどのメーカーが2ストマシンの開発と刷新を続けてきたからです。国内メーカーでは、ヤマハが公道走行のできない競技用のモトクロッサー「YZ」シリーズで2ストマシンの販売を続けてきました。そして今年、125ccモデル「YZ125」を17年ぶりにフルモデルチェンジ! 令和の時代になっても、2ストマシンの開発を続けているのはファンにはうれしい限りです。

▲ヤマハ「YZ125」2022年モデル

新型の「YZ125」はシリンダーからクランクケースまで、すべてのエンジンパーツを一新。排気バルブ “YPVS(ヤマハパワーバルブシステム)”も刷新し、スムーズなトルク特性を実現しているとのこと。

燃料供給は昔ながらのキャブレターで、競技専用車両のため公道を走ることはできませんが、この時代になっても開発が進んでいるのは、エンデューロマシン「YZ125X」のベース車ともなっていることが大きいでしょう。

▲ヤマハ「YZ125」の「Monster Energy Yamaha Racing Edition」(US仕様)

「YZ125」の2022年モデルは73万7000円で、10月28日より発売されます(「Monster Energy Yamaha Racing Edition」は74万8000円)。250ccの「YZ250」も2ストが用意されています(価格は78万1000円)。

大きく進化しているのが、KTMやハスクバーナなどの欧州メーカーの2ストマシンです。基本的にエンデューロ競技向けの車両ですが、燃料供給はインジェクションになっていて、セルスターターを装備。片足しか付けないようなハードなシーンでもエンジン始動するための装備です。

特にKTMやハスクバーナのマシンに搭載される「TPI」エンジンは、燃料とオイルをそれぞれ掃気ポートに噴射するという構造を採用。競技専用車両でありながら分離給油でOKというのも進化を感じるポイントです。

▲KTM「150EXC TPI」

このタイプのエンジンはKTMでは「150EXC TPI」「250EXC TPI」「300ECX TPI」に搭載されていて、保安部品も装備されているため、ナンバーを取得すれば公道走行も可能です。価格は150が113万円、250が125万円、300が129万円。ハイエンドな競技車両のため、高価でメンテナンスも高頻度で必要ですが、公道走行可能な2ストマシンが存在することに感謝すべきなのかもしれません。

▲ハスクバーナ「TR250i」

現在はKTMと兄弟ブランドという位置づけになっているハスクバーナには「TE150i」(115万円)、「TE250i」(128万円)、「TE300i Rockstar Edition」(141万円)というマシンがあり、エンジンは基本的に同じもの。リアサスペンションがリンクレスのKTMのマシンに対して、こちらはリンクを装備しているなど、細かい部分が異なっています。

*  *  *

エンジンの特性も、現在の2ストマシンは20世紀のそれとは似て非なるものになっています。かつて2ストといえば、パワーバンドに入れば胸のすくような加速を見せるものの、それ以下の低回転では使い物にならないというイメージでした。それが、現行モデルは低回転から粘りのあるトルクを発揮し、低速での乗りやすさは4ストに勝るとも劣らないもの。それでいて、パワーバンドに入れた際の瞬発力は4ストでは真似できないものに仕上がっています。

逆風の時代のなかでも、2ストを諦めなかったメーカーの手によって、進化を続けてきた2ストマシン。かつてのように爆発的に販売台数が伸びるようなモデルではありませんが、ひっそりと、でもしっかり進化しています。

<文/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

 

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