10年で人気ブランドに。躍進を続ける「テンマクデザイン」ヒット商品開発の裏側

■素材はほぼすべて特注品

「企画から販売までは、アイテムによりますが、早くて半年、長くて4年ほどかかることもあります」

根本さんは、これまでバイヤーや店舗運営を始め、マーケティング、EC事業など、ワイルドワン事業部のほぼすべての業務を経験。現在では製品開発を一手に担っています。

テンマクデザインの商品には、比較的購入しやすい価格設定のものも多い印象ですが、商品企画から製品化までの道のりは決して安易なものではありません。

「まず私の方でラフ画を作成し、協力会社に送ります。協力会社は私のラフをもとにCADデータを作成し、詳細な仕様を決定していきます。メジャー片手に顔を突き合わせて、ここは何cm、ここはこういう風に織り込んで縫製して…など、とにかく細かいところまで決めていくんです。そこから詳細をまとめた指示書を工場に送って、サンプル品を作ります」

根本さんのデスクの中には常に方眼紙が準備されており、閃いたアイディアをいつでも書き起こせるようにしているそうです。

当たり前ですが、基本的にはすべての商品はフルオーダーメイド。ファスナーやバックルなどの汎用パーツ以外の部分については、全て細かく指定する必要があります。

「テントであれば生地はすべて特注になりますので、生地を“織る”ところからスタートです。素材や織り方、織り密度、色など、決めなければいけない項目はたくさんありますね。他にも防水や撥水のコーティングといった要素も指定していきます。もし、既存の生機(きばた/染色や仕上げ加工をする前の布生地のこと)を使用する場合でも、染色が必要になるため、使用する生地ひとつとってもすべて特注品ということになります」

▲ロールアップ用のトグルひとつとっても詳細な指示が必要

それ以外にも、取り付けるパーツの選定、パーツひとつひとつの長さや縫い方、縫い位置など、決めることは山ほどあります。

「サンプル品が届いたら、フィールドテストを行い、使用感の確認をしていきます。ここまでで大体半年程度かかりますね。狙い通りの仕上がりになっていれば、そのまま工場に生産を依頼します。修正無しでスムーズに生産が進めば、企画から10ヶ月程度で発売となります。もし、テストで改善点があるようであれば、修正を行い、再びサンプル品を作成、フィールドテスト…といった形です」

特にフィールドテストには力を入れており、商品によっては実際に登山やカヤックなどのアクティビティにも持ち出して使用感を確認することもあります。

▲新商品のフィールドテストも兼ねてアクティビティに出かけることも

企画から商品化までにはかなりの工数と時間がかかることに加えて、工場の生産状況や社会情勢などの影響を受けたり、コラボ商品であればコラボレーターの納得いく仕上がりになるまで調整を続けたりと、開発には様々な要因が絡んできます。

このように、既存品の廉価版といった印象のあるPBとは異なり、しっかりとした商品開発フローを取っているテンマクデザイン。リーズナブルであるための妥協は一切なく、そして開発背景は一般的なアウトドアブランドと同等。だからこそ、思わず唸らせられる使用感の良さや細部に至る高いクオリティを保持した商品の提供を実現しています。

 

■「アウトドアで閃くことは一切ない」

テンマクデザインはこの10年で600アイテム(パーツやオプション品含む)に及ぶアイテムを世に送り出してきました。2023年時点では、およそ350アイテムの商品を取り扱っており、多いときは年に70アイテム、少ないときでも10アイテムは発売しています。では商品開発の肝となるアイデアはどのようにして生みだされているのか。

自身も生粋のアウトドアマンである、根本さん。時間を見つけてはキャンプやシーカヤックでの旅、カヌーイングへ出かけます。20代の頃には明け方前にカヌーを漕ぎ出し、湖上でコーヒーを楽しんでから出勤することもあったと言います。

▲コラボ商品の「ヤリ3×3」。平地でのキャンプはもちろん、ハードな野外活動時にも活躍する品質・機能性の高さが人気

そんな根本さんに「商品アイデアはいつ思いつくのか」と聞いたところ、意外な答えが。

「よく『アイデアってキャンプ中に思いつくんでしょ?』と聞かれますが、私の場合は一切ないですね」

根本さんによれば、商品開発のアイデアには大事なふたつの要素があると言います。ひとつは「引き出しの多さ」、もうひとつは「引き出しを開ける時間」です。

「色々な経験が引き出しのように頭の中に入っていて、それがふいに結びついたときにアイデアのひらめきが起こるというイメージでしょうか。そのためにはとにかく遊ぶこと。自分の好きなアウトドアを目いっぱい遊ぶことで、経験が蓄積されていきます。その経験の中にはたくさんの気づきが詰まっています。それがすべてのアイディアの源泉です」

そして引き出しを増やすコツは、遊ぶときはとにかく遊ぶこと。余計なことは考えず、100%しっかり遊ぶ。仕事のことを考えている間に、体験の中で大事な要素を見落としてしまってしまっては元も子もありません。

「カヌーを漕いでるときなんて、夜に飲むビールの銘柄を何にするかで頭がいっぱいですよ。それくらい真剣に遊んでいないとアイディアは出てきません」と笑って話します。

ではアイディアを閃くのはどういうときなのかというと「クルマでの長距離移動中」。

「もちろんデスクに向かって、しっかりと腰を据えて商品開発を行うこともありますが、一番閃くのは移動中の車内ですね。次第に頭の中の引き出しが開いていって、ふいに結びつくんです」

根本さんにとって、車での長距離移動は思考をする大事な時間。イベント会場への移動やワイルドワン店舗への臨店では、4〜5時間ほど運転する機会が多く、その時は音楽などはかけず無音のまま運転をするといいます。

「これまで10年以上開発に携わってきましたが、私にとって一番閃くのはこの移動時間なんです。しっかりと思考できる時間、機会を自分の中で持てるかどうかが商品開発に必要なように感じます」

 

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