10年で人気ブランドに。躍進を続ける「テンマクデザイン」ヒット商品開発の裏側

■とにかく実物を見てもらう、触ってもらう

「いくら素晴らしいものをつくっても、伝えなければ、ないのと同じ」というのは、スティーブ・ジョブズの言葉ですが、アウトドア用品でも変わりません。

今ではアウトドア好きに知らぬ者はいないテンマクデザインですが、ブランドがスタートしてからは、まだ10年ほど。どのようにして、世のアウトドア好き達に知られていったのでしょうか。

「とにかく商品の露出機会を増やすことですね。ワイルドワン店舗でのテントの常設展示はもちろんのこと、この5〜6年の間では全国各地での展示会の開催に特に力を入れてきました」

▲店舗での常設展示は悩めるキャンパー達のテント選びを手助けしている

テンマクデザインを取り扱うワイルドワン各店舗では、人気のテントやタープなどを屋外で常設展示しています。アウトドアショップは数多くありますが、実際に屋外で実物を展示している店舗はそれほど多くはありません。特にテントのような大型ギアは、写真やスペック表示だけではわからないことも多く、実物を見て触れられる機会というのは我々キャンパーにとっては貴重な体験です。

また、アウトドアイベントにも積極的に出展。2023年には北は岩手、南は沖縄と、日本全国を飛び回って多くのキャンパーの目に触れる活動をしてきました。

こうして徐々に認知度を高めていく一方で、ワイルドワンが無い、あるいはアウトドアイベントが無いといった地域から「実物を見たい」という要望も多く寄せられたと言います。そこで、全国各地のキャンプ場や駐車場などを借りて、週末ごとに展示会を開催して回ることに。

「やはり良いものを作っても知られなければ意味がありませんので、地道ですが、見てもらえる、知ってもらえる機会というのはしっかりと作ってきたつもりです」

また、ブランドの認知ついては「店舗での接客」の影響も大きいと話します。

▲2023年度のグッドデザイン賞を受賞した「天幕燗銅壺(てんまくかんどうこ)」。古くからある民具の燗銅壺をアウトドアシーンに合わせてアレンジしたアイテムだ

アウトドア専門店ワイルドワンでは、専門知識を持っているスタッフが数多く在籍しています。どのスタッフも“大のアウトドア好き”。経験に基づく的確なアドバイスを交えた接客も同店の強みのひとつです。

顧客に直接関わる店舗スタッフたちが、他の何よりも優れた広告塔。そんな彼らに一番の“ファン”になってもらうのが最も重要だといいます。

「商品の良さを伝えるためには、まずその商品を知って、使って、好きになってもらうのが一番の近道です。好きなものほど誰かに伝えたくなりますし、熱も入ります。ですので、ブランドを知ってもらうためにも、社内でファンをいかに増やせるか、といったことにも力を入れているんです」

自社運営のキャンプ場を利用して定期的なスタッフ研修を行ったり、普段立ち会うことのない撮影会などのプロモーションに関わる現場に店舗スタッフを呼んだりと、テンマクデザイン商品をスタッフに知ってもらう機会づくりも積極的に行っています。

 

■著名人とのコラボ商品に込められた意味

テンマクデザインといえば、業界の著名人やインフルエンサーとのコラボ商品の開発でも有名です。それらコラボ商品はテンマクデザインの「今のニーズを具現化するもの」「これからのニーズを生み出すもの」という信念を体現するギアばかり。

▲キャンプ場の緑に生える真っ赤なビジュアルで大ヒットした「PANDA」。子供のファーストテントとして購入する人も

「PANDA」は“女性でも気軽にキャンプに出かけられるテント”というコンセプトで、人気女性キャンパーとコラボした商品。鮮やかな赤い生地に簡単設営のワンポール、誰でも購入しやすい価格、という当時の市場にはなかった設定で、女性はもちろん幅広い層に人気を博しました。

そんなコラボ商品も、同ブランドの認知戦略のひとつかと思いきや、真意は違うところにあるといいます。

「確かにブランド認知に繋がった部分もありますが、どちらかといえばそれは結果として。本来は、『今市場になくて、あったらいいな』を実現するための仕組み」であり、「『嬉しい、楽しい、キャンプをやってよかった』と思ってもらえるギアを生み出すことが目的」とのこと。

コラボレーターについても「大事にしているのはその方が『その道具を通じてどんなアウトドア体験をして欲しいと考えているか』や『今よりもさらにアウトドアライフを充実させたいという熱量がどれほどあるか』です。この点はテンマクデザイン、ひいてはワイルドワンの信念に繋がる部分ですが、ここに共感してくださる方の持つ夢を応援したい、一緒になって夢を実現させたい、というのがこの取り組みの真意です」と根本さんは言います。

私は数年前に一度、たまたまコラボを希望している方と根本さんが話をされている場に同席したことがありますが、その際も「どうしてそれを作りたいのか」「その道具でどう感じてほしいのか」「使った人にどうなってほしいのか」といった質問をしていたことが、とても印象的でした。

「なんて、堅苦しく話をさせてもらいましたが、つまるところ、コラボした商品でたくさんの人が喜んでくれればいいと思っています。なんでもかんでもいいわけではないですが、それがテンマクデザインの大事にしていることですから」

*  *  *

「テンマクデザインの開発をする上で、いちばん重要なことはなにか?」

この問いに対して根本さんはこう答えてくれました。

「『安心・親切・便利』。これは株式会社カンセキとしての社是、カンパニーポリシーでもありますが、10年開発に携わってきて、一周回ってここに落ち着きました」

「『安心』して使えなくてはいけない。当たり前ですよね。お客様がより安心して使えるクオリティでなければいけません。屋外で一晩二晩過ごすキャンプであれば何よりも大事です。『親切』でないといけない。どんなに格好良くても性能が優れていても使いにくかったらキャンパーのためにならないですよね。『便利』でなければいけない。買ってよかったと思ってもらえなければ意味がありません。購入してくださった人の体験をよりよくするものを生み出す必要があります。この2年ほどは特にそう感じますね」

安心・親切・便利。以前はそれ以外にも重要だと感じることもあったそうですが、開発を行う中で落とし込んで突き詰め続けた結果、この3つが最後に残ったのだと言います。

「これは取材だからって話ではなくて、本心、本音でそう思うんですよ」と照れくさそうに笑う根本さん。アウトドアの最前線から多くのアウトドアマンたちを支える縁の下の力持ちとも言えるテンマクデザイン。「今のアウトドア体験をよりよいものへ」。そう意識し続けて生み出されたギアだからこそ、PBとは思えない高いクオリティを実現し、人気アウトドアブランドに。現在のテンマクデザインのPBを超えた存在感は、当然の結果なのかもしれません。

>> テンマクデザイン

<取材・文/山口健壱

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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