■音楽配信の時代が始まり「オーディオは終わった」として退職
しかし、前出の通りGP-3は2000年代初頭に、人知れず姿を消します。
2000年代初頭はCDの存続すら危うくなりつつあり、いよいよ本格的に音楽配信時代へと突入しようとしていた頃。今でこそアナログレコードは、再評価される向きがありますが、この時代には「過去の産物」というイメージが高まったこともGP-3の生産終了の理由のひとつだったように推測します。
「それでもね、GP-3に関しては生産終了後も根強い支持があったと思います。
一度、大阪のアメリカ村を訪れた際、もう生産が終わったGP-3を新品で山積みで売っているお店があったんです。プレミアムで3万円近くの価格でしたけど、僕はそのお店に行って『これを作っていた者なんだけど、この値段で本当に売れるの?』って聞いたら『いや、すぐ売れますよ』なんて言っていて、ビックリしました。
つまり、90年代に音楽アーティストがGP-3コラボモデルを出してくれたりしたおかげで、当初我々が考えていた『価値』から、一人歩きして『評価』が高まっていき、支持が広まったいったんだと思います」(池田さん)
池田さんはそれからしばらくして日本コロムビアを退職します。
「僕は日本コロムビアでレコードや『電蓄』などを売っていました。やがてカセットテープが浸透し、さらにCDになり、今度はDATとかMDといったものが出始めて、その都度対応していたのですが、いよいよAppleが半導体オーディオを開発し、音楽配信の時代が始まりつつありました。
そのとき僕は『ああ、もうこれで完全にオーディオは終わったんだな』と思って、日本コロムビアを退職し、今はANABASをやっている太知ホールディングスに転職しました」(池田さん)
■アナログ・レコードの再評価が高まる理由とは?
ただし、池田さんの「完全にアナログ・オーディオが終わった」という思いは、良い意味で目算を裏切り、やがてアナログ・レコードの再評価が高まっていきます。
「アナログ・レコードが今再評価されて、ここ何年もずっと落ちないで売れ続けている理由は、音楽配信の反動とかも当然あるんでしょうけど、僕が思うにもっと身近なところでの事情があると思うんです。
たとえば、かつて裕福でアナログ・レコードをいっぱい持っていたお年寄りが亡くなると、その遺品整理で押し入れから貴重なアナログ・レコードがドバッと出てくる。こういったアナログ・レコードはおそらく中古レコード業界に流れ込んできて、それで『当時買えなかった』とか『完全にないと思われていたレコードが見つかった』みたいな現象が起き、それでアナログ・レコードを取り巻く環境が世界的に活性化され始めたんだと思います。
特にヨーロッパと日本は、文化的に『昔の物を大事に取っておきたい』という思考が強くて、中古レコード業界に再び出回り始めた、かつてのアナログ・レコードを『改めて大事に取っておきたい』といった理由で、今の状況に至っていると思っています」(池田さん)
アナログ・レコードの再評価の高まりに対し、公私を超えレコードに触れてきた池田さんは、やがて、かつて思い入れ深いポータブル・レコード・プレイヤー、GP-3の再現モデルを出せないかと模索し始めます。
「まずはGP-3の新品を探したんです。そうしたら青森のレコード屋さんにGP-3の新品のデッドストックを見つけました。プレミアム価格で5万6千円の値付けでしたが、それを購入して。GP-3の再現モデル開発をし始めました」(池田さん)
■デッドストックの新品を入手しイチから作り直し、再現の権利も取得
池田さんは、高値で購入したGP-3の新品を元に、製品すべてイチから作り上げ、そして、元々の販売元にも権利を取得するために奔走します。
▲左から日本コロムビアのGP-3。真ん中がANABASが2019年に再現したGP-N3R。そして右が今年の最新モデル、GP-N3BT-R。寸分たりともたがわぬ再現ぶりです(画像:ANABAS)
「日本コロムビアにもGP-3の図面は残っていないので、新品で購入したGP-3を中国の協力会社に持っていき『これを作りたいんだ』と伝えて。
部品全て1個ずつバラして解析し、あとケースなどのプラスチック部品に関しては粘土で型を取って、そこから金型を作り、寸分たりとも違わないように再現しました。
また、権利に関しては、僕に取っての古巣の日本コロムビアと、分社したDENON双方に許可をもらいに行って。日本コロムビアはもうオーディオ事業をDENONに任せているから特に権利もなく、『どうぞどうぞ』と。そして、DENONも『図面もない中で、よく再現しましたね。いいですよ』と言ってくれて。両社のおかげでANABASから再現モデルを出せることになったんです」(池田さん)
▲なんとフライヤーの図版などもGP-3のものをそのままリメイクして採用しています(画像:ANABAS)
▲部品解説などももちろんGP-3のものをそのままリメイク。「写植でしか出せない」当時の文字組みなどの細部もシビれます(画像:ANABAS)
▲パッケージもそっくりそのまま。左がGP-3のもの。右がGP-N3Rのもの
■忠実な再現に加えた追加機能とDJミキサー
▲忠実な再現に加え、細部には現代ニーズに応えた追加機能もあります(画像:ANABAS)
ANABASの再現モデルは、忠実な再現に加え、細部は現代のニーズに応えられるよう追加機能も加えています。長く使ってもらうことを想定し、2019年に発売したGP-N3Rですでにオーディオ・テクニカ製のカートリッジを採用し、交換針の供給もしやすくしました。
また、様々なシーンで楽しんでもらうことを想定し、ポータブルのDJミキサーもラインナップ。このミキサーを中央に置き、両脇にGP-N3Rを並べれば気軽にDJプレイを楽しめるようにもしました。
▲ポータブルのDJミキサー、GMX-N3
▲GMX-N3のシンプルなツマミ部分
▲GP-N3R を2台繋ぐためのジャック
▲GP-N3R を2台繋げば、出先でも気軽にDJプレイを楽しむことができます
「実は日本コロムビアでのGP-3の生産後期にもミキサーが作られていたんですけど、面白いアイデアだったのに、ぶっちゃけそんなに売れなかったんです。
でも、今だったらウケるんじゃないかと思って。GP-N3Rに加えて、ポータブルDJミキサー(GMX-N3)もラインナップしたところ、結構な反響をいただきました。
GP-N3Rそのものは、テレビ・WEBメディア・雑誌などのあちこちから取材依頼をいただいて、お金もかけないのに紹介してくれました」(池田さん)
ただ、その注目度の高さとヒットがゆえ、思わぬところでの苦労もあったと言います。
「今は大丈夫ですけど、一時的に在庫薄となり、製品自体の調達に苦戦した時期もありました。あと、注目度が高まったことで、小売店さんの中にはルールをすっ飛ばして売るところも一時で始めたりして。『売れる』ということよりも、そういう販売戦略とか管理に苦戦した時期も確かにありましたけど、でも僕自身は一貫していました。
『大事に作った製品なのだから、大事に売っていただきたい』という。だから、あまりに店舗数の多い家電チェーンさんなどには出荷を控えさせてもらって、逆に大事に扱っていただだける小売店さんとか、好意でイベントなどを実施してくれるレコード屋さんなどを優先して出荷させていただいてきました」(池田さん)
■今年発売の最新モデルはUSB Type-C、Bluetooth搭載
そのGP-N3Rの発売から7年後になる今年、さらにアップデートされた新型モデル、GP-N3BT-Rが発売されました。
「最新モデルではUSB Type-C、Bluetoothを搭載しました。ありがたいことに、これも順調に売れていて、1回目の出荷分がそろそろ終わるくらいになりました」(池田さん)
▲今年発売された最新モデル、GP-N3BT-R
▲蓋を開けてみると……
▲ジャーン! レコードプレイヤーがお目見え
▲USB Type-C 、Bluetooth機能を新搭載したモデルです
▲Bluetoothのツマミを右にし、下部のボタンを押して連動デバイスを探す仕組み
▲前出のオーディオテクニカ製カートリッジを装備しています
買われるのはどういった層の人でしょうか。筆者のようにアナログ・レコード全盛期を知る世代にとってはとにかくシビれるプレイヤーですが、若い層のユーザーはどんな思いで手に取るのかが気になります。
「買ってくださる方は、アナログ・レコードの全盛期を知らない世代の人もいれば、それこそ音楽的な知識が豊富な人まで様々です。
うちの社員の若い世代もそうですが、当然アナログ・レコードをよくわからない一方、『なんか面白そうだ』として遡って勉強するように聴いたり、逆にもっとカジュアルにレコードを扱って聴いたりするケースもあるようです」(池田さん)
▲最新モデルを前に、「レコードを聴く」=「儀式」だと語る池田さん
「僕は古い世代のオジサンなので、個人的には『レコードを聴く』=『儀式』だと思っているんです。自分が好きなアーティストのレコードをまず手に取って、ジャケットを見た後、そっとレコードを取り出して、盤に触れないように指をこんな風に広げて、それをプレイヤーにそっと置く。もちろん埃なんかがついていれば綺麗に取って、針を落とす……この一連の作業が『レコードを聴く儀式』だと思っているんです。
GP-N3BT-Rはもちろん、こういった儀式的な聴き方もできるんですけど、逆に気軽にワイワイ音楽を楽ししむこともできるのが一番の利点だと思ってもいます。壁にかけて垂直でレコードをかけることもできるプレイヤーなので、様々なシーンで広く使っていただければすごく嬉しいですね」(池田さん)
▲ANABASのポータブル・レコード・プレイヤーの人気ぶりから、ガチャガチャのカプセルトイにも採用されました
▲過去と未来とを結ぶANABASのポータブル・レコード・プレイヤー。今後の動向にも要注目(画像:ANABAS)
気になる価格は、初代モデルのGP-N3R、最新モデルのGP-N3BT-Rともに税込で2万円台前半。DJミキサーのGP-N3BT-Rは税込で1万5千円前後。日本コロムビアのGP-3の当時の新品定価とそう変わらぬ値付けなのもまた良心的で良いなと思います。
ANABASでは、今後もこのポータブル・レコード・プレイヤー・シリーズをさらにアップデートし続け、またクラウドファンティングなども柔軟に活用し、「ありそうでなかった」様々な製品を世に出し続けていく、とのこと。ポータブル・レコード・プレイヤーのさらなる進化と合わせて、ブランド全体の動向にも要注目です。
<取材・文/松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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