【試乗】SUBARU「アイサイト」が大幅進化。目指したのは“本当に使える!”性能

新しいアイサイト・ツーリングアシストのキャッチコピーは「心から運転(ツーリング)を愉しむために。」。日本車・輸入車の別なく、今、自動車メーカーが普及に力を入れる運転支援システムですが、実際に試してみると、十分に実用に足る性能を実現している機構がある一方、まだまだ改良が必要だと感じさせられるものも、案外少なくありません。

その点、これまでのVer.2、Ver.3のアイサイトは、他メーカーも一目を置くレベルの実用性を確保していましたが、新しいアイサイト・ツーリングアシストでは、さらにリアル・ワールドで安心して“本当に使える!”性能を目指したそうです。

2017年夏に大規模なマイナーチェンジが実施される「レヴォーグ」と「WRX S4」に全車標準装備されるアイサイト・ツーリングアシストは、具体的にいうと、高速道路上での0~120km/hの車速域で、ブレーキ、アクセル、ステアリング操作をアシストしてくれます。

とはいえ従来のVer.3にも、自動で減速、または停止するプリクラッシュブレーキ、全車速追従機能付クルーズコントロールをはじめとした、基本的な機能はすでに搭載されています。また、アイサイトにとって技術的な要であるステレオカメラなど、システムを構成するハードウェア自体は基本的にVer.3を踏襲しているとのこと。つまり、アイサイト・ツーリングアシストの進化は、ソフトウェアの改良、というわけなのです。

では一体、何が変わったのかといえば…。

1:自動アクセルと自動ブレーキによって車間距離と車速をキープするクルーズコントロールの対応速度域が、0~100km/hから0~120km/hに拡大。

2:自動ハンドルで車線内での自車位置を維持するアクティブレーンキープ機能の作動速度域が、約60~100km/hから0~120km/hに拡大。

3:新たに、0~60km/hの範囲で先行車を追従し、自動でステアリング操作を行う機能を追加。

というのが、主な変更点。つまり、高速道路走行時の全車速域において、ブレーキとアクセル、ハンドルの自動制御が可能になったわけです。

従来型のアイサイトでは、各機能の作動速度域が限定的だったこともあり、機能を熟知しているオーナーや長距離走行が多いドライバーからは高く評価されていたものの、クルマに乗るのは週末のレジャー程度、という方にとっては、いまひとつ実用的に感じられなかったのも事実でしょう。しかし、アイサイト・ツーリングアシストでは、各機能の作動速度域を大幅に拡大。かつ、低速域での先行車追従機能が加わったことで、誰でもその恩恵にあずかることが可能になったのです。

また、近い将来、日本国内の高速道路の一部で制限速度の上限が引き上げられるのを見越し、機能の上限が120km/h(機能的には約135km/hまで対応)になっているのも、実用面では大切なポイントといえるでしょう。

一方、もはや事実上“半自動運転”を実現しているアイサイト・ツーリングアシストですが、決して“楽チン自動運転”と謳わないのが、いかにもSUBARUらしいところ。「すべての機能・性能は安全に通じる」というのがSUBARUのポリシーですから、アイサイト・ツーリングアシストの開発に当たっても、安心・安全に使えて、疲れないクルマ、疲れないことでもっとぶつからないクルマ、を目指したそうです。

さて、機能や開発ポリシーの説明を受け、試乗コースへと移動。そして実際にドライブしてみた印象はというと、これが確かに疲れない上に、楽チン自動運転とは一線を画す仕上がりだったのです!

試乗は“追い越し”や“入り込み”を想定した、70km/h走行の「ステアリングアシスト確認区間(高速)」、停止や発進など30km/h以下の走行を想定した「渋滞モード区間」、分岐を想定した「ステアリングアシスト確認区間(低速)」が設定された、オーバル状の試験路で行われました。

まずは、クルーズコントロールを70km/hに設定、先行車を追いかけるようにスタートします。先行車は減速と加速を繰り返しますが、我々が乗る追走車はその動きに合わせ、スムーズに加減速。また、コーナーへさしかかり、先行車両が隣の車線へと移動すると、こちらのクルマは車線を認識したまま車線の中央をキープし、設定速度で走行を続けます。

その後、30km/h以下の渋滞モード区間へと移り、再び先行車がいる状態で停止と発進を繰り返します。両側に車線が引かれた区間では、先行車が左右に蛇行しても、我々が乗る追走車は自動でステアリングを操作し、車線の中央をしっかり維持。そして、両側に車線がない、または、トラックの後ろなどで車線が見えづらい状態になると、60km/h以下であれば、先行車に合わせて自動でステアリング操作を行い、追従していくのです。

また、高速道路では、インターチェンジの分岐などで先行車が別の方向へ行ってしまうことがありますが、そうした場合でも、我々が乗る追走車は車線を認識し、先行車の動きにつられることなく走行車線をキープしてくれました。

つまり、車線と先行車の情報を常に読み取り、車線の中央維持と先行車追従操舵がシームレスに作動する仕組みとなっています。ちなみに、先行車が完全停止しても、3秒以内であればアクセルを操作することなく自動で発進してくれるので、ラッシュ時などの高速道路における大渋滞では、かなり使えるといえるしょう。

…と、こうした機能を見ていると「これって、やっぱり半自動運転なんじゃないの?」と思われるかもしれません。確かに機能としては、事実上、そのとおりだと思います。でも、そのステアリングフィールを体験してみると、SUBARUは“ドライバーの操作”を第一に考えているということが、実によく分かるのです。

今や各メーカーとも、車線中央維持や先行車追従といった機能を搭載したクルマを多数展開しています。しかし、機能がオンの状態では、通常とはステアリングフィールが明らかに異なるというケースが少なくありません。確かに、ステアリングに触れていることで、機能がオンなのかオフなのかを実感できるというメリットはあります。でも、オンの状態で路上の落下物を避けるようなシーンなどでは、ドライバーが操作を行う際、操舵フィールに少なからず違和感を覚えることがあるのです。

その点、SUBARUのアイサイト・ツーリングアシストは、機能オン状態からステアリングを切り込む、戻すという動作を行っても、その感触は機能オフの状態に極めて近いのです。つまり、落下物などを発見し「避けよう!」というようなケースでも、違和感のない普段どおりの感触、力加減でハンドルを操作できるのです。

ドライビングの負担を軽減しながらも、基本的には常にドライバーが操作することを前提としたセッティング、といえば、ご理解いただけるでしょうか。ちなみに、自動制御の状態でコーナーに進入した際も、ステアリングの操作はじわりとスムーズ。とても人間の感覚に近いフィーリングでコーナーを抜けられたことを、最後に付け加えておきましょう。

こうした、メーカーごとの運転支援システムのセッティングの違いは、なかなか体験しづらいものがありますし、オーナーの用途や好みによってもメリット、デメリットがあるとは思います。しかしその中でも、アイサイト・ツーリングアシストの「十分に実用的!」と思える高い完成度は、特筆に値します。特に、走行フィール面での絶妙なサジ加減には、長年の経験に基づくSUBARUならではのノウハウが息づいている印象です。この夏デビュー予定のレヴォーグとWRX S4で、その真価をぜひ体験してみてはいかがでしょう?

(文/村田尚之 写真/村田尚之、SUBARU)


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