2017年8月21日、世紀天体ショー“皆既日食”をアメリカで体験!

■8月21日(月)9時5分 皆既日食~人生でもっとも短く感じた2分間

日食はとても静かに始まりました。太陽の右上、1時の方向から月が重なり、徐々に太陽が欠け始めます。日食の連続写真を撮る人、芝生に寝転びながら日食グラスで太陽を眺める人、ピンホールで太陽の欠け具合を地面に写す人…。それぞれの楽しみ方で約1時間後の本番を待ちます。

欠け始めて40分ほど経ち太陽が5割ほど欠けた頃から、だんだんと太陽の熱が弱くなってくるのを感じます。光も徐々にですが弱くなってきているようです。光の弱まり方は夕暮れや薄曇りになるときとはまったく違い、ほんのりオレンジ色のフィルターがかかったような色になる印象です。

10時を過ぎると欠けは8割ほどに。日食グラスをかけなければ太陽は普段と変わらず快晴の空で輝いているように見えますが、周囲は太陽が沈んだ直後に近い暗さになってきています。でも私たちや木の影は地面に映る。不思議な感覚です。太陽の熱は明らかに弱くなり、肌寒ささえ感じるように。

そして第2接触の約5分前。草むらの中でコオロギのような虫が鳴いているのに気付きました。この公園の普段の様子を知らないのでなんとも言えませんが、気温が高い日中に活動する虫ではないはずなので、これも皆既日食の影響かもしれません。

▲こちらは太陽が3割ほど欠けたとき。空はまだ青く写ります

▲太陽の欠けが5割を超えてくると、うっすらと周囲が暗くなっているのに気付きます

▲欠けが9割近くなると、空の色もかなり変わってきました

10時15分を過ぎ太陽が残りわずかになると、周囲からは歓声が。そして大きなダイヤモンドリングが現れた後、それがだんだんと小さくなり、月が完全に太陽を隠します。皆既日食です。

10時16分の段階では、暗くなっているとはいえまだ明るさを感じましたが、太陽が隠れた瞬間に一気に周囲が暗くなり、空に真っ黒な太陽とコロナが肉眼でもはっきり見えます。そして空には星が現れ、地平線は夕焼けのようなオレンジ色に。すべて「知識」として理解していましたが、「光景」として目の当たりにすると、言葉が出ません。

 

▲皆既日食中の光景。太陽の中心に黒い月がある。黒い太陽と同じくらい体験したかったのが地平線に見える“日食焼け”だ

皆既日食が始まってからちょうど2分後、黒い太陽の右上にダイヤモンドリングが出現。第3接触。皆既日食の終幕です。暗かった空が明るくなり、星や夕焼けは一瞬で見えなくなり、いつもの昼間に戻りました。太陽はまだ欠けているので普段よりは暗いはずですが、皆既日食で暗くなったところから急に明るくなったため、第1接触から第2接触に向かうときのような変化を感じることはできません。

2009年7月21日に奄美大島やトカラ列島で起こった皆既日食。私はフェリーに乗って、トカラ列島の悪石島付近で船上から眺める皆既日食観測ツアーに参加しました。残念ながら土砂降りで、黒い太陽を観ることができませんでした。しかしこの時は、皆既日食の直前から周囲が急激に暗くなり始め、太陽が隠れたときは自分の掌すら見えないほどの闇に。しばらすると甲高い音とともに何かにしがみついていなければ立っていられないほどの突風(ジェット機のような風でした)が通り過ぎました。そして第2接触から6分過ぎ、第3接触になると急に周囲が明るくなると同時に雨雲に映る真っ黒な月の影(本影錐)が駆け抜けていくという、強烈な体験をしました。

今回の皆既日食は、明るさ的には宵の口という感じだったと思います。突風が吹くという変化もありませんでした。それでも急激な明るさの変化と太陽と星空のコラボレーション、そして何より真っ黒な太陽が放つコロナとダイヤモンドリングの美しさを直に観るという、とても貴重な体験ができました。

 

■次は2019年のチリ・アルゼンチン! 日本では2035年!

今、私たちは皆既日食が起こる正確な場所や時間を簡単に知ることができます。インターネットでは簡単に皆既日食のライブ中継を見ることだってできます。しかし天文学が発達していなかった時代、突然起こる皆既日食に人々は驚き、神秘を感じると同時に大いに怯えたのではないでしょうか。頭だけの悪魔ラーフに飲み込まれた太陽(インド)、スコルという狼に飲み込まれた太陽(北欧)、巨大な蛇の怪物アペプにより沈められた太陽神ラーが乗る船(エジプト)など、古代の神話にも日食を連想させる話がいくつも残っています。天照大神が洞窟に隠れてしまう天岩戸神話も日食の話ではないかという説があります。

黒い太陽が現れた2分間はいつもと変わらない時間のはずですが、本当に一瞬のうちに過ぎ去りました。この神秘をぜひみなさんにも体験してもらえたらと思います。次のチャンスは2019年7月2日、チリとアルゼンチンで観測できます。そして日本では18年後の2035年9月2日に能登半島から茨城県にかけて皆既日食が起こります。

▲ミント=ブラウン・アイランド・パークをはじめ、セイラムの街では多くのボランティアが交通整理や案内などにあたってくれていました。感謝! セイラムでの日食が終了したおよそ1時間後、ナッシュビルにいる友人から「5分前に雲が切れて皆既日食を体験できた!」という連絡が

 

■初めての皆既日食撮影ガイド

私は日食を体験することに専念しましたが、きっと多くの方は日食を撮影したいはず。そこで日食撮影に必要な機材をまとめてみました。

▼カメラ(ボディ+レンズ)、三脚

写真でも映像でもこれがないと始まりませんが、ポイントは撮りたい画の数だけボディとレンズを用意すること。コロナ、プロミネンス、周囲の風景など皆既日食は短い時間の間にいろいろな現象や変化が起こるので、ひとつのカメラでいろいろな画を狙おうとすると撮り逃す可能性があります。プロや天文ファンは10台以上ボディを持っていくことも。

▼NDフィルター

第1接触~第2接触、第3接触~第4接触を撮影する上で必須となる太陽撮影専用の減光フィルター。

▼赤道儀

太陽は時間とともに動いていくので、正確に追いかけながら撮影をする場合は天体撮影で使う赤道儀があると便利。

▼アングルファインダー

日食の時間帯によってはカメラをかなり上に向けて撮影することに。アングルファインダーがあれば首への負担を減らすことができます。

撮影では、太陽を狙うだけなら多くの人が集まる観測スポットでも問題ありません。ただし当日の人の集まり具合によっては複数の機材を広げられない可能性もあります。どのような状況になりそうかは現地で事前に確認しておきましょう。また、皆既日食中の風景写真を狙う場合は場所選びが重要に。とくに観測している人を映り込ませたくないときはそれが可能な場所を探さなくてはなりません。人がいないからといって私有地や国などの管理地に無断で入るのは厳禁。ロケハンのためにも皆既日食本番の数日前に現地入りしたいところです。そして短い撮影チャンスで失敗しないよう、経験者が公開している露出などを調べておくと同時に撮影をシミュレーションしておくのがオススメです。

 


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(取材・文/高橋 満<ブリッジマン> 画像/NASA)

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