岡崎五朗の眼☆夢の内燃機関“スカイアクティブ-X”で、マツダはクルマ好きに新たな夢を見せる!

この仕事を始めて30年近く。これまで多種多様なクルマに乗ってきたが、今回のように試乗前からワクワク感を覚えたことなど滅多にない。ガソリン車のようなフィーリングなのか? それとも、ディーゼル車のような印象なのか? はたまた全く違うものなのか?…。それくらいHCCIは、自分にとって未知のエンジン。

クルマ用の内燃機関というと、空気とガソリンの混合気を圧縮し、そこにスパークプラグの火花で着火・爆発させる(一般的な)ガソリンエンジンと、強力に圧縮した空気に軽油を噴射し、自ら着火・爆発させるディーゼルエンジンとに大別される。つまり、ガソリンを燃料としながら、圧縮着火というディーゼルエンジンの要素を採り入れたHCCIは、まさにガソリンとディーゼルのいいとこ取りともいえる。ではなぜ、そんな究極のエンジンは、これまで実用化に至らなかったのか?

HCCIの原理は、圧縮された空気が発熱する原理を応用し、スパークプラグなしに全体を一気に圧縮着火させるというもの。一般的なガソリンエンジンのように、スパークプラグによる部分点火を爆発のきっかけとしないため、およそ1対30という理論空燃比(最も燃焼効率が良いとされる空気と燃料の割合。通常のガソリンエンジンでは燃料1に対して空気14.7の割合)より非常に薄い混合気でもしっかり燃え、その分、燃費が向上する。つまりHCCIは、極めて薄い混合気の完全燃焼=スーパーリーンバーン(希薄燃焼)を実現するための技術ともいえる。

しかし、いうは易しで、いざそれを実用化するとなると、圧縮着火するタイミングの正確な制御が必要となる。同じく圧縮着火方式を採るディーゼルエンジンは、燃料の噴射が圧縮着火のタイミングとなるためコントロールしやすいが、軽油よりも引火しやすいガソリン(と空気の混合気)を使うHCCIは、気温や気圧、エンジンの温度、そして燃料の噴射量などによって圧縮着火のタイミングがコロコロ変わるため、緻密にコントロールするのがとても難しい。

もちろん、マツダ以外のメーカーも、長年、圧縮着火に関する研究・開発を続けており、中には試作車をジャーナリストたちにテストドライブさせた欧州メーカーもあるほど。しかしそのエンジンも、スーパーリーンバーン領域でこそ大いなる可能性を感じさせたものの、2割ほどといわれるその領域を外れると、異常燃焼によるノッキングが激しく、実用化にはほど遠い仕上がりだったという。

そんな技術の壁を打ち破るために、今回マツダが着目したのはスパークプラグだった。従来型のHCCIでも、始動直後や低温時、高負荷時などではスパークプラグによる点火・爆発の行程を導入していたが、そのためのスパークプラグを全域で活用したらどうか、という発想の転換が、今回のブレークスルーにつながった。それもあってマツダでは、スカイアクティブ-Xの燃焼方式を“SPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション/火花点火制御圧縮着火)”と呼んでいる。

SPCCIでは、薄い混合気を、圧縮着火する直前まで圧縮した状態にしつつ、スパークプラグを点火(実はこの時、より点火しやすい環境を作るため、ピストンの圧縮行程においてスパークプラグ周辺部だけに少量のガソリンを追加噴射している)。その際、プラグの周りで生じた火炎球をもうひとつの“仮想ピストン”に見立て、上方からも圧縮するような状態にしてシリンダー内の圧力を一気に高め、それをきっかけにシリンダー全体で圧縮着火を起こさせる。これにより、圧縮着火のタイミングを完全に制御下に置けるようになった。

さらに、三元触媒は理論空燃比の領域でしか使えないことから、従来のリーンバーンエンジンではたびたび問題視されてきたNOx(窒素酸化物)についても、SPCCIでは1:30というスーパーリーンバーンによって燃焼温度自体が高くならない特性を活かし、NOxの発生量そのものを抑制。また、ガソリンと空気の混合気を燃焼させるため、ディーゼルエンジンのようなPM(粒子状物質)が発生しないなど、優れたクリーン性能も期待できる。

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