【ホンダS660試乗】その走りはナンチャッテか本物か?

「では、どうぞ」

そういわれて、黄色いS660の横に立つ。このカーニバルイエローIIは人気色で、オーダーする人の約15%が、このボディカラーを選ぶのだとか(ちなみに一番人気はプレミアムスターホワイト・パールの61%)。人気の理由は、往年の名車「ビート」のイメージカラーが黄色だったからなのか、それとも、黄色いボディだと黄色いナンバープレートが目立たなくなるからのか…。きっと両方なのでしょうね。

出発時点の天候は小雨。だから、脱着式のロールトップは閉じたまま。運転席に乗り込もうとした時、うっかりアタマをルーフにぶつけてしまった。もぐりこむようにシートに滑り込まなければならないのはスポーツカーそのままのイメージ。アタマは痛いですが、こういうの好きです。

座ってみると、シートポジションが低い。スポーツカーのヒップポイント高が平均385.1mm(ホンダ調べ)に対し、S660は355mmらしい。フツーのクルマだと、アフターパーツのバケットシートなどを装着してヒップポイントだけ下げると、バスタブに潜り込んだようになることがあります。あれはあまり好きじゃありません。でもS660は、この低いヒップポイントに対して、ステアリングやメーターの位置もバランスが取れています。

ステアリングのサイズも、ホンダ車最小の直径350mmだとか。確かに小さい。タイトなコクピットにシックリと収まっています。旧軽規格のビートよりもS660の室内は狭い、なんて噂を聞いていましたが、このスペースに大きなステアリングは不格好。

ただ、助手席に同乗者が乗ると、携行したちょっと大きめのバックパックを置くところがありません。フロントフードのユーティリティボックスにも、とても入りそうになく…。結局、荷物は同行するもう1台のS660の助手席に置くことにしました。
ホンダ honda s660 高知14
さて、発進しましょう。でも、これが微妙にイヤなシチュエーションだったのです。S660は上りのスロープに停められていて、いきなりの坂道発進を強いられたのです。いや、坂道発進なんて別に普通ですよ。ただ、排気量は660cc。ターボ付きとはいえトルクあるの、これ? クラッチのミートポイントも定かでなく。周りにはホンダの開発陣をはじめ、関係者の方々がズラリとお見送り体制。この坂道発進でエンストするのは死ぬほどイヤなんですが、発進に最低限必要なエンジン回転数以上にアクセルを踏んでしまうと…。







と、空吹かし気味に回転数上げてしまうことになり、これはもっとイヤなのです。本格的に不格好ですから。そういうわけで、サイドブレーキを握る手にジンワリ汗を感じながら、半クラッチ、アクセルミート…。あれ? 発進トルクがスッカスカなんてことはなく、意外にも普通に発進できます。ドキドキして損した気分(実はS660には坂道発進をサポートする“ヒルスタートアシスト機能”が付いてるので、ドキドキする必要などなかったのですが…)。

損した気分を、得した気分に換えてくれたのは、最初の交差点を左折した時。軽いミッドシップって本当に気持ち良く曲がるんですねぇ。感心。S660と比べると、エンジンを鼻先に置いたそこら辺の似非スポーティFR車なんて、まるで前カゴに重い荷物積んだ自転車に乗っているようなもの。ハンドリングがかったるい。
ホンダ honda s660 高知11
しかし、ミッドシップの失敗談もしばしば耳にします。限界が高いだけに、イク時はイク、という話です。そこまで失敗するほど限界特性は試せませんでしたが、気持ちの良いコーナリング性能についつい調子に乗ってしまいました。初めて走るワインディングロードでコーナーに進入すると、予想していた以上にタイト…。わたくし、ウッカリ十分な減速を怠ってしまっていたのです。

「これはアンダーステアが出るなぁ、失敗したぁ〜(涙)」

ちょっとだけ言い訳をすると、後ろからもう1台のS660がピタリと追走してきていたので、ブレーキペダルを踏む力を増しにくい状況。カッコ悪いけれど多少のアンダーステアは覚悟してステアリングを切り足すと(アンダーステアはこのステアリング操作にクルマがついてこない)、美しいラインを描いてコーナーを脱出できてしまったのです。気持ちいいぃ。S660の公道試乗において、これはセンセーショナルでした。

“アジャイルハンドリングアシスト”と呼ばれるブレーキを使った電子制御のおかげもあるのでしょうし、タイヤがハイグリップなYOKOHAMA「ADVAN NEOVA AD08R」というトビ道具的な仕様のおかげもあるでしょう。それを加味しても、痛快なハンドリングに「ミッドシップってスゲェ!」と素直に感動したわけです。

ホンダ honda s660 高知24
ここで、日本で買えるミッドシップオープンスポーツを挙げてみたいと思います。ポルシェ「ボクスター」=634万円、アウディ「R8スパイダー」=2512万円、フェラーリ「458スパイダー」=2750万円…。いずれもエンジンをミッドシップに置くなど、重量物を徹底的にクルマのセンター寄りに集め、しかも、より低いところへ積むことで、物理特性の根底から運動性能を高めているのです。多くが専用設計になってしまうといった理由などがあり、価格は高くなってしまうものの、それでもミッドシップならではといえる運動性能欲しさに、このレイアウトを採用しているわけです。

一方、S660は198万円から。軽自動車としてみれば高いかもしれませんが、本物のミッドシップスポーツがアンダー200万円から手に入るのは、ちょっとした事件。私的にはミラクルだと思えたのでした。

<SPECIFICATIONS>
☆S660 α(6MT)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1180mm
車重:850kg
駆動方式:MR
エンジン:0.658リッター直3+ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:10.6kg-m/2600回転
価格:198万円〜

(文/ブンタ)

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