2代目はコンパクトSUVの正統!アウディ「Q3」はオールマイティに使える実力派

■選択肢が増えたことでSUVは選びやすい状況に

ファッションなどと同様、クルマにもトレンドが存在する。そんな中、今、ヨーロッパで最も活気あるジャンルがコンパクトクロスオーバーSUVだ。ちなみにクロスオーバーとは“重なり合うこと”を指す言葉で、クロスオーバーSUVは乗用車(セダンやハッチバック)とSUVの特徴/美点をミックスしたクルマである。

セグメントと呼ばれる、クルマの階級を示す物差しでいうと、コンパクトクロスオーバーSUVにはAセグメント、Bセグメント、Cセグメントまでが含まれ、全長は4mを割り込むものから最大でも4.5mほど。ハッチバックで例えれば、日産「マーチ」程度の小さなモデルから、フォルクスワーゲン「ゴルフ」やトヨタ「カローラ」くらいの車格までが含まれる。ひと口にコンパクトといっても、カバーエリアは広いのだ。

小さなSUVは取り回しが良く、狭い駐車場などでも扱いやすいのが魅力。一方、全長が4.5mに届くようなモデルだと、リアシート、ラゲッジスペースともに広く、ファミリーユースにも十分対応できる。そのためヨーロッパでは、昨今、コンパクトカーを選ぶ人のふたりにひとりがSUVを選ぶなど、かなりの人気を得ている。

片や“セダン離れ”が叫ばれて久しい日本市場でも、セダンのラインナップが激減する一方、コンパクトクロスオーバーSUVはニューモデルが続々と登場している。ホンダ「ヴェゼル」やトヨタ「C-HR」が安定した人気を得ているほか、2019年に登場したトヨタ「ライズ」は普通車販売台数の月間ランキングでナンバーワンを獲得するなど、コンパクトクロスオーバーSUVが各メーカーのドル箱となりつつある。また、選ぶ側にとっても、選択肢が増えたことで好みやライフスタイルに合わせて選びやすい状況となっている。

■新型Q3はデザインも装備も上級シフト

フルモデルチェンジで2代目へと生まれ変わったアウディのQ3も、コンパクトクロスオーバーSUVのカテゴリーに属すモデルだ。全長は4490〜4495mmで、日本車でいえばマツダ「CX-30」より大きく、同「CX-5」より小さい。“コンパクト”としては大きめの部類だ。

そんな新型Q3を前にしての第一印象は「なんと立派になったことか!」。2012年に日本へ導入された初代は全体的に丸みを帯びたフォルムで、フレンドリーな雰囲気が強かった。それに対し新型は、全長が95mmも伸びるなど、車体がひと回り大きくなった上に、精悍なスタイルとなって高級感も大幅にアップ。随分、立派になっている。

そうしたルックス以上に、初代との違いが顕著なのがインテリアデザインだ。特にインパネ周辺のそれは、アウディの上級モデルと共通のイメージでまとめられており、見栄えが良くなって高級感も増している。

初代Q3のインテリアは、デザインからして兄貴分たちとは全く異なるシンプルな仕立てで、「末っ子だからこのくらいでいいよね?」という割り切りを感じずにはいられないほど質素だった。しかし新型は、上級モデルのモチーフを継承した水平基調のシャープな意匠が採用されている。

また装備面でも、先代から大幅にアップグレードされている。メーターパネルには、ナビゲーションの地図などを表示できる10.25インチの全面液晶を配置。先進的な印象もプラスしている。

一方、コックピット中央には、ナビゲーションを始めとする各種機能の操作/表示に対応する、高精細な10.1インチのタッチパネル液晶をレイアウトする。

このように装備を見ただけでも、新型は上級移行しているのがよく分かる。つまり今回のモデルチェンジで、Q3はキャラクターチェンジしたと捉えるのが正解だろう。その大きな理由は、立ち位置の変化だ。

デビュー直後のQ3は、アウディにとって最も小さなSUVだった。アウディユーザーではない新規顧客を開拓する役割も担っており、あえて上級モデルとの違いを打ち出してフレンドリーに徹していたようだ。しかしその後、「Q2」というさらに小さい、新感覚のコンパクトSUVがデビュー。それを受けてQ3は、新型で上級移行したのである。同じQ3でありながら、新型は先代とでは役割が異なるのだ。

そんな上級移行とともに、新型Q3に触れて驚いたのが後席空間だ。車体のサイズアップで空間自体が広がったのに加え、シートには同クラスの欧州SUVとしては珍しいリクライニング機能が組み込まれるなど“おもてなし”が充実している。

さらに新型Q3は、ラゲッジスペースだって広い。容量はコンパクトクロスオーバーSUVで最大級となる530Lで、これは、ひと回り以上ボディサイズが大きいトヨタ「ハリアー」の409Lを大幅に上回る。さらにリアシートは、40:20:40に3分割された背もたれを備え、それぞれを倒すことで荷物の量や用途に応じて荷室をアレンジ可能。一方、後席には130mmの前後スライド機能も備わるから、後席の背もたれを畳むことなく荷室空間を拡大することもできる。

アウディといえば、プレミアムブランドということもあって、上質感や先進性などに注目が集まりがちだが、新型Q3は意外にも、巧みなパッケージングによる実用性の高さでもライバルをリードしている。

■走りの力強さはディーゼルターボが一枚上手

そんな新型Q3でもうひとつ注目したいのが、日本市場向けに待望のディーゼルエンジンが投入されたことだ。

エンジンラインナップは、「35 TFSI」系に搭載される1.5リッターの4気筒ガソリンターボと、「35 TDI クワトロ」系に積まれる2リッターの4気筒ディーゼルターボという2タイプで、最高出力はいずれも150馬力を発生。最大トルクは、ガソリンターボの25.5kgf-mに対し、ディーゼルターボは34.7kgf-mと、動力性能的には後者の方が優っている。ちなみに、ベーシックグレードはガソリンターボのみの設定となるが、装備の充実した上級グレード「アドバンスト」や、スポーティ仕様の「Sライン」では、ガソリン、ディーゼルともに選択可能だ。

ディーゼルエンジンの美点としては、燃費がいいこと、そして、低回転域でのトルクが厚く街中でも乗りやすい、といったことが挙げられるが、実は欧州車の場合、もうひとつ見逃せないメリットがある。それは、ガソリンエンジンの燃料がハイオクガソリンであるのに対し、ディーゼルエンジンのそれは燃料単価の安い軽油であること。つまりランニングコストが安く抑えられるのである。

実際にドライブしてみると、1.5リッターのガソリンターボ仕様は、コーナーの続くワインディングロードでも軽やかに駆け抜けていくのが印象的。デュアルクラッチ式トランスミッション“Sトロニック”の素早く的確な変速もあって、軽快かつスポーティな走りを楽しめる。

だが力強さに関しては、やはりディーゼルターボ車の方が一枚上手。トルクフルなエンジンを核とする走行フィールは実に頼もしく、自信を持ってお勧めできる仕上がりだった。

ディーゼルターボ仕様は、まずトルクが厚いおかげで、急こう配の峠道を走ってもスペック以上に元気良く感じられる。さらに、ひと昔前のディーゼルでは、低回転域でのトルクが太いことが逆に災いし、アクセルペダルを踏みこんでエンジン回転を高めていくとパワーが絞り込まれるような感覚があったが、新型Q3ではそうしたネガがほぼない。ディーゼルエンジンとは思えないほど滑らかで、アクセルペダルを踏み込んでも気持ち良く走れるのだ。

アウディの日本法人にとって、まさに満を持しての発売となるディーゼルということもあってか、しっかりと魅力的なエンジンに仕立てられている。

そんなディーゼルターボ搭載車の価格は、同じ装備内容のガソリンターボ車に比べて49万円高く、両車の価格差はわずかとはいいがたい。とはいえ、駆動方式はガソリン車がFFであるのに対し、ディーゼル車は“クワトロ”と呼ばれるアウディ自慢のフルタイム4WDだし、さらにディーゼル車は“環境性能割”による免税・減税額が大きく、購入時と初回車検時の自動車重量税も免税扱いとなる上に、ランニングコストも安い。これらを考慮すると、結構、割安に感じられるのだ。もちろん、クワトロが不要というのであれば、燃料代を含めて考えても、ガソリン車の方がフレンドリーに感じられるだろう。

コンパクトクロスオーバーSUVながらåパッケージングが実用的で、リアシートもラゲッジスペースも十分な広さを確保した新型Q3。装備も雰囲気もひとクラス上へと移行しているだけに、500万円前後のプレミアムSUVを狙っている人にはかなり魅力的な選択肢となるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆35 TFSI アドバンスト
ボディサイズ:L4490×W1840×H1610mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:1497cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/5000〜6000回転
最大トルク:25.5kgf-m/1500〜3500回転
価格:464万円

<SPECIFICATIONS>
☆35 TDI クワトロ アドバンスト
ボディサイズ:L4490×W1840×H1610mm
車重:1700kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:150馬力/3500〜4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750〜3000回転
価格:513万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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