この刺激を味わえるのは今だけ!?ランボルギーニ「ウラカンSTO」は公道を走れるレーシングカー

■NAエンジンでしか味わえない素晴らしい世界

何を隠そう、筆者は若い頃、NAエンジンの良さが分からなかった。分からなかったというよりも、知らなかったという方が適切かもしれない。

運転免許取得後、初めて買ったクルマがターボエンジンを搭載した1990年式の日産「シルビア」だったこともあり、NAエンジンは“ターボエンジンの廉価版”という印象だった。当時の筆者は経験不足もあって「エンジンはパワーこそ重要」という思考回路だったし、あの頃の日本車のグレード構成も「すべてにおいてターボエンジンが上」という展開だったと思う。だから勘違いをしていたのだ。

しかし、優れたNAエンジン車に触れる機会に恵まれたことで、徐々にだがNAの良さが分かってきた。最初にスゴさを感じたのは、ホンダの初代「シビック タイプR」。その後もホンダの「S2000」や初代「NSX」で、素晴らしいフィーリングとパワー、そして高揚感を体験した。それら最高峰のNAエンジンの魅力を知ることで、筆者の頭の中から「ターボエンジンこそ最高」という思考はすっかり薄れていった。ターボエンジンにも良さはあるけれど、世の中にはNAエンジンでしか味わえない素晴らしい世界もあるのだ、と。

ランボルギーニ「ウラカン」の最高峰モデルであるウラカンSTOを富士スピードウェイでドライブしながら、ふとそんなことを思い出した。

“スーパー・トロフェオ・オモロゲータ”の頭文字から“STO”と名づけられたこのモデルは、レースの血筋を持つサーキット向けのモデルながら、公道を走るために必要なナンバーの取得が可能というのが特徴だ。

ちなみに“スーパー・トロフェオ”とは英語の“スーパー・トロフィー”に相当し、頂点を目指すウラカンだけで争われるレースのことを指す。また“オモロゲータ”は“ホモロゲーション”、つまり認証を意味していて、公道走行可能な認可を得ていることを意味している。まさにウラカンSTOは、公道を走れるレーシングカーというべき存在なのだ。

■サーキットで披露した圧倒的な速さと驚異的な安定感

そんなウラカンSTOの特徴を挙げるとするならば、軽量化、空力性能、レーシングカー技術という3点になる。

ウラカンSTOは軽量化のため、外装パネルの75%以上がカーボンファイバー製となっている。また、ボンネットを覆うフロントカウルは一般的な板状ではなく、フロントフェンダーまで含めてレーシングカーのようにガバッと開く。コレは、結合部分を減らすことで軽量化を図るためだ。

さらにフロントウインドウも、ガラスを薄くして20%軽量化(ヒビが生じる恐れがあるため、強力な吸盤の貼り付けはNG)している。これらの改良により、ウラカンSTOは決して軽くはないV型10気筒エンジンを搭載し、また、4WD車であるにもかかわらず、1339kgという軽さを実現している。

空力性能のレベルアップも尋常ではない。フロントバンパーのルーバーや、上部に垂直尾翼のような突起を設けた新造形のリアフェンダーなどにより、これまでウラカンの最高峰だった「ウラカン ペルフォルマンテ」に対し、ダウンフォースは実に53%もアップしているという。

また、公道を走れるレーシングカーだけに、ウラカンSTOにはレースマシンの技術が惜しみなく投入されている。サスペンションなど基本的なメカに加え、最高のラップタイムを出すためにすべての制御を最適化する“トロフェオ”という走行モードを用意。また、従来のカーボンセラミックブレーキディスクに比べてストレス耐性が60%高く、最大制動力は25%アップし、減速性能は7%向上した「CCM-R」と呼ばれるブレンボ社製ブレーキディスクを採用する。

加えて、ブレーキシステムの温度を監視してモニターで確認できる“BTM(ブレーキ・テンプチャー・モニタリング)”を搭載するなど、新しいギミックがふんだんに採用されている。

■スタビリティの高さで放たれた矢のようにズバッと真っすぐ進む

そんなウラカンSTOは、最高速度310km/h、静止状態から100km/hまでの加速タイムはわずか3.0秒と圧倒的な速さを誇る。今回はペースカーによる先導付きの試乗だったものの、富士スピードウェイのストレートエンドではメーター読みで270km/hに達した。しかも、感触としてはまだまだ全開ではなく、余力をたっぷり残した上での到達だったから、その速さに恐れ入る。

ちなみに270km/hといえば、一般的には十二分すぎるほどの超高速領域だ。そこで印象的だったのは、ウラカンSTOが単に速いだけでなく、走行中の安定感も抜群であること。車体のブレといった速度に対する不安を感じさせる要素はまるでなく、また、タイヤがしっかりと路面を捉えている安心感を常に全身で感じられる。そう感じるのは、強大なダウンフォースの恩恵だろう。また、放たれた矢のようにズバッと真っすぐ進むスタビリティの高さも、絶大な安心感につながっている。

この安定感ゆえに、富士スピードウェイのホームストレートを駆け抜けている限りは、270km/hも出ているなんて印象は一切なく、もっと低い速度で走っていると思っていたほど。いわゆる「速度計を見て驚いた」という状況だ。この速度感のなさこそが、ウラカンSTOのスゴさではないだろうか。

ちなみに、走行時の安定感は直線だけにとどまらず、コーナリング時も同様の感覚。これまでの体験したどんなクルマよりも落ち着いていて、筆者のドライビングテクニックでも富士スピードウェイをとんでもないペースで走ることができた。

コーナリング時も一切ふらつくことなく、すべてのクルマの挙動が安定しているおかげで、緊張を強いられることもなく、同時にハンドルを切れば素直にそれに従って向きを変えてくれる素直なハンドリングにより、安心して運転できたのはさすがのひと言だ。

■エンジン回転数が高まるにつれてパワーが炸裂する様子は芸術の域

そんなウラカンSTOは、エモーショナルであることも強調しておきたい。人間の本能にダイレクトに響く刺激と快楽を備えているのだ。

例えば、エンジンを掛けると、まずはアクアラポビッチ社と共同開発したチタン製マフラーが大迫力の排気音を響かせる。そこでアクセルペダルを踏むと、鋭いエンジン回転の上昇ぶりに鳥肌が立ち、空気を切り裂くような排気音に身震いする。あまりの高揚感に思わず、「こんなに刺激的なナンバー付きの市販車があっていいのだろうか?」とさえ思ったほどだ。ウラカンSTOは、限界域で走らなくても非日常を味わえるのだ。

さらに、走り出してからアクセルペダルを踏み込むと、まるで天まで突き抜けるかのようにエンジン回転数が高まる。大排気量NAエンジンならではの、気持ち良く回転数が高まり、それに連れてパワーが炸裂するという感覚は、もはや芸術の域。運転しているだけで、イヤなことなどすべて忘れてしまうほどの気持ち良さだ。

まさに刺激に満ちあふれたウラカンSTOだが、こうした大排気量・多気筒の高性能NAエンジンは、今、世の中から消えつつある。スーパーカーとて例外ではなく、あのフェラーリでさえ、ラインナップにターボエンジン車が増えている。その理由は、燃費規制への対応である。ヨーロッパでは、ブランド内の平均燃費を一定の基準内に収めなければ、製造者に罰金を科すレギュレーションがある。その額は、スーパーカーの場合で1台当たり数百万円規模ともいわれるほど。そのため、大排気量のNAエンジン搭載車は減り、燃費のいいターボエンジン車が増えているのだ。

しかしランボルギーニは、ウラカンに5.2リッターのV10を、上位モデルの「アヴェンタドール」に6.5リッターのV12を搭載するなど、NAエンジンにこだわり続けるスーパーカーブランドだ。しかしこの先、さらにレギュレーションの締め付けが厳しくなることから、ランボルギーニもいつまでNAにこだわり続けられるかは定かではない。つまり、ウラカンSTOのような刺激を新車で楽しめるのは、今のうちなのだ。幸運にも、もしウラカンSTOをドライブするチャンスに恵まれたのならば、この素晴らしい世界をぜひ一度は体験しておくべきだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆ウラカンSTO
ボディサイズ:L4549×W1945×H1220mm
車重:1339kg
駆動方式:MR
エンジン:5204cc V型10気筒 DOHC
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:640馬力/8000回転
最大トルク:57.6kgf-m/6500回転
価格:4125万円

>>ランボルギーニ「ウラカンSTO」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【関連記事】
サーキットもジムカーナも!最新のランボルギーニ「ウラカンEVO」は操る楽しさ最上級

「ミウラSVR」も来た!ランボルギーニの人気イベントで見つけた9台の名車+α

最終進化形「NSXタイプS」の異次元の走りに見たホンダの意地☆岡崎五朗の眼

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする