ルンバが “スマートホーム”のコアに!iRobot社CTOに聞くロボット掃除機の未来とは?

■家庭用ロボット実現に立ちはだかる3つのハードル

▲アイロボット社 CTO(最高技術責任者)、クリス・ジョーンズ氏

──ジョーンズさんは、これまでにどのような形でロボットの研究開発に携わっているのでしょうか。

ジョーンズ氏:大学研究室や米国政府機関などで研究開発に携わった後、2005年にアイロボットに入社しました。これまでに約20年間、ロボティクス技術の研究開発に携わっています。現在はさまざまな技術や機能を開発したり、新しいパートナーと提携したりしながら、スマートホームの実現に向けて取り組んでいます。

──アイロボットに入社した当時にはすでにルンバは生み出されていたわけですが、現在のように進化すると考えていましたか?

ジョーンズ氏:どの分野でも当てはまると思いますが、早い段階で成功するかどうかを見極めるのは決して容易ではありません。しかし、いつか成功すると考えながら、大きなビジョンと信念を持って取り組んできました。

結果的に現在でもまだ日の目を見ない技術はありますが、ナビゲーション技術は大きな進化を遂げてきたと思います。私が2005年の段階で任されたのが、ロボットが自動的に周辺環境を把握し、ナビゲーションする技術の開発でした。軍事用のナビゲーション技術をベースにしつつ、時代の経過とともにセンサーや処理性能、アルゴリズムなどが大幅に進化しました。一方で当初は高価だったセンサーのコストが下がってくるなどして、10数年で成熟してきたと思います。

──これまで開発に携わっていて、最も大きなハードルはどういったことでしたでしょうか。

ジョーンズ氏:これはどのようなロボット製品にも当てはまりますが、大きな課題は3つあります。1つめは多くの技術を備えて、何らかのソリューションを実際に提供できること。2つめは多種多様な住宅環境の中で実際にそれが動くこと。3つめは、消費者に受け入れられる価格を実現することです。

ナビゲーション技術を開発するに当たっては、どれも大きなハードルでした。技術力は備えても、本当にそれが各家庭の環境で効率的に動くのか、コストを抑えられるのか。そういった理由もあってソフトウエアは組み込み式ですし、イメージセンサーもほかのロボットが搭載するような(高価な)レーザーセンサーではなく、ケータイに使われるような一般的なイメージセンサーを使いました。

▲「e5」裏面

そういったものを採用することでコストを抑え、最新技術を活用しながら課題を克服することで3つのハードルをクリアしました。アイロボット、特にルンバでは、この3つの要素をクリアできたからこそ成功したのだと思っています。

■ナビゲーション技術の進化がカギを握る

──現在、ロボット掃除機の開発に関して技術的な課題はどんなところにあるのでしょうか。

ジョーンズ氏:消費者向けロボット掃除機の分野でも、まだイノベーションを起こせると思っています。メインの機能であるクリーニング性能をどんどん追求していきたいと思っています。

もう1つは、ナビゲーション分野への継続的な投資ですね。ロボットが周辺の環境や空間をより理解でき、さらに空間の中の物体を理解できるようになれば、よりインテリジェントで効率的な働きができるようになります。

2015年にルンバ900シリーズを発売しましたが、このモデルからイメージセンサーによってマップを作れるようになりました。そうすることで、掃除中に充電が切れそうになるとドックに戻って充電し、途中まで掃除していた地点まで戻って掃除を完了させることができるようになりました。今後のテクノロジーロードマップでは、さらなる性能改善をしていきたいと考えています。

──今後のロードマップで、具体的に実装される機能はどういったものなのでしょうか。

ジョーンズ氏:先日一足先に米国でリリースしたのですが、マップを一度だけ作成して使うのではなく、マップを作成して記憶・維持する機能を搭載しました。部屋全体ではなくてリビングだけを掃除場所に指定すると、どうやってそのリビングまでたどり着くか、どうやってリビングを掃除するのか、どこまでがリビングなのかを理解して、その掃除を終えると自らドックに戻るというように、個々のニーズに合わせた対応力が向上します。

▲「ルンバ980」走行イメージ

さらにその先のロードマップでは、室内の空間だけでなく、空間内に何があるのか。例えば家具がどこにあるのかを理解できるようになると、よりインテリジェントかつ効果的に掃除できるようになります。そこにダイニングテーブルがあるのであれば、恐らくクリーニングの頻度が高いだろうと分かります。ソファーの位置を認識できれば、「ソファーの周りを掃除して」と指示するだけでそこを掃除できるというように、よりスマートになっていきます。

ロボットはマップを作成できるので、各家庭の“マスター”としてどこに何の部屋があるのか、どこにどのような機器があるのかを熟知できる状況にあります。それが私たちが提供できる価値提案のコアであり、こういった切り口が次世代スマートホームを実現する上でも非常に重要になっていくポイントになります。

どこにデバイスがあって、部屋のレイアウトはどのようになっているのか、どうすればスマートホームのベストな体験を提供できるのか。ロボットが認知力を活用することによって、さらなるイノベーションを起こせると思っています。

──ルンバが部屋をマッピングすることで部屋の間取りや大きさ、家具の位置などを把握するということですが、ほかの機器でマッピングした情報と連携するといった可能性はあるのでしょうか?

ジョーンズ氏:おそらくそういったことはないと思います。ルンバ自体が自分のセンサーに基づいてマップを作成しなければならないですし、マップ作成者じゃないとマップ自体を最適化できないということもあります。他のパートナーやソフトウエアを使ってそのマップをより向上させることはあっても、作成主体はあくまでもルンバ自身だと思います。

今後の開発の方向性としても、ルンバがマップを作成して維持・更新できることに重きを置いています。センサーを使って1日に何度も同じスポットを行き来し、常に最新状況を把握しているからこそ、時間や照明状況によって変わる空間情報への理解を深められるのです。

【次ページ】ルンバがスマートホーム実現の“コア”になる

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