クラウドファンディングをリードする「Makuake」とは?


モノづくりから各種サービス、自らのアイデアをネット上でプレゼンテーションすることで、そのアイデアへの賛同者を集められる仕組みです。目標額に達成することで、集まった支援金をプロジェクトに使用することができます。また、支援者にも金額に応じたサービスが受けられるシステムになっています。

 

本サイトでも紹介した「Qrio Smart Lock」。個人や企業を問わず、幅広く独自のアイデアをプレゼンテーションし出資を募っている。

本サイトでも紹介した「Qrio Smart Lock」。個人や企業を問わず、幅広く独自のアイデアをプレゼンテーションし支援を募っている

 

クラウドファンディング事業を始めるまで

――「Makuake」事業を始めた経緯を教えてください。

中山:僕が東南アジアでベンチャーキャピタリストとして投資活動をしていたころ、使っている身の回りのモノに日本製品がないことに、ある日ふと気付きました。周りの友達も誰も使っていなくて……。

当時はベトナムにいたのですが、他の周辺の東南アジア全般にわたって、ほとんど使われていなかったんですよ。日本にいると、「世界中で日本のモノは使われているし、全ての人が喜んで使っている」みたいな雰囲気があると思いますが、実際に海外の現場に行った時に“なんか違うぞ”、と感じました。

ものすごいテクノロジーを使っている必要はないと思いますが、踏み込んだ思い切ったモノが生まれているかといえば、そうじゃない。モノを次々と生み出せるようなインフラ、仕組み、サイクルがあればいいなと思っていました。

ちょうどタイミングよく、サイバーエージェントグループとしてクラウドファンディング事業に参入するという決定が2013年の3月末にされ、「社長やらないか?」と打診がありました。そのときにピンときて、「これだ!」と。

連絡をもらった1週間から10日後には、全部引き継いで日本に帰ってきて、「サイバーエージェント・クラウドファンディング」という会社をつくりました。会社を設立したのは2013年の5月1日ですね。

――最初のメンバーを集めたときは何人くらいでしたか?

中山:最初は8人でした。案件を探してくる者、エンジニア、デザイナーなど、いろんなポジションの人間です。僕の他に役員が2人いて、開発、営業を見てもらっていました。起ち上げだったので、みんながプレイヤーのようなカタチでした。

――会社の方向性が固まってきたのはいつ頃でしょう?

中山:Makuakeを使って成功したストーリーや、「こういう使われ方は効果がある」「こういうプロジェクトはユーザーが楽しんでくれて、リピート率が高い」といったことが見えてきたのが2015年になってからです。そこに至るまでは、いろんな可能性を探っていた、という感じですね。

「ピックアッププロジェクト」や「人気ランキング」など、さまざまなプロジェクトがサイトには紹介されている。

「ピックアッププロジェクト」や「人気ランキング」など、さまざまなプロジェクトがサイトには紹介されている

 

クラウドファンディングの具体例

――Makuakeを利用する人(実行者)の個人と企業の割合はどうでしょう。どういった方が利用されていますか?

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https://www.makuake.com/project/meatkeep/ 「店舗」をプロジェクト化することも。写真は国内クラウドファンディング飲食ジャンルで最高額の記録となる「熟成肉レストラン」の成功例

 

中山:実際に進んでいるものはメーカーが多いですが、数でいうと個人の実行者の方は大勢います。最近では、「店舗」のカテゴリが人気ですね。従来は店舗をオープンした後にWebや雑誌に掲載してもらう形でプロモーションし、お客さんを呼び込む手法が多かった。なので大体2、3カ月はお客さんがいなくて苦しい時期が続くという状況でした。

しかし、Makuakeを利用することによって、ロイヤルカスタマーになってくれそうな顧客を何百人と獲得できる。お店は実際にオープンしてからじゃないと売り上げは入ってきませんが、先にお金出してくれた人に“会員権”や“食事券”を渡すことによって、キャッシュが先に入ってくる。

お客さんも何百人と抱え込んでからになるので、安定したスタートを切りやすいんです。これはモノ系の新商品とは違うクラウドファンディングの活用方法として注目しています。

 

――他に人気や注目のジャンルはありますか?

中山:日本も海外も、最初に「音楽」「映画」はかなり使われるジャンルなので、同じように盛り上がります。数は少ないけど、もっと盛り上がると面白いと感じているのが「アニメ」ですね。日本の強みですし、世界一クオリティの高い国なので。

片渕須直監督による『この世界の片隅に』。原作・こうの史代のアニメ映画化をプロジェクト化し、「36,224,000円」という巨額の出資を集めた。

片渕須直監督による『この世界の片隅に』。原作・こうの史代のアニメ映画化をプロジェクト化し、「36,224,000円」という映画ジャンルでは国内最高記録となる巨額の支援を集めた

 

中山:話を持ちかけたのは僕ですが、この『世界の片隅に』は三田村が担当したプロジェクトでした。次期、宮崎駿監督と期待される片渕須直監督によるアニメーション映画です。

――映画の内容や制作に関しても実行者と話し合いをされるんですか?

中山:アニメはさすがになかったですね(笑)。プロダクトの場合、こちらから言うことはかなりあります。ファッションに関しても同じです。担当キュレーターが基本的には責任を持って進めます。タイトルや写真からキッチリ入って、サイトの見せ方を組ませていただきます。

三田村さんが担当した「水を弾くパーカー」

キュレーター三田村さんが担当した「水を弾くコットン素材のパーカー」

 

どのようにプロジェクトは成功に導かれるのか?

makuake 三田村

――三田村さんの「キュレーター」とは、どんなお仕事になるのですか?

三田村:プロジェクト実行者の方は「これを作りたい」という、モノに対するこだわりは強いんですよ。でも、“その(商品などの)ターゲットは誰ですか?”“その人たちが欲しがる理由は何ですか?”“理由がないと心が動かないので、お金も動きませんよね”という形で、つくりたいモノをアピールするために、どのように理由付けをするかを私たちキュレーターがいっしょに考えていきます。

――三田村さんは元々コンサル的な仕事を経験されていたのですか?

三田村:サイバーエージェントのインターネット広告事業本部で、広告制作のクリエイティブに従事していました。コピーライターやプランナー、クリエイティブディレクターのような仕事をしていたので、Makuakeではクライアントではなく実行者の方に、その知識と経験をどう生かせるかを考えています。

広告と違うのは「商品(モノ)」と「伝えたい相手」の間に広告というレイヤーがあることですね。つまり「モノ」以前に「この広告が好き・嫌い」というように、モノではなく広告の判断になってしまう場合もあるんですよね。

クラウドファンディングは商品そのもので勝負ができます。だから、いかにプロジェクトページの精度を高めるか、がポイントになります。「この商品がいいんですよ」「あなたの生活が楽しくなりますよ」と、どのように伝えるかを一緒に考えていきます。

やはり人は「心」が動かないと反応してくれません。スペックを提示すれば心が動くわけではないですよね。その“気持ち”はどのように作りましょうか、を一緒に考えて組み立てる感じです。

それ(=商品)を手にした時に“自分の生活がこれだけ楽しくなる、ワクワクする”という体験価値が必要なんです。「コンサルティング」「クリエイティブディレクション」の2つがキュレーターの主な仕事だと思います。

――サービスの開始時、すんなりと「Makuake」というサイト名は決まりましたか?

三田村:いろいろな案がありました(笑)。ただ私にとってのMakuakeという意味は、「舞台の上に立っているのは実行者」という意味があるかな、と。実行者の方が舞台の上でスポットライトを浴びて、そこに観客がいて、スタンディングオベーションしているんです。

私たちキュレーターはその“幕”というか、“緞帳”を上げる役割だと思うんですよ。そういう意味では、黒子です。実行者の方が生み出したいプロダクトやサービスが、いかに輝けるか。私たちは何をその人に提供すればいいのか。舞台でちゃんと輝けるような舞台っぽい“幕開け”という意味もあるかな、と思います。

――通常、抱えている案件はいくつくらいですか?

三田村:サイトに掲載されているもので20~30件、準備中のものが15件くらい。各キュレーターはみな同じくらいですね。このくらいが、クオリティを下げることなく、責任をもってコンサルできる数です。大変だと思うけど(笑)。

 

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――実行者が応募する際に、対応や条件といったルールはあるのでしょうか?

中山:応募されてきたお話は、ほぼ全部聞いていると思います。ミーティングの前にまず電話でお話しするなど、ケースバイケースです。実行者ご本人も現実味がなく、なんとなく応募されたというケースもありますよ。電話できちんと説明して、改めて応募いただいたり、次にお会いする日時を決めたり、いろいろです。最初から無下にお断りはしませんよ。

実行者の方がやりたいことに対し、どの段階に今現在あるのかを、お電話やミーティングで見ています。「2か月後にまたご連絡するので、○○まで進めておきましょう。そこでもう一回お話しましょう」など、スケジュール管理に気をつけています。社内でも短期長期的な全体的な流れを見失わないように、共有スケジューラーのようなツールを開発して使うなど、システムで効率的にできるようにしています。

――実行者が決まった時、具体的な契約書は交わすのですか?

中山:もちろん相談は無料でさせていただき、お話をして「進められそうだね」となったときに申込書を頂きます。その段階で組織的に一旦審査を入れています。「エントリーシート」でプロジェクトの概要をいただきますが、各ジャンルに審査項目があって、社内の「プロジェクト審査委員会」でしっかりと判断させていただきます。それを経て、進められそうなプロジェクトは、ジャンルごとにキュレーターに聞いて審査していきます。

――実行者の中にはリピートされる方もいますか?

中山:1回目に失敗して、2回目に別プロジェクトでチャレンジする方もいらっしゃいます。Makuakeの特徴だと思いますが、全戦全勝じゃなくていいんですよ。1個スーパーヒットができたら、万々歳じゃないですか。

例えば5個のプロダクトを生産し、在庫を抱え、世の中に流してみたけどダメでした、というのは高リスクですよね。でも、作る前にMakuakeで世の中の反応を見ることができるので、ダメならやめることができる。反応があったモノだけ、しっかり注力することができます。

――Makuakeでプロジェクト後に市販することは問題ない?

中山:どんどんやって下さい、ですね。市販化までのステップの大きな谷を越えるためのツールなので。Makuakeから生まれたモノを日本中の人が使っていると嬉しいですし、それを思い描いて会社をつくりましたから。

ただ、実行者さんにお願いしていることはあります。利益を出すのはもちろん大切なのですが、Makuakeを通して最初に支援してくれた人は、ものすごく大切なファンだということです。

「成功したから、そのまま市販化しよう」「大量生産してコスト下げよう」となると、最初にファンになってくれた方はどう感じるか、ということです。最初のファンがみんな離れてしまうのは、すごくもったいないですよね。

 

これからのMakuakeはどこへ向かう?

 

――会社の事業として、今後進めていきたいことはなんでしょう?

中山:もっともっと新しいモノが次々と生まれてくるというような状況をつくり、楽しんでいただきたいですね。そして世の中にないモノをいち早く手に入れられるだけじゃなく、モノをつくる、モノを選ぶこと、つまり時代が変わっている感が味わえる場でありたいですね。

使いやすい機能もどんどん追加していきたい。例えばメーカーや実行者のモノをつくる側と、購買者側とのコミュニケーションが楽しくなって、より自分自身が特別扱いされている感覚を味わえるとか。モノづくりに自分の意見が反映される、新商品に意見を言えるのもいい。そうしたサイトを目指して設計を進めています。

――キュレーターの仕事の範囲も変わりそうですね。

中山:「キュレーター」という言い方を続けるか分かりませんが、三田村のポジションであるキュレーターは、例えば「ベンチャーキャピタリスト」という新しい職業が確立したかのように、「キュレーター」という従来とは異なる職業を、社会の中で“当たり前化”していくことは意識しています。

――今後のMakuakeのビジョンは?

中山:あらゆるモノがまずMakuakeを通してスタートする状況を作っていきたい。これは事業の成功や成長というより、モノづくりが変わることで、今では想像がつかないくらい、新しくて面白いモノがたくさん出てくる社会になって欲しいと思うからです。

世の中に受け入れられて誕生する仕組から生まれた、「新しいモノ」「お店」「コンテンツ」が増えることが、素敵な未来につながればいいなと思います。あの日思い描いていた21世紀に、ちゃんと近づいているじゃないかって(笑)。

 

――今後、ビジネスとしての展開はどうお考えですか?

中山:考えていることはたくさんあります。流通やメディアと組んでできることはあるかもしれないですね。それに銀行と組んだり、モノを生み出ために必要なシステムのパートナーと一緒にビジネス作りをしていったてり……。僕たちは「クラウドファンディング」だけに全く囚われていなくて。

「新しいなにか」がスタートすること対して、どうアプローチするかがMakuakeのチャレンジだと思っています。可能性があることは、どんどんどんどんやっていきたいですね。

 

【企業データ】(2016年2月時点)
会社名:サイバーエージェント・クラウドファンディング
事業内容:クラウドファンディングサービスのサイト運営
事業開始時期:2013年
取り扱い案件:1000件以上(2016年2月)
人数:約30人

https://www.makuake.com/
(取材・文/三宅隆)

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