ザ・ノース・フェイスの人気リュック、誕生の裏にはアップルの存在があった

■「バイト」って“かじる”?

狩野さん でもちょうどこの時期は、リュックに注目が集まった時期だったんです。

――東日本大震災ですね。

狩野さん そうです。2011年に東日本大震災が発生し、多くの人が歩いて帰宅を余儀なくされ、そこで両手が空くリュックを仕事カバンにという流れが起こりました。また、スマホの普及も大きかったように思います。ブリーフケースでは片手しか使えないが、リュックなら両手を使えるので。

▲止水ファスナーを使うなど、水に弱いデジタルデバイスを守るための仕様には抜かりなし

――たしかに。2012年というと9月にiPhone 5が発売された年です。ガラケーからスマホに乗り換える人が増えた時期ですね。

狩野さん ノースでは、「バイト」以前はあまりタウン向けのバッグを手掛けていませんでした。トレッキングベースのデイパックで“黒デイパ”ブームがあったり、クラシックなアウトドアっぽいブリーフケースを作ったりはしていましたが、完全に街に寄せた黒一色みたいなモデルはほぼありませんでしたね。

――アウトドアブランドのビジネス向けというと、リュックにもなる3WAYのブリーフケースというイメージはたしかにあります。

狩野さん 弊社は昔からカジュアルスタイルで出勤しているんですが、ノースのバックパックを背負って出勤している人はほとんどいませんでした。でも「シャトル」が出てからは、社員も使い始めたんです。我々開発チームとしても、以前から「山に行くときはもちろんだけど、会社に来るときも社員に背負ってもらえるカバンを作りたい」という気持ちがあったので、やっぱりうれしかったですね。おかげで社員からもフィードバックをもらえるようになり、それらを少しずつ反映させていったりもしています。

――ずっと変わっていないわけではないんですね。

狩野さん 実はこれまでに4回ほどアップデートしているんです(笑)。フィードバックを活かしてマイナーチェンジを行っての現行モデルになっています。

▲大きく開く「シャトルデイパック」のメイン収納部。1泊2日程度の出張の荷物なら余裕で入る

――すいません、気付きませんでした。でも当初の、アップル向けバッグということで生まれたシンプルなデザインは変わらず踏襲されていますよね。

狩野さん そうですね。そこは変わっていません。実は「バイト」をベースに生まれた「シャトル」シリーズは、当初「アップル」という名前を付けたかったんですよ。さすがに無理ですが(笑)。でもアップル向けに作った「バイト」には、BITE=かじる、という意味があったりするんです。それとデジタル機器を入れるということからBYTEという意味も隠れています。

――リンゴをかじっちゃう!(笑)

狩野さん そう(笑)。もちろん「シャトル」にもちゃんと意味があるんですよ。デザイナーが名付けたんですが、2地点を行ったり来たりする“シャトル”から来ています。シャトルバスとかと同じですね。

――家と職場の行き来で使ってほしいという意味ですか?

狩野さん それもありますが、家から駅に行き、電車に乗って空港に向かい、海外に出張し、そして帰ってくる。そんなビジネストリップの意味の方が強いですね。空港って保安検査でPCをカバンから出さなきゃいけないじゃないですか。その時に、他の荷物をかきわけて引っ張り出すのではなく、PC用の収納部があればスマートに出し入れできる。そういった用途も想定していました。

▲今では珍しくない独立したPC収納部だが、2012年発売時にすでに作られていたと考えると画期的だ

――カバンをひっくり返している人、よく見かけます。

狩野さん スムーズに抜けるってスマートですよね。他にも、宇宙服の背中にある四角い部分もイメージしています。あそこって宇宙空間で必要なモノが詰まっているじゃないですか。そのイメージから宇宙→スペースシャトルで「シャトル」。背負う人にとって必要なモノをすべて入れられる四角いバッグという意味です。
 

【次ページ】スリムモデルはアップル社員のひと言で生まれた

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