映画とお酒、そのふたつがあればいい。映画関係者が教える「お酒×映画」の相性

【酒と泪と男とカルチャー】

お酒と映画。何と相性の良い響きでしょうか。お気に入りの映画を観ながら、好みの1杯を呷る…現実でありながらアルコールの手助けもあってまるで夢の中にいるような、そんな心地良いひととき。映画のプロたちもそう思っているようです。今回は映画が好きで好きで仕方がなく、趣味をとうとう仕事にしてしまったふたりにお酒と映画の相性の良さについてインタビュー。果たして映画関係者は何の映画に何のお酒を合わせるのでしょうか?

■主役は名作映画と語り合う相手。会話の邪魔をせず、余韻にそっと寄り添う「お酒の正解」とは?

1982年5月、東京・渋谷のあるビルの小さな1室から始まり、現在では40年以上の歴史を持つ老舗ミニシアターとなった「ユーロスペース」。現在の場所へ移り21年、多くの映画ファンに愛され続けています。そんな同館の代表取締役で、上映作品の編成などにも携わる北條誠人さんに映画とお酒の素敵な関係についてインタビューを実施しました。

▲「ユーロスペース」代表取締役 北條誠人/1982年の開館から現在に至るまで、渋谷の地でミニシアター文化を牽引し続ける「ユーロスペース」。同劇場の代表を務めるとともに、自ら映画祭へ足を運ぶなど独自の視点で番組編成の陣頭指揮を執る

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが北條さんの役割や、上映作品の選定はどのような流れで行われているのか教えていただけますか?

北條誠人さん(以下、北條):主に「ユーロスペース」でどのような映画をかけるか、また上映する作品の最終的な決定など全体の番組作りを担っています。具体的な作品の決め方としては、配給会社から「この映画を上映検討してもらえませんか」という提案を受けることもありますし、私自身が映画祭へ足を運んで「この映画を上映したい」と思うパターン、その2パターンです。後者の場合は興味を持ってくれそうな配給会社を探したり、映画祭で一緒に見ている配給会社に声をかけたりして決めていきます。また、監督の生誕100年などの節目に合わせてデジタル修復された作品を上映したり、自分が興味のある監督の過去作品を集めて独自の番組を作っていくこともあります。

―なるほど。今までさまざまな作品に触れられていると思いますが、好きな映画とお酒、また思い出があれば教えてください。

北條:普段はどちらかというとビールで、ワインも飲みます。でも、“お酒と映画”と聞いて思い浮かべるのは「フォアローゼズ」のソーダ割り(ハイボール)ですね。20年程前にクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』を見たときのことです。本当に“いい話”なんですよ。小さなボクシングジムを営む不器用な老トレーナーのところにプロボクサーを目指す孤独な女性が弟子入りを志願してくる。最初は突き放しながらも次第に2人が本当の親子のような強い絆を深めていくというストーリーです。

――熱血スポーツ映画というわけではなく、深い人間ドラマが描かれている作品ですよね

北條:そうなんですよ。でも、決して説教くさかったりどっしりと重苦しすぎるわけではないんです。観終わったあとに胸に静かな感動が残るような、そんな作品で。夜の上映だったのですが、映画が終わって劇場内が明るくなったらたまたま親しい友人も同じ回を観ていて。それで目が合ってそのまま「軽く一杯飲んでいくか」と。行きつけというわけではないものの、ときどき行っていたバーに入って「フォアローゼズ」のソーダ割りを頼んだんです。

――なぜ、その映画を観たあとに「フォアローゼズ」を選んだのでしょうか

北條:「フォアローゼズ」は軽めでクセのない、華やかな味わいで飲みやすいバーボンです。映画自体がすごく良い話で、友人とお互いにその良さを共有できている。だからこそ、野暮な答え合わせはせず、「いい映画だった」という気分のまま別のことを話したかった。どっしり深いフルボディの赤ワインを飲んでうんちくを語り合うのではなく、気負わずに話せる落ち着いた空気感に軽い口当たりの「フォアローゼズ」がぴったりだと思いました。 “いい話”の映画を観たときにお酒を楽しむのなら、映画の余韻や会話の邪魔をしないクセのないお酒を選んで合わせるのが好ましいですね。

――鑑賞後の余韻やそのあとの会話にそっと寄り添ってくれるようなお酒の選び方で、とても素敵ですね。ほかにウイスキーと相性の良い映画や、お酒を選ぶ際のこだわりなどはありますか?

北條:そうですね、軽い飲み心地のウイスキーに合う映画で言うとやはりヨーロッパの映画か作家性の強いアメリカの監督が撮った映画になってくるような気がしますね。また、お酒の選び方は“誰と”や“どこで”など映画を観るシチュエーションによっても大きく変わってきます。先程話した『ミリオンダラー・ベイビー』は年齢の近い友人だったからこそ、気負わずに語り合える「フォアローゼズ」のソーダ割りがちょうど良かったんです。これが自分より若い世代だったり、逆に年上だったりしたらまた違うお酒を選んでいたでしょうね。

――確かに、一緒に観る相手によって変わってきますよね。ちなみに、季節などは何か関係しますか?

北條:例えば初夏、ゴールデンウィークの少しゆったりとした時間に恵比寿の映画館へ行ったとしたら、鑑賞中についつい「ヱビスビール」を飲みたくなります。でも、日比谷などの混み合ったシネコンだったら鑑賞中に飲む気分にはなかなかならない。でも、観終わったあとに友人を誘ってガード下の飲み屋へ行くこともあるし、作品の雰囲気によっては全く違うお店を選ぶかもしれない。映画とお酒のペアリングは作品そのものだけではなく、そういった複合的な要素で決まってくる面白さがあります。


――作品とシチュエーション、両方の掛け合わせでお酒を楽しむわけですね。業界の方同士でコミュニケーションを取る場合、お酒の席は多いのでしょうか?

北條:映画館の人も配給する人も制作する人も映画業界の人はお酒が大好きな人が多いので、よく飲みに行きますよ。映画の仕事って興行収入や年末のベストテンに入ったかなど指標になるものはありますが、数字だけで測れない部分も多いんです。最終的にはその作品や仕事、関わる人を“好きか嫌いか”という判断基準が同じくらい重要で。だからこそ、自分たちの方向性や趣味が相手とどこまで合うかをすり合わせるのにお酒の力が助けになるんです。構えずにお互いを理解し合い、新しいものを立ち上げるうえでも重要なコミュニケーションツールになっていますね。

――お酒は仕事上の価値観を共有するためにも一役買っているのですね。話は少し変わりますが、ご自宅で映画を観ながらくつろぐ際、こだわりのAV機器などはありますか?

北條:我が家はシアター仕様にはせず、あえて普通のテレビモニターで観ています。私自身、映画は映画館のものだと思っているので家を中途半端に映画館に近付けようとは思っていないんです。ちゃんと向き合うべき作品は劇場で観るものだと明確に線を引いていますからね。だからこそハリウッド映画や日本映画などで気楽に観られる作品は仕事モードをオフにしています。普通のテレビドラマを観るような、あくまで日常として気負わずカジュアルに楽しむ。そのためにあえて「テレビ」というデバイスを選んでいます。

劇場で真剣に向き合う時間もあれば、家でリラックスする時間もある。そして、観終わったあとに誰かと語り合うためのお酒もある。映画もお酒もそのときどきの気分やシチュエーションに合わせて自然体で付き合っていくのが、1番豊かな楽しみ方なのかもしれませんね。

「ユーロスペース」
住:東京都渋谷区円山町1-5 3階
営:上映作品による
休:元旦

>> ユーロスペース

【次ページ】昭和の香りが残る、あの映画館の編成担当が語る「お酒と映画」

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