音楽とともに楽しむお酒はより美味しい。アーティスト鷺巣詩郎、石渕 聡、小宮山雄飛に聞く、「お酒と音楽」の魅力とは?

■楽しかった音楽体験もそのとき飲んだお酒で思い出せる

▲石渕 聡/コンテンポラリー・ダンスカンパニー「コンドルズ」及び「コンドルズ軽音楽部(THE CONDORS)」のメンバー。大東文化大学教授。著書に『冒険する身体 現象学的舞踊論の試み』(春風社刊)がある。ダンスに音楽、そして文学までマルチに活躍するアーティスト兼文学博士。

コンテンポラリー・ダンスカンパニー「コンドルズ」に1996年の立ち上げから参加し、アーティストとして活動する傍ら大学で教授として教鞭を執る石渕 聡さん。活動するフィールドが広く、加えて扱う楽器や音楽もさまざま。そんなマルチに活躍し続ける石渕さんが考える、「お酒と音楽」とは?

――よろしくお願いします。何でも、石渕さんは変わったお酒を嗜んでいるとお聞きしたのですが?

石渕 聡(以下、石渕):よろしくお願いします。そうなんです、日本ではなかなか手に入らないんですけどスペイン・バレンシアではよく飲まれる「CASSALLA(カサージャ)」というお酒で。読み方も合っているか怪しいんですけどね。多分ウォッカとかそういう部類に入るのかな…アルコール度数も46%あるので結構強い。でも、甘みもあって香りも豊かですし美味しくて。

――このお酒はなぜ飲むようになったのでしょう?

石渕:バレンシアにアルヘメシという町があるんですが、そこで「聖母サルー祭」というお祭りが毎年9月に行われていて。小さい教会も大きい教会も一緒になって、マリアさまがお神輿みたいなのに担がれていて、町中で音楽が演奏されて。最後には50人くらいで8段くらいの大きなひとつの塔を作って、みたいな凄く盛り上がりを見せるお祭りなんですけど、そのお祭りに参加したときに出合ったんです。

▲バレンシアではよく飲まれるという「カサージャ」。「アブサン」を思わせる草の香りや甘い香りが特徴的

――それは観光で行かれたんですか?

石渕:それがですね、その人間で作る塔の周りで作っている最中ずっとドルサイナという笛みたいな楽器を吹いているんですけど、それに出ようと。そもそものスタートというかきっかけはトウキョウ・チリミテルスというバレンシアの民族音楽をやっている人たちがいるんですけど、僕も入れてください! って全然そんなお祭りを知らないときに頼んで一緒に演奏させてもらっていたんです。で、リーダーの人はスペインに普段は住んでいるんですけど、日本に帰ってきたときにそういう祭りがあるから皆で本場スペインで演奏しない? って言うわけですよ。それで面白いじゃんってなって。

――そのお祭りは部外者というか、その土地の人ではなくてもすぐに演奏させてもらえるんですか?

石渕:いや、演奏させてくれるわけないじゃん! って最初は皆言いましたよ。でもリーダーが「昔、演奏させてもらったことあるから全然大丈夫でしょ」みたいに言っていて。それじゃあ、練習して皆で行きましょうかってなったんです。もう、そこから猛練習で。何でかと言うと、人間の塔のそばでドルサイナを吹くには試験があるんです。でもまあ人間の塔の近くだけではなく、全部で10プログラムくらいあるからどこかで吹ければいいやという感じで。

▲ドルサイナを演奏する石渕さん

――ちゃんと試験があるんですね。

石渕:そう。現地の人たちもバンバン落ちる。でも僕ら5人で行ったんですけど、日本人じゃないですか。だから「せっかく日本から来たし、皆で吹いてください」って言ってくれて。テストが無意味なものになっちゃいました(笑)。それで無事演奏できたんですけど、夜遅くまでずっと祭りは続くんですけど、その間沿道ではこの「カサージャ」をヤカンに入れて、それを「ファンタレモン」で割ってひたすら皆で飲むんですよ。演奏者も見ている側も皆で、ワーッと。それがしんどいんですけど楽しくて。現地の方々からすると日本人は珍しいでしょうけど、それでも輪に入れてくれた気がしたし、とても良い思い出です。

――長時間演奏もして、しかも飲んでってまさしく“祭り”って感じですね。聞いているだけでもとても楽しそうなのが伝わってきます。

石渕:だから「カサージャ」は味ももちろん美味しいんだけど、エクスペリエンスの要素が強いですね。あのときの、バレンシアの人たちとの繋がりを飲むたびに思い出します。地酒みたいなもんですし。だから、代々木とか赤レンガとかでスペインにまつわる催事がやっていたりすると我々も伺ったりするのですが、そのときに「カサージャ」を持ち込んだりね。すると、バレンシアの人がたまにフラッと来て「何でこのお酒があるの?」と驚いて、そこから会話が広がったりする。やっぱりお酒もその土地の文化、みたいなものが乗っかっているんでしょうね。日本でも泡盛とか焼酎とか日本酒とかありますし。

――お酒を通じてさまざまな人と交流できるのもお酒自体の魅力ですよね。ところで、「カサージャ」を飲んでいるときはどのような音楽を聴かれますか?

石渕:やはりスペインの民族音楽をアテにちびちびとやることが多いですね。一口飲んで音楽に耳を傾けていると、本当にあのときの強烈な記憶が蘇ります。ドルサイナの音色、教会などの建物、人々の喧騒、そして「ファンタレモン」で割られたあの味…。今年もまた行って演奏しようと思っているので、感傷的になるというよりもワクワクしている気持ちのほうが強いですかね。

――ちなみに、民族音楽は何で聴いていますか?

石渕:普段はPCにiLoudのスピーカーを繋げて聴いています。あとはほかのメンバーが来たときに彼らが聴けるようにKanto Audioの「ORA」もありますよ。それぞれに直接音が向かうように、どちらもセットしています。ここで実際に音楽を制作してチェックすることも多いですからね。

▲上はiLoud、下はKanto Audio「ORA」

――なるほど、それぞれ座って聴く位置に合わせているわけですか。それにしても、さまざまな楽器がありますね。

石渕:そうでしょう? 楽器が好きなんですよ。もう、楽器オタクと言ってもいいくらいで、いろいろな国で気になる楽器があったらすぐに買っちゃう。似ている形のものは弾き方も似ていたりしますし、逆にパッと見て何をどう操作すれば良いのかわからないものもあります。バレンシアで演奏したドルサイナはトランペットとか管楽器の仲間ですが、吹いてみたいなって思ったのは音のパワーがすごかったから。圧力があるというか、耳にビリビリと来るくらい力強くて大きな音を奏でられる。世の中には本当にまだまだ知らない楽器ばかりだし、出合うたびに発見と驚きがある。今はお囃子も練習しているし、やっぱり音楽や楽器が好きなんです。

――先程、スピーカーの話が出ましたが制作しているときに音楽を流しながら飲むことも?

石渕:仕事が終わってから飲むって感じかな。1年くらい前からバンド(それにゅい)を始めて、毎月配信しているんです。毎月新曲を出し続けていて。3か月に1回くらい3曲レコーディングしてっていう感じなんですけど、レコーディングが終わって出来上がったラフミックスを皆で聴いているじゃないですか、お酒を飲みながら。それで気付いたら1本空いていて、しかも飲みすぎて寝ちゃっていた、とか。もちろん、レコーディング中とかは仕事モードであーでもないこーでもないって意見を言い合うんですけど、お酒を飲みながら聴いていると、意外なところで「あれ? これってもっとシンプルでいいじゃん」とかなるわけですよ。脳が良い具合にリセットできるというか。多分、文章を書くのも似たようなところがあると思うんですよね。

▲イボドラムを叩く石渕さん。トランクの中にもいろいろな国の楽器がぎっしり

――お酒が脳をリセットする装置なんですね。

石渕:そう、次の日メンバーに「あそこをこうしたほうが良い」とかって話すとやっぱりそいつも飲みながら聴いているから「俺もそう思った!」とかなる(笑)。要するに、聞き手の耳になっているんだと思います。お酒は音楽を楽しむ“お供”としての役割もあるけど、我々にとっては言わばオンの状態からリセットしてくれる装置の側面もある。だから、お酒も音楽もやめられないというよりはワンセット。どちらも楽しい、なくてはならないものです。

>> 石渕 聡(コンドルズ)

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