【酒と泪と男とカルチャー】
お酒を楽しむ場を思い返すと、特に出先ではいつも音楽が流れていることに気が付きます。軽い酔いと微かに聴こえてくる美しい音色…何とも心地良い時間です。「お酒」と「音楽」は言わずもがなとても相性の良い組み合わせ。その証拠にジャズバーやクラブなど、そもそもワンセットになっている場所が街には溢れています。今回は「お酒×音楽」の魅力についてプロのアーティストたちにインタビュー。好きなお酒や音楽、そしてシチュエーションなど語ってもらいました。
■お酒×音楽。大事なのは心や体が踊るかどうか
▲鷺巣詩郎/作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。数々のアーティストの楽曲を手掛けるだけではなく、映像音楽のフィールドでも活躍。特に庵野秀明監督とは「ふしぎの海のナディア」以降、「エヴァンゲリオン」シリーズをはじめ多くの作品でタッグを組み、彼の楽曲なくしては語れないほど。2020年には東京オリンピックの開会式で国家「君が代」の編曲も担当するなど、世界に誇る日本のアーティストのひとり。
「エヴァンゲリオン」シリーズをはじめ、さまざまな庵野秀明作品で劇中曲を担当する作曲家・編曲家・音楽プロデューサーの鷺巣詩郎さん。誰しも一度は彼が生み出した音楽を耳にしたことがあるはず。国内だけではなく世界中を飛び回り活躍し続ける鷺巣さんに、お酒と音楽について取材を敢行。毎日忙しく活動する中で、お酒や音楽はどのような存在なのでしょうか?
――普段、よくお酒は飲まれるのでしょうか?
鷺巣詩郎(以下、鷺巣):仕事が終わってから、食事をしながら飲みますね。ほとんど食中酒です。普段、パリやロンドンにいるのですが自分で夕飯を作ってね。時間は結構バラバラですが、仕事が終われば気兼ねなく飲めるじゃないですか。
――その際、何を召し上がることが多いですか?
鷺巣:ビールを飲む場合もありますけど大体は白ワインですかね、フランス産の。最後にお菓子を食べながらシャンパーニュを飲むんですけど、ほぼ毎日飲んでいます。自分の音楽を聴きながら。

――ご自身の楽曲を聴きながら、というのはチェックも兼ねて?
鷺巣:いえ、あくまでチェックは仕事中に終わらせるので。ただ、何と言えば良いんですかね…。仕事のとき、張り詰めた状態で聴くのとはまた違って、食事しながらお酒を飲んで聴いていると、案外気付きがあるんですよ。少し気持ちがリラックスしている状態でないと気付かないことがあるというか。オフのときではあるものの、それは結構重要視しています。敏感過ぎない状態というか。
――なるほど。結構まったりと聴いているんですか?
鷺巣:そうですね、でも実を言うとBGM的に聴く音楽はあまり好きじゃなくて。ホテルのバーとかで静かにかかっている音楽を聴くよりも、逆にガンガンに音が鳴っているクラブとかのほうが好きなくらいで。それこそ自分でもクラブを経営していたこともありますし、中途半端に聴こえてくるよりは大音量で聴きたいですね。

ーーそうなんですね。落ち着いた楽曲も多数制作されているので意外です。
鷺巣:僕はどんなに静かな曲やスローな曲を作ったり演奏したりしても、基本的に音楽はダンスミュージックだと思っているんです。踊るためのもの。例えば、スローでムーディな音楽であっても、特に海外だと恋人と一緒に踊っているじゃないですか。腰を音楽に合わせて動かしたくなるというのかな、そういう気持ちを喚起させる音楽を作りたいと常に思っています。踊りと音楽と、そして適量のお酒。そもそも自分にとって、その組み合わせは必然というか当たり前のものという感じなんです。
――その“踊りたくなる音楽”というのは、例えばアニメなどの劇中曲でもでしょうか?
鷺巣:もちろん。どうしてかと言うと、やっぱりそのシーンごとの音楽って心が踊ったり、ざわざわしたり、不安になったりとか観ている人たちの心情を動かすものじゃないですか。そう考えると、根底にあるのは人を動かすということになるんです。腰などの体だけではなく、心も同じようにね。特に劇中音楽は何千年も前からギリシャで栄えたものですし、要するにステージの脇で合唱していて、それに合わせてステージ上の演者たちは踊っていたわけで。劇音楽というのは観ている人の心を動かすものであると同時に、舞台にいる人間を舞わせるものですよね。だから、「エヴァンゲリオン」にしろ「ゴジラ」にしろ、体であれ心であれ“人を動かす”というのが僕の音楽の根底にはあるんです。
▲日本でレコーディングする際は、こちらの「リズメディア」のスタジオをよく使用するそう
――人を動かす、だからダンスミュージックということですね。今度はお酒についてもお聞きします。ワインを好きになったきっかけや好きな理由はありますか?
鷺巣:僕は小学校から高校までフランス語の授業がある学校に通っていたんですが、15歳くらいになると夏休みにフランスに行くんです。林間学校みたいな感じですかね。それで通っている学校の先生は来なくて、国立大学のフランス語の教授が付き添ってくれるという良いシステムで。初めて参加したとき、1970年代の初めくらいだったかな、羽田空港の出国カウンターを過ぎたところ辺りで付き添いの先生が言うんです。「君たち、もうここからは日本じゃなくてフランスだ。せっかく治外法権なんだから、ワインもどんどん飲みなさい」って(笑)。さすがに今はそんな理屈は通らないでしょうし、僕らはもう時効でしょうけど、当時はそんな感じで。
――それではフランスでワインを?
鷺巣:そうですね。実際、僕らみたいな子供たちでもフランスでレストランの席に着くと注文をするときに「何を飲みますか?」って聞かれるんです。「白ですか? 赤ですか?」って。あちらでは白か赤か、何もいらなければ水。この3択でした。結局、食中酒だからなんですよね。食べ物にはワインをあてがうというのが文化なんですよ。日本でお茶が付いてくるようなものですよね。だから、気付いたときには当たり前のように食事と一緒に楽しむものに自分の中でなっていたんです。

ーーそれにさらに音楽を合わせる、と。
鷺巣:音楽ってやっぱり何かと合わさると劇的な効果が出ますから。フィギュアスケートもそうですし、オリンピックでブレイキンもやりましたし。相乗効果は計り知れないですよね。でも、映画やアニメ作品で音楽が流れているのってよく考えると不思議ですよね。現実では鳴っていないじゃないですか。
――確かに現実では音楽って鳴ってはいないですね。
鷺巣:でも、面白いのが人間の心の中では鳴っていたりするんです。例えば遅刻しそうなときとか、急いでいるような音楽が頭の中に流れていたりするじゃないですか。それもある意味、心が踊らされている状態なわけで。やっぱりバラードだろうと“踊らせる”というのが自分のテーマです。
▲テーブル上の2枚のLPは「THE WHITE ALBUM -EVANGELION 30TH ANNIVERSARY 1&2」。その奥のポスターは鷺巣さんが以前経営していたクラブの看板をプリントしたもの
――最後に、音楽を聴く環境について伺いたいのですが、スタジオで基本は聴かれているんでしょうか?
鷺巣:本当にそうです。スタジオの最高のスピーカーで。だから僕は仕事が終わってスタジオで飲みながら音楽を聴いて、今でもよく踊ります。特にロンドンとパリではとにかくよく踊っていますよ。踊るというか、体が動くんです。自分が良い音を仕上げられたときは喜びを表現したいと思うし、自分も勝手に動いてしまいますね。自宅にもそこそこ良いスピーカーを置いているので、近所迷惑にならない程度の音量で聴いて。家でもよく妻と踊ります。
――素敵ですね。
鷺巣:音楽とお酒、そしてダンスは僕の中では三位一体なんです。自分が生きていくうえで欠かせない3要素ですね。
>> 鷺巣詩郎


















