キヤノンがまとう多彩な黒【2026 BLACK Collection】

ここに並ぶカメラの黒は、どれも同じではない。歴代のカメラデザイナーが時代に寄り添いながら考え、生み出してきた黒だ。キヤノンのデザイナーに詳しく聞いた。

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▲写真左:キヤノン株式会社 太田晴紀さん 総合デザインセンター室長。製品を手がける傍ら、公式YouTubeなどでカメラデザインの解説も行っている。デジタル一眼レフの名機「EOS 7D」も手がけた。右:キヤノン株式会社 柏木良行さん キヤノン総合デザインセンター主幹。フラッグシップモデル「EOS R1」をはじめ、ミラーレスカメラを主に担当。チーフデザイナーとしてデザインの取りまとめを行う。

「実は、カラフルな色より黒のほうが難しいんです」。

最新カメラの外装には、軽くて強いマグネシウム、電波を通すプラスチック、ラバー製の端子カバーなど、複数の素材が組み合わされる。

素材が異なれば色の出方が変わる。そのブレが特に見えやすく、ごまかしが利かないのが“黒”なのだという。そのためパーツの素材ごとに個別の黒を用意し、カメラとして完成した時にひとつの同じ“黒”として見えるよう気を配っている。

「EOS R1」では、細かな樹脂のビーズを含んだ塗料を用いることで、成型されたマグネシウム外装の凹凸も埋めている。美観と耐久性を兼ね備えた、まさにプロフェッショナルな“黒”なのだ。

さて、カメラにおける“黒”の変遷を紹介したい。1970年代当時、プロ用のカメラといえば黒で、シルバーにはアマチュアのイメージがあった。報道写真家が黒塗りカメラを特注するなど、“黒=プロの象徴”とされていた歴史がある。若年層にクラシカルなシルバー色のカメラが好まれる昨今はその揺り戻しとも言えるだろう。

黒いカメラにも、ツヤあり・ツヤなしで時代性が表れる。例えば1970年代の「F-1」では、高級感を表現するためにツヤあり塗装を採用。しかし10年後の「ニュー F-1」ではザラついたマット塗装に変えている。これは“プロの道具”に対するイメージの変化が表れている部分だ。今も基本的にはマットな黒が採用されている。

現在の感覚では、ツヤのある黒が“プラスチッキー”と受け取られやすいそうで、往年の黒塗りカメラの威光とは異なるイメージを抱かれがちだと言うからおもしろい。また、カメラの形状が曲面主体か平面主体かでも、もちろん似合う黒は変わってくる。

▲「同じ濃度の黒でも、ツヤによって“黒さ”が左右されるんです」

EOS R1の黒は、「とにかく黒くしたい」というデザイナーの探求心から、色を濃くするカーボンが限界まで詰め込まれている。

では、全ての光を吸収するスーパーブラックが理想なのか? と思いきや、「陰影が出ないと、こだわってデザインした造形が見えなくなってしまうから寂しい」とのこと。求めているのは、単純な黒の濃さだけではないらしい。

▲「こだわって造形したフォルムなので“黒の中の陰影”が大事!」

塗装の作業そのものは自動化できても、その色を合わせる工程においては、いまだデザイナーの目が欠かせない。同じ素材・同じ塗料でも、組み合わせるパーツの形状によっては色が合って見えないため、機種ごとに調整を繰り返してこだわって造形したフォルムなのでいるそうだ。

時代ごとに求められる“黒”は変わる。しかし、理想の黒を探し続ける姿勢は変わらない。そんな終わりなき探求が、キヤノンの“黒”を形作っている。

【次ページ】時代ごとに理想のブラックを突き詰めたカメラたち

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