【WTCC観戦記】迫力のフルボディコンタクトが連続。シトロエンが連覇達成!

会見するホセ・マリア・ロペス

会見で笑顔を見せるチャンピオンのロペス

ツインリンクもてぎでは、うれしいことに“サーキットタクシー”が私の到着を待っていました。サーキットタクシーとは、簡単にいえば同乗走行のこと。現役のWTCCドライバーにして、シトロエンワークスドライバーの運転でサーキットを走るのです。

私の順番が来たのでピットロードへ向かうと…。「ん!?」

本物のレーシングカーである、シトロエンの「Cエリーゼ(C-Elysée )WTCC」に乗れるのかと思い、意気揚々とピットロードへ向かった私を待っていたのは、市販車のシトロエン「C4」。

C4は、以前、試乗レポートをお伝えしたとおり、走りがメチャメチャいいモデル。しかし、サーキットでの走りとなると、話は別のはず。その上、乗車定員いっぱいの5名(ドライバー含む)が乗ってのドライブ、となると、文字どおり荷が重すぎるのでは…(ちなみに、CエリーゼWTCCはシートが1席しかないので、同乗のしようがな〜い!)。

ロペスが存分に振り回したC4。ハンドリングの良さを実感

そんな心配をよそに、C4の運転席に座るワークスドライバーのホセ・マリア・ロペスは、ニッコリ。2014年のWTCCチャンピオンにして、目下“WTCC最速のオトコ”と呼ばれるスーパースターのロペス。今年も、シリーズチャンピオン連覇に向けてポイントランキングのトップを独走中だったロペスです。そんなロペスのドライブを間近で見られるなんて、マジか!

ドアを閉めたと思ったら、ロペスの駆るC4は、いきなりグォーッと全開で加速。どんなに華麗なドライビングを見せてくれるのかと思ったら、1コーナーの進入でブレーキペダルをドーンと踏み込みます。前輪にほとんどすべての荷重が移っているのでは? という姿勢から、バンッと容赦なくステアリングを切り倒すロペス。

グリグリグリグリ…! ジョリジョリジョリ…!!

まさかのフロントタイヤ使いまくり。これはすぐに、タイヤが丸坊主になるパターン。なるほど、これはアトラクション、一種の“おもてなし”ですね。

そもそも、C4はスタビリティがとっても高いクルマ。普通に運転すると、キレイにレコードラインをトレースし、頼もしいくらい安定して走ってくれちゃいます。そんなC4のパフォーマンスに信頼を寄せているから、あえて大胆な荷重の変化や挙動の変化を招くドライビングで、キャーキャーと同乗者を楽しませてくれるのです。いやぁ、ロペスもすごいが、それに平然と応えるC4もすごい。

すっかりロペスに(一方的に)親近感を抱いたところで、WTCCの予選に突入です!

予選に向けて、メカニックがマシンを整備中

シトロエンのワークスチームは、4人のドライバーと4台のマシンをWTCCに送り込んでいます。昨年のチャンピオンであるロペスだけでなく、世界ラリー選手権で怒涛の9年連続世界チャンプに輝いたセバスチャン・ローブ、WTCCで年間チャンピオンを4回獲得しているイヴァン・ミューラー、そして、シトロエンに大抜擢された新進気鋭のマー・チンホワと、キラッキラッのスターぞろい。そんなわけで、今季は日本ラウンド以前の16戦のうち、シトロエンは14勝を挙げるなど快進撃を見せています。

ちなみに、1ラウンドにつき2レースを戦うのがWTCC流。1戦目の前に予選でスタート順位を決めるのですが、ノックダウン方式と呼ばれる仕組みで争われます。Q1、Q2、Q3の3ステージを経てポールポジションを争うのですが、Q1の上位12台だけがQ2へ進出。さらに、Q2の上位5台だけがQ3へ勝ち進めるようになっています。

さて、常勝シトロエン軍団は、予選でどんな闘いを見せてくれるのか? 期待して見ていましたが、ツインリンクもてぎを“ホームサーキット”とするホンダが、意地でポールポジションを奪取。それでもシトロエンは、2番手にロペス、3番手にローブ、5番手にチンホワと続きます。十二分に闘えるポジション取りです。

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そして、決勝のスタート。レース1は完璧なスタートでロペスがいきなりトップ。速い! ジワジワと後続を引き離し、他を寄せ付けません。これがノレているオトコ、ノレているクルマの実力なのか。

クールなラップを刻むロペスに対して、熱いバトルを繰り広げたのがシトロエン勢の4位争い。チームメイトとはいえ、実はガチのライバル関係でもあります。サイド・バイ・サイドでコーナーに飛び込むなど、全く容赦なし。ミューラー、チンホワ、ローブの順で走っていましたが、長いストレート後の90度コーナーでチンホワがミューラーのインを突きました。続くビクトリーコーナーでも押さえて、4位に浮上。う〜ん、パッシングの魔術師という異名を持つミューラーを抜くとは、チンホワ恐るべし。ただし、アウト側にいるチームメイトにもきちんと走行ラインを残しておくあたり、美しいチームワークです。普通は、走行ラインを残さず、行く手を遮っちゃうのがWTCCの常識ですからね。

そんなこんなで手に汗握っていると、あっという間の13周。チェッカーフラッグを独走のロペスが受けて、ツインリンクもてぎにおけるWTCCの初優勝を、シトロエンチームにもたらしたのです。ポディウムに立ったロペスはうれしそう!

しかし、13周では短いなぁ。もうちょっと楽しみたい…。そんな気持ちに応えてくれるのが、WTCCレース2の存在です。1日にワールドクラスのレースが2戦も観られるなんて、なんという幸せ。

そんなレース2のスタートは、リバースグリッド方式を採用。予選の上位10台がレース1とは逆の順番に並んでスタートするルール。つまり、予選10位がポールポジション、ポールシッターが10番手からのスタート、となるのです(11番手以降はレース1と同じポジションからのスタート)。

150914-pcj009しかーし! このレース2には魔物が棲んでいたのです。レース1で勝利したロペスに、スタート早々タイヤトラブルが発生。ピットに戻ってくるのがやっと…。

そんなレース2でも魅せてくれたのは、チンホワ。タイヤから白煙を上げながら90度コーナーに突入。元F1ドライバーにしてWTCCのレジェンドである、ホンダのガブリエーレ・タルキーニのインを刺して豪快にパッシング。実に鮮やか! さすがのタルキーニもこれに熱くなったか、さらに上位を目指すチンホワを後ろから押し出してコースアウトさせる荒技に…。肉弾戦がWTCCの魅力でも、さすがにこれはアウト! レース終了後、タルキーニはレースタイムに30秒加算のペナルティを受けてしまいました。

そして5週目、再び魔物が牙を剥きます。3番手の好位置につけていたミューラーが、前を行くシボレーのヒューゴ・バランテをプッシュした拍子に、ボンネットが開いてしまうトラブルが。ま、前が見えない! 残念ながら、ミューラーはこれで戦線を離脱することに。

これに黙っていなかったのが、チームメイトのチンホワをプッシュアウトさせられたローブ。スタートに手間取って沈んでいたローブですが、あっという間に5番手にアップ。4番手のタルキーニを90度コーナーでパス。弔合戦を制して見せ場を作ったのでした。

さらにローブは、3番手を行くラダのロブ・ハフをテール・トゥ・ノーズで猛プッシュ。1コーナー、90度コーナー、最終コーナーと息つく間もなく攻め立てます。すると最終ラップ、ハフの攻略に集中していたローブを、後ろから隙をうかがっていたタルキーニがパス。ローブは再び5番手に落ちますが、そこから闘争心を爆発させます。なんと最終ラップの最終コーナーで、再びタルキーニを抜き去ったのです。ローブ、すげぇぇぇぇぇ…(鳥肌)!

戦前、コース幅が広くてバトルには不向きといわれていたツインリンクもてぎでのレースですが、なんのなんの、終わってみれば手に汗握るバトルの連続。さすがWTCC! と痛感させられました。

そんなWTCCジャパンラウンドの主役を努めたシトロエンは、続く中国ラウンドの2戦を連勝。これにより、2年連続のマニュファクチャラーズチャンピオンを決めました。タイとカタールでの2戦を残してのチャンピオン獲得は、まさに強さの証ですね。

市販車をベースとしたマシンが、目の前で肉弾戦を繰り広げるWTCCは、迫力満点。来年も日本で開催されたら、きっと私は観に行っちゃうでしょうね。それまでは首を長くして、シトロエンの公式サイトで戦況を眺めておくことにします!

(文&写真/ブンタ)

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