コレは楽しいぞ!スポーツカー作りへのトヨタの本気が光る「C-HR GRスポーツ」

■今、最もスポーツカー作りに積極的なのは日本のトヨタ

いつの時代も、スポーツカーはクルマ好きにとって注目の存在だ。そんなスポーツカーに今、最も注力しているメーカーといえば、日本のトヨタ自動車である。

トヨタは世界最大規模を誇る巨大メーカーだが、かつては「走りよりも実用性に徹したクルマ」を作ることを得意としていた。開発費用がかさむ割に販売台数が伸びないスポーツカーは、ビジネスとして大きな成功を収めることが難しい。そんな中でトヨタが、スポーツカーに注力する体制へと舵を切ったのは、自らカーガイ=クルマ好きであることを公言している豊田章男社長の影響が大きいのだろう。

その結果、ひと昔前では考えられないことだが、今ではトヨタのスポーツカーラインナップはとても充実している。2012年には「86」を発売し、2019年には「スープラ」を復活。さらに2020年の夏には、WRC(世界ラリー選手権)参戦マシンのベースカーとして、間もなく発売される「ヤリス」に272馬力の高性能エンジンを搭載し、スポーツ走行に特化した4WD機構を組み合わせたエボリューシュンモデルの発売も予定している。

なぜトヨタは、これほどまでにスポーツカー作りに注力するのか? 「スポーツカーの開発を通して走りを磨くことが、魅力的なクルマ作りにつながる」、「これからカーシェアの時代になった時、“あえて自分のクルマ”を購入しようという人には、走りが楽しくないモデルなど選んでもらえない」。トヨタはこのように主張している。

その一環として、トヨタは、2017年に“GR”というスポーツカーブランドを立ち上げ、近年、積極的にバリエーションを拡充している。GRとは“GAZOO Racing(ガズー・レーシング)”の頭文字であり、モータースポーツ活動やスポーツカーの企画・開発を担当するトヨタの社内カンパニー“GRカンパニー”がプロデュースするブランドだ。GAZOO Racingは、2007年のドイツ・ニュルブルクリンク24時間耐久レースに初参戦。以降、モータースポーツを通じて人とクルマを鍛えながら“もっといいクルマづくり”に取り組んできた。

GRカンパニーがフル・プロデュースするスープラやヤリスのエボモデルは、正式名称そのものに「GRスープラ」「GRヤリス」と“GR”の頭文字が付くが、その他の車種にも、GRカンパニーが手を加えてスポーティに仕立てたカスタマイズカーがラインナップされている。それらはチューニングのレベルに応じて、気軽にスポーツドライブを楽しめるエントリークラスのGRスポーツ、その上に位置し、操る歓びを日常的に実感できる量産型スポーツモデルの「GR」、そして、台数限定生産となる究極のスポーツカー「GRMN」という3つのラインで構成されている。

中でも、ライトなチューニング内容で比較的手を出しやすいGRスポーツは、専用のエアロパーツをプラスすることでスポーティなルックスに仕立てられているほか、補強されたボディと専用のサスペンション、そして、大径のタイヤ&ホイールを与えられているのがポイント。スポーツドライブ向けといっても、サスペンションはサーキットなどの限界走行領域をターゲットにしたものではなく、日常走行でスポーティな感覚を味わえるような味つけで、乗り心地にも配慮されている。

そしてGRスポーツのラインナップは、「プリウスPHV」や「アクア」といったエコカーに始まり、「ノア」、「ヴォクシー」といったミニバン、そして、トヨタ系列の自動車メーカー・ダイハツが手掛ける軽オープンカー「コペン」まで、幅広い車種が用意されている。

■運転する楽しさを磨き上げたGRスポーツ

そんなGRスポーツのラインナップにおいて最も新しいモデルが、コンパクトクロスオーバーSUVのC-HRをベースとするC-HR GRスポーツだ。

ベースモデルとなるC-HRは、トヨタのSUVラインナップ中で「ライズ」に次ぐコンパクトなモデルであり、躍動感あふれるスタイルとスポーティな走りを特徴とする。2019年秋に実施されたマイナーチェンジでは、フロントバンパーの形状が変わり、ヘッドライトを中心とする灯火類が進化。さらに、安全装備がバージョンアップされたほか、1.2リッターのターボ仕様に6速MTが追加されている。

そして、先のマイナーチェンジを機に、C-HRにもGRスポーツが追加された。GRスポーツは専用のフロントバンパーと、ベースモデルに対して1インチアップとなる19インチのタイヤ&専用ホイールを採用。ひと目でスポーティであることを感じられるルックスになった。

インテリアも、GRスポーツ専用のステアリングホイールとシート、そして、金属調ダークシルバーのデコレーションパネルを採用するなど、特別感あふれる仕立てとなっている。

走りを左右する装備としては、19インチタイヤ(銘柄は横浜ゴム製のアドバン「フレバ」)を採用するとともに、車体床面にボディ補強のためのバーを追加。さらに、専用のサスペンション(スプリング/ショックアブソーバー/スタビライザー)と電動パワーステアリング制御を採り入れることで、運転する楽しさを磨き上げている。

■素直で軽快なハンドリングと適度なパワーとの組み合わせ

気になるC-HR GRスポーツの走りはどうか? 走り初めてまず驚いたのは、乗り心地の良さだ。

今回の試乗コースには、路面にわざと片輪ずつ衝撃を与える段差が設けられ、GRスポーツとベースモデルとの車体剛性の違いを体感できる区間が設けられていた。そんな、左右のサスペンションが交互に動くようなシーンでは、GRスポーツはベースモデルに対して車体の上下動が少なく、乗り心地が優れていることを実感。路面からの入力を受けた後も、車体の揺れがスッと収まるのだ。

さらに、速度を変えながらの旋回やスラロームでは、ベースモデルに対し、GRスポーツの素直な動きが際立った。ハンドルを切り始める時や、深く切る際にも、GRスポーツは操舵力の重さに変化がなく、操舵フィールも雑味がなくてスッキリとした印象。また、右に左にとハンドルを切り返す場面でもつながりはスムーズで、乗り味に対する開発者のこだわりが感じられた。

C-HR GRスポーツには、1.8リッターのハイブリッドを積む「S“GRスポーツ”」と、1.2リッターのターボエンジンを搭載する「S-T“GRスポーツ”」というふたつの仕様が用意されるが、今回、公道でドライブしたのは、MTしか設定のない後者。そんな試乗車をドライブして感じたのは、素直で軽快なハンドリングと116馬力という適度なパワーとの組み合わせによる運転の楽しさだった。

1400kgの車両重量に対して116馬力では、力不足の感は否めないが、MTでパワーを引き出しながら峠道を走ると、これがかなり痛快。ハイパワーエンジンでは決して味わえない、アクセルペダルを踏み込む喜びを、一般道においてもしっかり味わえる。その上GRスポーツには、気持ちのいい操縦性まで備わっているのだから、爽快感は格別だ。

それでいてGRスポーツは、19インチのタイヤ&ホイールといった価格上昇の要素を多く含みながら、ベースモデルの上級グレードに対し、わずか10万円アップにとどめている。選びやすいプライスタグを実現することで、より多くの人に気軽にスポーツモデルの魅力を味わってもらいたい…。C-HR GRスポーツは、そんなトヨタの本気と工夫とが凝縮した1台だ。

<SPECIFICATIONS>
☆S-T“GRスポーツ”
ボディサイズ:L4390×W1795×H1550mm
車重:1400kg
駆動方式:FF
エンジン:1196cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:116馬力/5200〜5600回転
最大トルク:18.9kgf-m/1500~4000回転
価格:273万2000円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


[関連記事]
メーカー間の垣根を超えた意欲作!トヨタ×ダイハツの合作「コペン GRスポーツ」

【GRシリーズ試乗】“もっといいクルマ”へのトヨタの回答。その走りに開発陣の本気を感じた

【マークX GRMN試乗】6速MT、6気筒、FR…トヨタにもこんなに楽しいセダンがあった!


トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする