硬い足には明確な理由あり!トヨタ「ヤリス」の走りが格段に進化した背景とは?

■「仕方がない」と思ってきた安普請な印象が消えた

“ステイホーム”中のクルマ好きの皆さんのヒマつぶしになることを期待して、せっせとクルマについて駄文を寄せたい。今回は、先日試乗したトヨタ「ヤリス」について。

2020年2月に発売開始となった新型ヤリスの出足は好調だった。発売から1カ月で3万7000台を受注。9年ぶりのフルモデルチェンジということもあって代替え需要が相当あったはずだし、従来型からの流れを汲みつつ、新しさ、若々しさの感じられるスタイリングには、人々をワクワクさせる力があったということだろう。ほぼ同時期にフルモデルチェンジ・発売開始となったホンダ「フィット」と、今後、熾烈な販売競争が繰り広げられる、はずだった…。

東京に緊急事態宣言が出る前に、ヤリスのガソリンエンジンを積む上級グレード「Z」と。ハイブリッド仕様の中間グレード「G」に試乗する機会を得た。印象に残ったのは、パワートレーンを問わず、感じられる車体のしっかりした様子と、ハイブリッドの洗練された走りと燃費の良さだった。

まず車体は、トヨタのメカニズムの基本理念である“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”コンセプトにのっとった、“GA-B”プラットフォームの採用によって、軽量化、低重心化と同時に、高剛性化を果たした。

従来の国産コンパクトカーでは、ある程度「仕方がない」と思ってきた安普請な印象がなく、走行中、常にボディの堅牢な様子を感じられる。例えば、段差を乗り越えたり、連続する路面の不整を通過したりする場合にも、ボディから低級な振動や騒音が発生することがない。

ただし、ダンピングが強く利いた足回りのセッティングを、「硬すぎる」と感じる人もいるかもしれない。私個人も、もう少しソフトな方がありがたい。スポーティ、とか、キビキビした、と表現することもでき、若い人にはこれくらいがちょうどいい、のかもしれないが、大人のユーザーにはどうだろうか?

開発責任者の末沢泰謙さんに「幅広い層が乗るであろうクルマにしては、乗り心地が硬すぎませんか?」と尋ねたところ、「我々の調査では、乗り心地の好みは年齢ではさほど分かれません。大人の方々が必ずしも、ソフトな乗り心地を好むとは限らないのです。スポーティだから、ということではなく、その方が、安心感があるという理由で、ダンピングの利いた足回りを好まれる方も多いのです」との答えが返ってきた。

この考え方は、近頃、トヨタが提唱している“C&N(Confident&Natural)”、すなわち、安心感があり、自然に操れるクルマづくり、に基づいているのだという。自らがそうであるからといって、「大人はソフトな足回りを好む」と決めつけたことを反省した。

新しいヤリスは、車体だけでなく、パワートレーンにも進化を感じた。ガソリンエンジンも決して悪くなかったが、ハイブリッド仕様の好印象が際立った。

EV(電気自動車)のように、モーターだけでスムーズに発進するのは従来通り。速度が上がるとエンジンが始動するのも同じだが、始動した時の振動をほとんど感じない。そこからさらに加速しようとアクセルペダルを踏み増しても、エンジン音が高まることなく、モーターの力でスーッと音もなく速度が増す。

もちろん、もっと踏み増せばエンジン音は高まるが、常用域での静かさとスムーズさを実感した。車載燃費計によると、首都高速で東京~横浜を2名乗車で往復しての燃費は、28.4km/Lだった。文句なし!

唯一、残念なのは、パーキングブレーキが電子式ではなく機械式のため、高速道路上でドライバーがアクセルやブレーキを操作することなく、前方車両と一定の車間を空けながら速度を自動調整してくれる“ACC(追従型クルーズコントロール)”が全車速に対応しておらず、30km/h未満となるとキャンセルされてしまうこと。その点を除けば、新型ヤリスは奇をてらうことなく、ひたすら走る、曲がる、止まるという基本性能を高めることに専念した、大真面目なモデルチェンジを果たしたと思う。

■かつてのイタ/フラ車を想起させるいい意味での割り切り

さて、前後してヤリスとフィットの新型に接してみて、両車キャラクターは異なるが、どちらも開発においては、明快な取捨選択がなされたという点で共通しているな、と感じた。

例を挙げるなら、ヤリスは限られた車内空間のうち、必ず人が陣取る前席を優先し、より広い空間をあてがい、どんな人でも適切なドライビングポジションを得られるようにした。その代わりに、後席がやや狭くなった。

フィットは先代に備わっていたパドルシフトや後席リクライニング機構をあきらめてコストを抑え、浮いた分のコストで充実した“ADAS(先進運転支援システム)”を装備したり、上位モデルと同じ複雑なハイブリッドシステムを採用したりした。

かつての欧州、特にイタリアやフランスのメーカーが、ベーシックカーを立派に見せることにほとんど関心がなかったのとは対照的に、国産ベーシックカーは、フロントグリルやインテリアにクロームパーツを多用して豪華に見せたり、モデルチェンジの度に先代よりサイズアップしたり、アクセルペダルの初期応答性を上げ、ちょっとしか踏んでいないのに鋭く加速するように感じる特性を持たせたりと、実際以上に立派に見せようとする傾向が強かった。

イタ/フラのベーシックカーは、使い古したエンジンを採用し続け、細いタイヤを装着し、インテリアには加飾のないプラスチックや鉄板むき出しだった。その半面、シートの構造や足回りのチューニングにはコストがかけられていて、乗り心地、ハンドリング、直進安定性などは、上位モデルと比べても遜色がなかった。パワーの低さはいかんともしがたいものがあったが、そこは、ユーザーがエンジンをぶん回すことでカバーした。

新しいヤリスやフィットは、そうしたかつての欧州ベーシックカーほど露骨ではないものの、全方位的に高性能、装備充実を目指すのではなく、いくつかの装備や機能をあきらめる代わりに、ヤリスの場合は堅牢なボディと熟成の“THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)”の組み合わせを、フィットの場合はスタイリングコンセプトの大胆な変更とTHSに対抗し得る“e:HEV(2モーター式ハイブリッドシステム)”というリソースをぶち込むことで、結果的にクルマ全体として魅力が増したように思える。”国産車もいいね”と素直に思える、2台の新生コンパクトカーには本当に感心した。

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドG(2WD)
ボディサイズ:L3940×W1695×H1500mm
車重:1060kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
モーター最高出力:80馬力
モーター最大トルク:14.4kgf-m
価格:213万円

<SPECIFICATIONS>
☆Z(2WD/CVT)
ボディサイズ:L3940×W1695×H1500mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:120馬力/6600回転
最大トルク:14.8kgf-m/4800〜5200回転
価格:192万6000円


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文/塩見 智

塩見 智|地方紙の記者や自動車専門誌の編集者を経て、フリーランスのライターおよびエディターへ。専門的で堅苦しく難しいテーマを、できるだけ平易に面白く表現することを信条とする。文章はたとえツッコミ多め、自虐的表現多め。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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