メルセデス「CLAクーペ」に向く人、「Cクラス」に向く人の見分け方☆岡崎五朗の眼

■「CLAは新しい分だけ“いいクルマ”」と考えるのは早計

今回のお題はCLAクーペとCクラスセダン。この2台を読み解きながら“向いている人”を探すのは、実はかなり難しい作業である。というのもこの2台、かなり近い存在であると同時にかなり遠い存在でもあるからだ。

ボディサイズ、デザイン、エンジン、駆動方式、ドライブフィールなど、クルマのキャラクターを形成する要素は数多く存在する。この2台ではそれら各要素の大きな、あるいは小さな違いが複雑に絡み合いながら、似ている部分と似ていない部分を生み出している。そこを丁寧に素因数分解していかなければ、「同じ自動車メーカーが作る、ほぼ同じ大きさ、かつほぼ同じ価格の4ドア車」の違いをつまびらかにすることはできない。

デビューはCクラスが2014年。対するCLAは2019年だ。まずここで、デビューから6年経つCクラスよりもデビュー間もないCLAの方が優秀だろうという仮説が成り立つ。事実、CLAには自然対話式音声認識を使った最新鋭の車載インフォテインメントシステム“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)”が備わるが、Cクラスにはない。メーターパネルもCLAがフル液晶化された超横長タイプであるのに対し、Cクラスは12.3インチの液晶パネルとアナログメーターの組み合わせとなる。この辺りは5年という時代の流れを否応なしに感じさせられる部分だ。

とはいえ、じゃあそれが決定的な意味を持つのか? と問われれば、必ずしもそうではないよといいたくなる。僕はフル液晶メーターには懐疑的な立場で、特にプレミアムカーには美しく精密で質の高いアナログメーターが似合うと思っている。腕時計のことを考えれば改めて理由を述べる必要はないだろう。

走りに関しても、新しいものほど良くなるとは限らないのがクルマの面白いところ。出たばかりのニューモデルよりも、一定の年月が経ち熟成(小改良の積み重ね)が進んだモデルの方が優秀、なんてことはよくある話である。この辺りはおいおい触れていくとして、まずは「新しい分、CLAの方がいい」と考えるのは早計とだけ書いておく。

■Cクラスの伸び悩みで両車の差が縮まった!?

クルマ好きの間で両車の決定的な違いと受け取られているのが駆動方式だ。Cクラスはエンジン縦置きのFR(フロントエンジン/後輪駆動)、CLAはエンジン横置きのFF(フロントエンジン/前輪駆動)。なので、もし僕がメルセデスのセールスマンをやっていて、在庫のCクラスを優先して売りたかったらこんなセールストークを繰り出すだろう。

「お客さま、メルセデス・ベンツの基本はやはりFRなんです。その証拠に上位モデルの『Eクラス』も最上級モデルの『Sクラス』もFRです。なんならロールスロイスもベントレーもレクサス『LS』もトヨタの『センチュリー』も、世界を代表する高級車はみんなFRを採用しております、はい」

たぶんこれは、Cクラスにとってかなり強力なセールストークになる。しかし、だ。CクラスとCLAの場合、この議論はあまり大きな意味を持たない。理由は5つ。

(1)メルセデスは高いFF技術を確立しつつあり、普通の人が普通に乗っていてFFとFRでステアリングフィールやハンドリング性能の違いを感じ取るのは難しい。

(2)FFの弱点はトラクション(エンジンのパワーを路面に伝える能力)だが、CLAの高性能モデルは4輪駆動なので問題なし。

(3)エンジン縦置きFR車のメリットは直列6気筒やV型8気筒といった大きなエンジンを積める点だが、Cクラスに設定されるエンジンは4気筒のみ。つまりFRのメリットを活かしきれていない。例外としてメルセデスAMG「C43 4マチック」はV6を、「C63」系はV8エンジンを搭載するが、価格は前者が987万円、後者が1271万円〜と、もはや別のクルマになってしまう。

(4)ハンドルの切れ角が制限されるFF車でありながら、CLAの最小回転半径はCクラスと同じ5.1mと小さい。

(5)FRというとドリフトとかいい出す人もいるが、Cクラスを買うような人がドリフト遊びをするとは思えないからそこも無視していい。

ならば、前述した“熟成”に関してはどうか。デビュー直後のCクラスは関節が突っ張ったような粗っぽい乗り味を示していたが、時を経るごとに熟成され、最新モデルはかなり快適になった。それでも正直なところ、先代モデルのような“大トロ”のごとき豊かで滑らかな足さばきには達していない。実はこの部分が、CクラスとCLAのどちらを選択するかを難しくしている。もし現行Cクラスが先代モデルのような乗り味だったら、「多少高くても動的質感を重視するならCクラスですよ」と書いていたと思う。

一方のCLAは、メルセデスとしては明らかに物足りなかった先代への反省からか、現行モデルは動的質感をグンと引き上げてきた。その結果、伸び悩んだCクラスとの差は大きく縮まっている。

もちろん、50:50に近い(メルセデスは伝統的に、BMWと違ってややフロントヘビー)前後重量配分とか、アクセルのオン/オフ時のエンジンの揺れの少なさとか、駆動仕事から解放された前輪によるクリアな操舵フィールとか、後輪が押し出すトラクション感とか、そういったわずかな違いを敏感に感じ取り、それを脳内で歓びに変換できる人であればCクラスを選ぶ価値はある。しかし、それだけの感度とクルマ好き度を有している人は、おそらく10人にひとりいるかいないかだと思う。どちらの走り味が好きかと問われたら「うーん、Cクラスですかね、やっぱり」と答えるが、その後に「でも違いはそれほど大きくはないので、走りよりも“別の部分”で決めた方がいいと思いますよ」と付け加えるだろう。

■スーツに例えるならCクラスは英国製、CLAはイタリア製

では“別の部分”とはどこか? というわけで「CLAに向いている人、Cクラスに向いている人」というお題の結論へと筆を進めていく前提がようやく整った。

Cクラスの魅力は、なんといっても正統的なセダンであることに尽きる。世界で最もメジャーな高級セダンであるSクラスを連想させるたたずまいは、SUV全盛の今、あえてセダンという折り目正しいジャンルを選ぶ人にある種の安心感を提供してくれる。ここで重要なのは、その安心感にはセダンに求められる機能が内包されているということ。CLAよりも直線的なルーフラインは、後席の乗降性と乗り込んだ際の開放感を高めている。絶対的なスペースに大きな違いはないものの、シートの座り心地も含めた後席の快適性はCクラスが優勢だ。

一方のCLAクーペは、その名の通り、セダンというよりも4枚のドアをもつクーペである。本来クーペとは実用性よりもスタイリッシュさを重視した2ドア車であり、その精神を採り入れることで実用的な後席を確保しつつ、Cクラスにはない妖艶なデザインを実現した。中でも特徴的なのが美しい弧を描くルーフラインと柔らかな面の組み合わせで、そのシルエットの美しさは見る者の右脳にストレートに訴えかけてくる。

よく耳にするのが「Cクラスはフォーマルで、CLAクーペはカジュアル」という単純な分類だが、僕には芯を食った説明とは思えない。両車ともSUVと比べれば間違いなくフォーマルだからだ。ただし、フォーマルの中身は全く違う。Cクラスセダンがカチッとしたイギリス製スーツだとすれば、CLAクーペは柔らかで中性的で華やかなイタリア製スーツ。どちらを着るかによって立ち居振る舞いが変わるように、Cクラスには胸を張り背筋をピンと伸ばして乗りたくなるし、CLAクーペには優雅な身のこなしで乗りたくなる。冒頭の「かなり近い存在であると同時にかなり遠い存在でもある」というのはそういう意味である。

かくのごとく“同じ自動車メーカーが作る、ほぼ同じ大きさ、かつほぼ同じ価格の4ドア車”でありながら、これほど違うキャラクターを与えることに成功したメルセデス・ベンツ。そのクルマ作りの巧みさには感心しないわけにはいかない。ちなみにもう1台、同ジャンルには「Aクラスセダン」という選択肢も用意されているが、こちらは価格の安さと全幅1800mm(Cクラスセダンは1810㎜、CLAクーペは1830㎜)が売りで、それ以外これといった特徴はない。ガレージサイズの制約がないなら、CクラスかCLAクーペで悩むことをオススメしたい。

<SPECIFICATIONS>
☆CLA250 4マチック(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4695×W1830×H1430mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:1991cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:224馬力/5500回転
最大トルク:35.7kgf-m/1800~4000回転
価格:565万3000円

<SPECIFICATIONS>
☆C180セダン アバンギャルド
ボディサイズ:L4690×W1810×H1425mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:156馬力/5300〜6100回転
最大トルク:25.5kgf-m/1500〜4000回転
価格:530万円
※写真は「C200セダン アバンギャルド」のため細部デザインが異なります。


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文/岡崎五朗 写真/村田尚之、上村浩紀

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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