■ラビット、シルバーピジョンともアメリカ製の鉄スクを範とした
ラビットを製造するまでの富士産業は軍用機製造の知見を生かし、当初農業用器具やトラック部品などの製造を行っていました。そんな中、とある経緯で出合うことになったアメリカ製の鉄スクを模倣し、試行錯誤しながら製造を開始。
一方の中日本重工業もまた、富士産業が範とするモデルとは別のアメリカ製の鉄スクを参考に開発を開始。図らずも両社とも同時期に鉄スクの開発に乗り出したというわけです。
もっとも1946年当時は、戦後復興に向かう時代で、「物流の主力の乗り物だったオート三輪より、安価で気軽に乗ることができ、積載力もある」という鉄スクは「時代が求めていた乗りもの」でもあったため、ラビット、シルバーピジョン双方とも「時代のニーズを先読みして開発された」とも考えられます。
▲シルバーピジョンの当時のカタログより
■今上天皇も当時の鉄スクに跨られた?
ただし、初代モデルの使い勝手はラビット、シルバーピジョンとも今では考えられないほど使い勝手が悪く、エンジンをかけるためには「押しがけ(エンジンがかかっていない状態で、一定距離を人間がバイクのハンドルを握るながら走り、その勢いでエンジンをかける)」が必要で、なんとも古典的な構造ではありました。
しかし、いずれも発売からわずか3年ほどで初年度とは桁違いのヒットに至り、日本製スクーターの市場を切り開いていったことと合わせて、毎モデルごとに進化。多くのユーザーを取り込んでいきます。
ちなみに、1948年にはこの2モデルが当時の皇太子殿下(今上天皇)にも献上されました。言い換えれば、今上天皇も皇室内でこの2モデルに跨られた可能性が高い、と考えられます。
■ラビットは大衆車・スバル360の誕生を促し、シルバーピジョンは高級車と連動
1955年にはラビットに、クランクケース圧縮式の空冷2ストロークエンジンが採用されます。軽量かつコストパフォーマンスにも優れさらに出力も高いとあり、このエンジンをベースに1958年、名車・スバル360の誕生を促しました。スバル360は当時の通算省(現・経済産業省)が掲げた「国民車構想」を満足させるモデルあり、日本の軽自動車市場の礎を築きました。つまり、ラビットがなければスバル360もなかったとも言え、それだけ日本の自動車産業に間接的に影響を与えた鉄スクだったというわけです。
▲ラビットの2ストロークエンジンの進化が後のスバル360の誕生を促しました(当時のカタログより)
▲1958年発売のスバル360(画像:スバル)
また、シルバーピジョンは1964年に発売したC-140というモデルで、三菱製の高級四輪車、デボネアと合わせて海外のプロダクトデザイナーを起用。デボネアと同じく高級塗装をまといました。
言い換えれば、ラビット、シルバーピジョンとも戦後復興を支え進化を遂げ、四輪車と連動した開発を行うことで、ある意味でこの1950年代後半から1960年代中盤までにピークを迎えたのでした。
▲シリーズ最高の高級モデルだったシルバーピジョンC-140
▲三菱・デボネア。C-140とセットで海外デザイナーが手がけたモデルです
■1960年代に双方とも生産終了となるも、今なお根強いファンと高い評価が
▲1958年発売の初代スーパーカブ(画像:ホンダ)
この鉄スクのピーク時にあたる1958年には、後に「世界一のセールス」となるホンダ・スーパーカブが発売されました。商用車としては鉄スクよりもはるかに扱いやすいスーパーカブが瞬く間にヒットする一方、日本の自動車メーカー各社も四輪開発に注力し始めます。結果的に「バイクとクルマの中間」のような存在にあったラビットとシルバーピジョンへの注目は一気に薄まり、前述のC-140を最後にシルバーピジョンは1965年に生産終了へ。ラビットもまた1968年に生産終了に至ります。
後に「シルバーピジョンは三菱にとってそもそも不採算で姿を消した」「ラビットは売れていたが、富士重工が四輪に注力するために姿を消した」と囁かれますが、いずれにしても敗戦後の戦後復興、経済復興を支えたスクーターであることには変わりはありません。
▲生産終了から58年が経過する今もなおラビットを大切に所有するファンのガレージ
▲「三菱オートギャラリー」(愛知県岡崎市)に飾られた歴代シルバーピジョンのモデルカー
▲今こそ日本製鉄スクの再評価を!(当時のカタログより)
特にラビットは生産終了から58年経過する今もなお根強いファンがいて、中古車市場でもちらほら目にすることがあります。一方のシルバーピジョンはラビットほどの支持はないものの、やはり日本のバイク史にその名を刻む名モデルとして高い評価を受け続けています。
有名なベスパと似た出自を持ちながらも、1995年まで鉄スク時代が続いたベスパより、はるかに短命で終わったラビットとシルバーピジョン。その歴史背景と合わせて、今こそ改めて注目したい大切な2モデルです。
<取材・文/松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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