■オリジナルにこだわり続ける「東京ヴェスパ」のスタイル
しかし、石原さんの思いは杞憂に終わります。
「東京ヴェスパ」がここで大きく「昔のベスパを扱い続ける」ことに戻ったことで、旧来式のベスパのファンが全国から訪れるようになります。
「最新の4ストロークのオートマティックのベスパを好む人と、クラシックベスパを好む人はニーズが全く異なるわけです。その後者を選んだことで、うちはなんとか継続してやってこられた、という感じですね」(石原さん)
また、複数のベスパ専門店をよく見ると、各ショップごとに微妙なこだわりの違いも感じます。旧来式のベスパをチューンアップし「古いベスパを速く走らせるようにいじる・乗る楽しさ」を追求する店が存在する一方、「東京ヴェスパ」は、オリジナルを貫く傾向が強いようにも映ります。
「古いベスパをバリバリにカスタムしたりして速くしたり、いじりまくるのも面白そうです。
でも、さっき言ったみたいに僕個人がベスパに求めるものって、『クラシックな乗り物だ』ということが一番なんです。だから、レストアするにしても、『標準的なシンプルなものに戻す』『足りないところだけちょっと足し』みたいな感じで、これからもやっていきたいと思っています」(石原さん)
■石原さんが「忘れられない」ヒストリックベスパ5選
ここで石原さんに忘れられないベスパのヒストリックモデルについても聞きました。
【180ラリー】
▲ベスパ・180ラリー。歴代のベスパのモデルの中でも群を抜いて人気を誇る1台(画像:東京ヴェスパ)
「一番最初に販売したベスパですからね。やっぱり思い入れがあります。今でも扱っていますけど、ベスパの歴代モデルの中でも上位の人気をキープするモデルです」(石原さん)
【50S、100、ET3】
▲ボディは各モデルともに共用だったベスパ・50S、100、ET3(画像:東京ヴェスパ)
「一番思い入れあるベスパはやっぱり成川商会さんが輸入して、日本の市場に広めてくれたこのスモールボディのモデルたちです。一番売れたモデルだし、これも合わせて色んなパーツを作ってきたので、思い入れが強いです」(石原さん)
【200GS】
▲今ではかなりのレアモデルでもあるベスパ・200GS(画像:東京ヴェスパ)
「成川商会さんが輸入したものの、さほど売れなかったのか叩き売りされたときに、うちで在庫を全部買った角目のモデルです。パッと見はT5というモデルにも似てるんですけど、これを仕入れて200ccにして29万8千円で販売したところ、パッと売れました。ただ、買ってくれた人は若い人ではなく、年配の渋いオジサンが多かった記憶がありますね」(石原さん)
【50SS、125ES(台湾ベスパ)】
▲台湾のライセンス生産モデル、ベスパ・50ss、125ES。今では入手困難に(筆者所有)
「成川商会さんがイタリア本国のベスパを輸入していたのと同時期に、別の会社のジャパンベスパさんというところが、台湾製のライセンス生産のベスパを輸入していたんですよ。当時は『台湾製』ってことでイタリア製より価値が低いみたいなところがあったけど、12V仕様のCDI点火とかで、オリジナルのベスパより優れたところもありました。うちだけに特別なカラーで塗ってもらったモデルを販売した時期もありました」(石原さん)
【LMLスターデラックス(インドベスパ)】
▲インドのバイクメーカー・LMLが製造したベスパ風にスクーター、スターデラックス。現在はLML自体が消滅し、パーツ供給などの面で「維持が難しい」とされています(画像:東京ヴェスパ)
「ベスパのPXっていうモデルによく似たモデルなんですけど、インドのLMLっていうメーカーが作ったベスパ風のスクーター。バイク自体は残念ながら『すごく良い』とは言い難いところがあったけど、でも新車価格が安いこともあってよく売れました。インドのLML自体が消滅したことで、これからの維持は難しいところもあるけれど、思い入れは強いですね」(石原さん)
■「旧来式ベスパを扱い続けられるのは10年、15年くらいじゃないかとも思う」
ここまで「東京ヴェスパ」のストーリーと合わせて、日本のベスパシーンの変遷、忘れられないベスパのヒストリックモデルを聞きましたが、気になる「クラシックベスパの未来」はどう予想しているのでしょうか。特に近年の旧車全体の価格高騰もあり、クラシックベスパも過去にないほどのプレミアム価格で取り引きされるようになっています。
「まぁ商売はし難いですよね(苦笑)。日本人の平均所得は30年前と比べて下がっているのに、物価はどんどん上がっている。高市さんは下げる・下げないって連日やっていますけど、『使えるお金がある人』っていうのは全体的には減っていっています。
また、そんな中でもクラシックなベスパは高騰傾向が続いているわけで、若い世代が『昔のベスパいいな』と思っても、手が出せないものになってきている。90年代の新車価格の、3倍くらいの価格で中古車が取り引きされている状況ですからね。昔みたいに高校生が『がんばってローンを組んで、何十万円かでベスパに乗る』っていう時代ではないとは思っています。
実際、うちに来てくれるお客さんは40代、50代、60代の方が中心で、20代の若いお客さんはほとんど来ないです。また、クラシックなベスパの専門店をやっている人も大体50代、60代。それ以下の世代がすっぽりいないんです。
これらの状況を踏まえて言うと、うちのスタッフも50代、60代なので、よほど『古いベスパを仕事にしたいんだ』っていう若い世代が現れない限り、続けられたとしても現実的にはあと10年、15年くらいじゃないかとも思っているんです。
でも、今のところはお客さんがひっきりなしに来ていただけているし、あと、『昔乗っていたけど、やっぱりまた乗りたい』とか『若い頃は買えなかったけど、今改めて乗りたい』って言うお客さんも実は増えているんです。そういうお客さんたちのニーズにできるだけお応えしながら、これからもできる限りやっていきたいと思っています」(石原さん)
▲「現実的には10年、15年。でも、お客さんたちのニーズにお応えしながらできる限り続けたい」と石原さん
最後に石原さんご自身にとっての「ベスパ」とは何かも聞きました。
「若い頃からずっと乗ってきているスクーターでもあるから、体に馴染んだ乗り物だ、というのが一番ですね。あと、バイクの速度域って、人によって合う・合わないって言うのがやっぱりあるんですよ。速いバイクが好きな人がいれば、のんびり走れるバイクが好きな人もいらっしゃいます。ベスパに長く乗っている方々は、たぶんベスパののんびりとした速度域が合っているんじゃないですかね。
あと、これだけ楽に乗れるバイクがある中で、わざわざ手間がかかる古いベスパを選ぶお客さんがいるのは、やっぱりベスパ特有の『見た目』『クラシックな感じ』に、他のバイクにはない特別な魅力があるんだと思います。僕自身、今もたまにツーリングに行ったりして、景色に馴染んでる自分のベスパを遠目に眺めると、やっぱり『カッコいいな』『かわいいスクーターだな』って思いますしね」(石原さん)
<取材・文/松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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