ゼニスとグランドセイコーで知る「ハイビート」が刻む正確な“時”【時計百識】

「振動数」とはテンプの振幅数を表したもの

時計の音を表現するときに使われる「チクタク」という擬音語。パッと思い浮かぶのは、名曲「大きな古時計」の“100年休まずにチクタクチクタク〜”という一節だろうか。ちなみに、原曲(Grandfather’s Clock)の歌詞でも“Ninety years without slumbering, tick, tock, tick, tock〜”となっており、これがドイツ語だと“Tick Tack”、フランス語では“Tic Tac”と書き表されるなど、どうやら「チクタク」という表現は世界共通となっているようだ。

この連載の第1回で説明したとおり、そもそも機械式時計は、脱進機によってぜんまいの回転運動を左右の振幅運動に変換し、調速機によって一定のスピードをキープすることで正確な時間を表示する仕組み。この正確な時間を割り出すためにテンプが揺れる周期が「振動数」と呼ばれるものだ。チクタク音とは脱進機を構成するアンクルの往復運動によって発せられるもので、当然、その速さは振動数によって変わってくる。

現在、主流となっている振動数は2万8800振動/時。これは1秒を割り出すためにテンプを8回振動(=8振動)させるという意味で、時間単位で表せば2万8800振動/時、振幅を示すHzで表記すると4Hz/秒ということになる。一般的には2万8800振動/時以上が「ハイビート」と呼ばれるが、この振動数が主流であるがゆえに、ハイビート・ムーブメントとして注目されるのは3万6000振動/時(10振動/秒)以上となる。

■ハイビートを実用化させたグランドセイコーとゼニス

3万6000振動/時の腕時計を世界で初めて手がけたのはジラール・ペルゴ。1965年に発表された「ジャイロマティック HF」がそれで、高い精度が一躍世界中で注目される。しかしその3年後、1968年には諏訪精工舎が3万6000振動/時の自動巻きムーブメントCal.6145を、第二精工舎も手巻き式のCal.4520をそれぞれ発表。1960年に誕生し、高精度機を続々と投入することで評価を上げていたグランドセイコーは、高振動ムーブメントの製造技術でもその名を轟かせるようになるのだ。

▲諏訪精工舎が手がけた10振動ムーブメントCal.6145と、これを搭載した国産初の自動巻き10振動モデル「61GS」

さらに翌1969年には、ゼニスが世界初の高振動自動巻きクロノグラフ・ムーブメント、エル・プリメロを発表。毎時3万6000回という振動数によって1/10秒単位での計測を可能とするのみならず、50時間のパワーリザーブをも実現した。

▲1969年にゼニスが発表した世界初の高振動自動巻きクロノグラフ・ムーブメントCal.3019 PHC。これを搭載した「エル・プリメロ」の性能とデザインは、「クロノマスター」コレクションに継承されている

■高精度の追求によって誕生したハイビート・ムーブメント

しかしなぜ、ハイビートの時計はもてはやされるのだろうか? それは、振動数が多い──すなわち1秒を割り出す周期が細かくなるほど時間が正確になるから。それに、高振動であるほど重力や手首の動きといった外乱を受けにくくなるため、精度は安定する。これを説明するうえでよく例えられるのが、子供の頃に一度は遊んだことがあるであろうおもちゃの「こま」。

勢いよく回したほうが芯棒がブレずに安定して回転するのはご存知のとおり。それに、ゆっくり回るこまは爪の先でちょっと触れただけですぐに止まってしまうが、速く回っているこまに同じことをしても爪は弾かれ、こまは回り続ける。時計のテンプも同様の理論だ。

ここまで知ると、ハイビートの時計を買ったほうがいいようにも思えるが、ハイビート・ムーブメントにはデメリットもある。勢いよく駆動させるためパワーリザーブが短くなり、部品も磨耗しやすくなるのだ。もっとも、ゼニスのエル・プリメロは1969年の発表当時に50時間ものパワーリザーブを実現し、さらに歯車が摩耗しやすい懸念をクリア。グランドセイコーも半導体の製造技術を利用したMEMS技術を採用することによって、パーツの加工精度を上げて表面を滑らかにするとともに、軽量化も実現させている。

では、一方のロービートにはどんな魅力があるのだろうか? これについてはまた追って説明したい。

▲グランドセイコーのデザイン理念であるセイコースタイルを取り入れた「SBGH277」は、ミニマルな外装とスリムなインデックスがエレガンスを強調。搭載するムーブメントは、日差+5秒〜−3秒の精度と約55時間のパワーリザーブを誇るCal.9S85。64万円(税別)

▲ケース径38mmのオリジナル1969ケースを採用した、ゼニスの「クロノマスター エル・プリメロ」。最初の「エル・プリメロ」と同様、インダイアルにはダークグレー、ライトグレー、ブルーを採用してデザインを調和させるとともに、視認性も高めている。84万円(税別)

 

>> [連載]時計百識

<取材・文/竹石祐三>

竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。

 

 

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