乾電池「エボルタ」で挑んだ空! ギネス世界記録への挑戦、3531メートルの全記録

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乾電池を動力源とする飛行機は空を飛ぶことができるのでしょうか?

2008年、乾電池・エボルタを動力源とするロボット「エボルタ」がグランドキャニオンの断崖絶壁を登頂して以来、毎年さまざまな挑戦を重ねてきたパナソニック「エボルタチャレンジ」。今年はついに地上を離れ、その舞台には大空が選ばれたのです。

【2016年7月、有人飛行プロジェクト始動】

パナソニックとともに大空へ挑んだのは、東海大学チャレンジセンター・ライトパワープロジェクトの人力飛行機チーム「TUMPA」の学生メンバー51名。今回、最大のテーマはというと<乾電池で有人飛行>ですが、同時に世界最長距離(※2)のギネス世界記録(※1)も目指すことになりました。

東海大といえば、人力飛行機はもちろんソーラーカーでも数多くの実績を残しており、まさに適役ではあります。しかし、そんな彼らにとっても難易度の高い挑戦となったのです。

まず、これまでに同様のチャレンジによるギネス世界記録(※1)がないことから、幾つかのルールが設けられることになりました

  1. 10キロ以上飛行すること
  2. 離陸&飛行の動力は市販の乾電池のみであること
  3. 飛行中に乾電池の交換はできない
  4. 飛行中に部品の取り外しはできない
  5. 離陸ポイントから着水ポイントに至るまでの「飛行経路の総距離」が本挑戦の記録となる
  6. 飛行距離の算出はGPSシステムを使用する。

というのが、ルールのアウトラインです。

文字にしてしまうと、その難しさが伝わりづらいのですが、指導役の東海大学・木村教授が言うには決して容易なチャレンジではないのだそうです。

「そもそも手作りの機体なので、細かい調整が必要となります。風についても航空局との取り決めがあるので、一定以上の風速では飛ばすことができません。自然が相手ですから、可能性は五分五分でしょうか」

7月15日の決起集会からというもの、51名のメンバーが全身全霊をかけて取り組んできた乾電池「エボルタ」による『有人飛行チャレンジ』。ついに本番を迎えた11月3日と6日を振り返ってみましょう…。

▼11月3日

AM02:30 現地での最終組み立てスタート

チャレンジの舞台となったのは滋賀県の琵琶湖。飛行ルートは湖の東岸の彦根港を飛び立ち、南端に位置する琵琶湖大橋を目指します。

機体は十分な揚力を確保すべく、人力飛行機よりも翼幅が広い設計となっています。主翼部の幅はなんと26メートルを超えるので、機体の最終組み立ては離陸ポイントの近くで行うことになります。早朝というよりも、真夜中という時間に作業はスタート。漆黒の闇の中、作業用の照明により白い機体が浮かび上がります。

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作業用照明に浮かび上がる機体。ベースは人力飛行機ですが、全長は約7100mm、翼幅26200mm、高さは3350mmと、モーターや電池によるフライトのため揚力を得るべく主翼を大きく作ってあります。フレームは炭素繊維強化プラスチック、発泡スチロールなど。

AM03:41 周囲の整備もチームプレーで

有人飛行にチャレンジしたメンバーは51名。翼班、プロペラ班、フレーム班、カウル班、駆動班、電装班の6チームに分かれ、各々が担当する作業にあたります。しかし、飛行機は機体だけが優れていれば飛べるというわけではありません。

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担当する内容により6チームに分かれており、現地での組み立てもチームごとに行います。640本のエボルタ単3形乾電池はコックピット下部、車輪の間に置かれるので、電装班は地べたにしゃがんだままの体勢、翼班は組み立てを行いながらも、突風から機体を守るため、ずっと立ったままの姿勢です。

有人飛行チャレンジ用の機体は自力での離陸を行いますが、計算上およそ80メートルから100メートルの滑走が必要となります。滑走路は少しでも平坦に、段差をなくし、石なども取り除くことで、よりスムーズな離陸ができるのです。そのために、手の空いているメンバーは滑走路の整備にあたります。

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指導役の木村教授によると、計算上では滑走に必要な距離は80~100メートルほどとのこと。滑走路は凹凸をなくすべく板が張られ、隙間には砂がつめられるなど、少しでも平坦になるように調整されています。

AM05:12 プロペラ装着! 飛行機らしさを増す機体

予定のスタート時刻まで1時間と少々。フレームやメカニズムを覆うフェアリングも備わり、機体は飛行機らしさを増していきます。

そして5時12分。電装系パーツや電池などの最終調整が進む中、ついに機首部分にプロペラが装着されました。

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機体を前進させるプロペラも人力飛行機より大きなモノとなっているそうです。さらに、現地でも装着されるまでの間、表面が少しでも滑らかになるようプロペラ班のメンバーが手作業で磨きをかけていました。

AM06:20 時には悔しい決断も。まさかのチャレンジ延期へ

東の空が白み始めた頃から少しずつ風が吹き始めました。そして、時計の針が6時を回るころには、時折強めの風が感じられるように…。

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空はわずかに雲があるものの、日の出ごろには青空を見せてくれました。搭載される乾電池「エボルタ」の最終セッティングもすすみます。

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木村教授が言うには「パワーが長持ちすることも含め、エボルタはあらゆる面で公称値を凌ぐポテンシャルを秘めています。また優れた性能ながら、重量も公称より1.0グラムから1.1グラム程度軽くできているのも有難いですね。何しろ、機体は少しでも軽いほうがいいですし、640本になると無視できない重さになってきます」

航空局との取り決めにより、風速が4メートルを超えるとチャレンジは中止になってしまいます。この頃にはTUMPAのメンバーや関係者だけでなく、会場まで応援に駆けつけた人まで祈るような気持ちで風がおさまるのを待ちます。しかし、自然とは実に無情なもので、6時10分ごろには湖面が波立つほどに。

そして、6時20分。安全のため3日のチャレンジは中止となり、3日後の6日に延期となったのです…。

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動力付の飛行機なので、その飛行は航空局により厳しく限定された条件のもとでのみ許可されています。風速も向かい風、追い風、横風の風速も規定されており、風速3メートルを超えたためチャレンジは延期となりました。

11月6日

AM02:00 ふたたびの彦根港。いざリベンジ!

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11月4日、5日と中2日を置いての再チャレンジ。学生たちはこの間に組み立て練習や滑走の練習も行いました。作業もスムーズにすすみ、時には笑顔もこぼれます

機体の整備だけでなく、滑走の練習や滑走路の整備、そして神社へのお参りを経て迎えた6日早朝。3日よりも早めに最終の組み立てをスタートしたTUMPAのメンバーたち。細心の注意が必要となる組み立てですが、2度目ということもあり彼らの作業を眺めていても、すこし余裕が感じられます。

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機体や翼は透明で軽量なミレファンと呼ばれる熱収縮フィルムで覆われています。分割して運ばれる主翼やコックピットまわりは、隙間をなくすため、また見た目の美しさも保つため、やはり透明なテープで塞いでいきます。

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電装班やカウル班などは機体の最終仕上げまで、一切手抜きができないポジションです。ナビや計器類といった装置類のチェック、カウルや翼の接続部などは最後まで作業が続きます。

AM03:51 垂直尾翼も装着され、いよいよ最終のセッティングへ

11月3日は、6時を過ぎてもまだまだ作業中という感じでしたが、今回は多少余裕があるようでメンバーの表情もちょっとリラックス。そして5時50分頃には機体は完成、フライト成功への願いも込めつつ、全員での記念撮影も行います。

さあ、あとは日の出を待つのみとなりました。

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フライト前にTUMPAメンバー全員、51名で記念撮影も行いました。この間も翼班のメンバーは翼に余計な負荷が掛からないように、翼を支えています。(写真提供:パナソニック)

AM06:37 ついに地上から機体が離れ、大空へと飛翔!

11月6日、彦根周辺の日の出は6時19分頃。6時を待たずとも空は明るくなってきますが、この日はちょっとした朝焼けも…。そして6時25分頃、設計者でありパイロットでもある鷹栖さんがコックピットに納まります。

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パイロットの鷹栖さんがコックピットに乗り込みます。空気抵抗を減らすため、操縦席はかなり寝そべった体勢となっています。観衆もメンバーも徐々に緊張感が高まります。

日の出時刻を過ぎ、ついにチャレンジの時を迎えます。

頬には若干の風が感じられますが、コンディションは悪くありません。

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いざ大空にむかってスタート。機体は想像より軽やか、かつスピーディに加速していきます。モーターはソーラーカー用のものをベースに仕様を変更したもの。毎分2000回転前後で回るものを、ギアにより減速しています。ちなみに離陸時は毎分220回転、上空で巡航する際は180から200回転ほど、とのこと。

6時37分。機体はプロペラだけの力で力強く滑走をスタート。数名のメンバーがサポートとして、左右の主翼や機体後部につきますが、思ったよりも滑走スピードも速く、そしてバランスも安定しており、彼らを振り切るように加速していきます。

午前6時27分12秒。

ついに機体は地面を離れ、琵琶湖に向けてテイクオフ!

湖面をなでるように吹く風に押され、やや北へ向けて進路を取りますが、機体の高度が人の背丈を越えるころには、じつに安定したフライトへ。大きく弧を描く主翼もじつに美しいです。離陸成功、本当におめでとう!

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いざ、琵琶湖の空へ! 加速とともに揚力も増していきます。離陸した瞬間、主翼はぎゅっと美しくしなり、緩やかな弧を描きました。

その後も安定したフライトを重ね、距離を伸ばしていきますが、一方、湖面上はちょっとだけ不安定な風が吹いています。

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(写真提供:パナソニック)

そして飛行開始から約6分。やや大きめな風のうねりを受けて、少し主翼が捩れる。やはり自然というのはなかなかの難敵です。

そして、飛行距離が3.5キロを越えたあたり。6時43分26秒に機体は琵琶湖へと着水となりました。

その総飛行距離は3531メートル、飛行時間は6分14秒という記録を残しました。

ギネス世界記録(※1)にこそ届かなかったものの、学生たちが懸命に作り上げた機体は3531メートルにもわたり、じつに力強くも、美しいフライトを見せてくれたのです!

本音をいえば「ひとり乗りの機体とはいえ、“乾電池”に本当に飛行機を飛ばすほどのパワーなんてあるのだろうか」という気持ちもありました。人力飛行機に慣れているTUMPAのメンバーもまた少なからずそういう思いもあったのではと思います。

しかし、美しく大空へと羽ばたいた機体を見ると、乾電池「エボルタ」には十分以上のパワーが秘められていることが分かりました。

エボルタのチャレンジはまだまだ続きます。次はどんな挑戦と感動を私たちに見せてくれるのでしょうか。今後のチャレンジにも期待です!

>> パナソニック「エボルタチャレンジ」

(※1)ギネス世界記録はギネスワールドレコーズリミテッドの登録商標です。(※2)Greatest distance travelled by a fixed-wing aircraft powered by primary dry cell batteries[一次電池(乾電池)で固定翼航空機が飛んだ最長距離]に挑戦。挑戦日:2016年11月6日。

 

(取材・文/村田尚之 写真/木村哲也、村田尚之、GoodsPress編集部、&GP編集部)

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