【DS 7クロスバック試乗】確信犯の“悪趣味”はバロック様式からの引用!?:岡崎五朗の眼

■破壊的でなければDSを名乗る意味がない!?

――2015年に誕生したDSブランドですが、これまでのラインナップはすべて、シトロエンの1モデルとして誕生した車種の、延長線上にあるモデルでした。その点DS 7クロスバックは、DSブランド誕生後に開発されたブランニューモデル。新しいモノを打ち出すためにはやはり、徹底しなければ、という意思が働いたのかもしれませんね。

岡崎:しかも、ブランドの起源となったシトロエン「DS」というクルマ自体が、ものすごく先進的で破壊的なクルマだった。その精神を引き継ぐためには、何か破壊的なものを打ち出さなくてはならない。そうでなければDSを名乗る意味がない、と考えられたクルマだったのかもしれないね。

DS 7クロスバックは、そういう強いメッセージが込められたクルマなんだろうね。その文脈からあの時計やヘッドライトを見ると、確固たるバックグラウンドがあるからこそ、思い切ることができたんだと思う。いわば確信犯だよね。

――そうでなければ、あれだけのことはなかなかできないですよね。可動部品が増えるということは、その分、壊れる確率も高くなるわけですから。

岡崎:フランスの自動車ブランドは近年、どちらかといえば質実剛健の実用車しか作ってこなかった。大統領専用車も、シトロエンの「XM」やプジョー「605」といった、日本なら普通の人でも買える、乗れるクルマばかり。そんな国で新たなラグジュアリーカーブランドを立ち上げようというのだから、それなりの強いメッセージがなければ成功しないと思うんだ。

だからこそDSブランドの首脳陣は、フランスの歴史を含めた強みなどを新たなカーブランドに込めよう、と考えたんじゃないかな。特にDSブランドは“夜のパリ”をイメージしたプレミアム、にインスピレーションの起源を位置づけている。だから、DS 7クロスバックのような表現のクルマが登場するのは、必然なのかもしれないね。

――デザイン以外に、DS 7クロスバックからそういった歴史的遺産のようなものを感じるポイントはありますか?

岡崎:それはやはり、サスペンションだろうね。このブランドの起源ともいうべきシトロエンのDSは、1955年に発表されたんだけど、それ以降、多くのシトロエン車に採用され、独特の乗り味を実現してきた“ハイドロニューマチックサスペンション”が初めて本格採用されたクルマだったんだ。

ハイドロニューマチックは、エアスプリングと油圧シリンダー、油圧ポンプを組み合わせた独特の機構だけど、コストや信頼性の面から、2015年に日本で最後の限定車がリリースされたシトロエン「C5」を最後に、採用が見送られていた。

だから「DS 5」がデビューした時の国際試乗会で、エンジニアの人に「ハイドロニューマチックがなくなるみたいだけど、DSブランドには、やはりあのような独創的なメカニズムが必要なのでは?」と尋ねてみた。すると、実は彼らも同じように考えていて「ショックアブソーバーに工夫を盛り込むことで、ハイドロニューマチックのような乗り味を生み出す方法を考えているところだ」という回答だったんだ。

まさにそれが、DS 7クロスバックに新採用された“DSアクティブスキャンサスペンション”なんだよね。カメラで前方の路面状況をスキャンしてダンパーの減衰力を調整することで、“らしさ”あふれる乗り味を実現している。確かにまだパーフェクトとはいえないけれど、そういうトライをしてきたところも、彼らのDSブランドにかける意気込みを感じさせる。デザインと同時進行で、フランス車の伝統を守り抜いているんだよ。

――これまでなかったフランスのラグジュアリーカーのあり方を提案してきた点は、ものすごく注目に値しますね。

岡崎:DS 7クロスバックは、限られた人しか本当の魅力を理解できないかもしれないけれど、心の琴線に触れた人にとっては、まさに他に比べるものがないクルマになりそうだよね。

<SPECIFICATIONS>
☆グランシック PureTech(ガソリン)
ボディサイズ:L4590×W1895×H1635mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:1598cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:225馬力/5500回転
最大トルク:30.6kgf-m/1900回転
価格:542万円

<SPECIFICATIONS>
☆グランシック BlueHDi(ディーゼル)
ボディサイズ:L4590×W1895×H1635mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:177馬力/3750回転
最大トルク:40.8kgf-m/2000回転
価格:562万円

(文責/&GP編集部 写真/ダン・アオキ)


[関連記事]
【検証:新カーブランド】フランスの新星、DSが目指す世界とは?:岡崎五朗の眼

【DS 7クロスバック試乗】モダンアートのように斬新なルックスに驚きのギミックを満載!

【DS 3 パフォーマンス試乗】200馬力超のパワーをMTで堪能。走り痛快の希少品種


トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする