フツーに乗れるEVへ大幅に進化!BMW「i3」の走りから例の違和感が消えた

■BMWのiは電動車ブランドの先駆け

改めておさらいしておくと、i3はBMWが電動車だけのシリーズとして立ち上げたサブブランド「i」のエントリーモデル。街中での移動を主目的に考えられたシティコミューターのi3と、エンジンとモーター駆動を組み合わせたハイブリッドスポーツカーの「i8」をラインナップする

ドイツの高級車ブランドは今、電動車のブランドの確立に力を入れている。メルセデス・ベンツは「EQ」、アウディは「E-tron(イートロン)」といった具合にサブブランドを次々と立ち上げ、来るべき電動車時代をリードすべく、虎視眈々と覇権を狙っている。

そんなドイツのプレミアムブランドの中で、最も動きが早かったのがBMW。同社はエンジンメーカーをルーツとするだけに、電動化とは縁遠いイメージを持つ人も多いだろう。だからこそ、なのかもしれないが、メルセデス・ベンツやアウディに先駆けてiブランドを確立し、2013年にはドイツ本国でi3と「i8」を発売、2014年には、日本での販売もスタートしている。つまりBMWのiは、大手自動車メーカーによる電動車専門ブランドの先駆けであり、その分、インパクトも大きかった。

ちなみに電動車といえば、EV(電気自動車)を指す言葉と思われがちだが、それは誤りだ。例えモーター出力の小さい簡易的なハイブリッドシステムであっても、駆動するためにモーターを組み込んだ車両はすべて、電動車に含まれる。

BMWのiも、モーターのみで走るクルマだけでなく、エンジン付きモデルを用意。ただし今後は、世の中の状況を鑑みながら、エンジンのないピュアEVだけの商品ラインナップへ移行していくことだろう。

■カーボンボディ製造の専用工場まで建設

それにしてもすごいのは、iブランドに対するBMWのこだわりだ。

i3がデビューした当時、世の中で販売されていたEVの大多数は、通常のエンジン車と同じ車体に、エンジンの代わりとしてモーターやバッテリーを組み込んでいた。しかしiがラインナップした2台は、BMWのエンジン車とは全く異なる、独自設計のシャーシ&ボディを用意。しかもキャビンの構成素材には、カーボンを採用した。カーボンは、新世代旅客機であるボーイング787の機体などにも使われる注目の素材で、クルマに使用した際のメリットは、一般的に使われる鉄と比べ、大幅に軽く頑丈に作れること。そのため、レーシングカーなどでは多用されるが、高コストのため、量産車に使われた例はほとんどなかった。

しかしBMWは、iブランドにおいてそれを実現しただけでなく、大規模な専用工場まで立ち上げたのだから、力の入れように驚くばかり。iブランド誕生まで、カーボンボディの市販車といえば、数千万円単位のスーパーカーしかなかったが、BMWはi3において、それを500万円台から実現したことも衝撃的だった。

i3の全長は4020mmと短いが、ボンネット(ガソリン車だとエンジンルームに相当する部分)の前後長を詰めることで、広い室内を確保しているのが特徴。リアシートも十分な広さを持つ。

大きなガラス面積やスッキリしたデザインのインパネ回りも手伝って、車内は実に開放的。また、センターコンソールがないので運転席と助手席間の移動が可能だし、左右のドアが観音開きタイプだから乗り降りもラクだ。

そうした空間設計も、一般的なBMW車とは全く異なるもの。従来の概念にとらわれず、クルマの未来のカタチを模索していることが伝わってくる。BMWにとって、iは単なる電動車のブランドではなく、パッケージングにおいても未来のクルマを先取りした、新しい提案なのだ。にもかかわらず、一般的に効率が優れるとされる前輪駆動ではなく、後輪駆動のレイアウトを採用しているのは、“走る歓び”を追求するBMWらしい部分といえるだろう。

■スムーズに減速するようペダル制御を変更

i3には2種類のパワートレーンが用意される。ひとつは、エンジンを持たない完全なEV、そしてもうひとつは、駆動力にはモーターを使うものの、発電用のエンジンを組み込んで航続距離を伸ばした“レンジエクステンダー”仕様だ。

先頃上陸した最新型i3は、従来モデル比で約30%容量を拡大した120Ahのリチウムイオンバッテリーを搭載し、総電力量が33kWhから42kWhにアップ。これにより、1回の満充電で走れる走行可能距離は、WLTCモードにおいてピュアEV車で360km、レンジエクステンダー仕様では466kmに伸びた。

今回試乗したのはレンジエクステンダー仕様だが、タイヤを回す力は完全にモーターによって生み出されるので、運転感覚はEVそのもの。加速する際のフィーリングは、EVならではの滑らか、かつ伸びやかな、爽快感に満ちたもので、これを一度味わってしまうと「ガソリン車には戻れない」という人が多いのも素直にうなずける。

車両後部、ラゲッジスペースの床下に搭載されたレンジエクステンダーのエンジンは、基本的に、走行中だけ稼働する。耳をすませばエンジン音が聞こえるが、「ポポポポポ」といった独特の音で決して騒々しくなく、耳障りではない。

一方、先のマイナーチェンジで進化した最新型i3に乗って驚いたのは、走行フィールの進化である。

まず感じたのは、乗り心地が圧倒的に良くなっていたこと。従来のi3はサスペンションが硬く、路面のちょっとした段差でも衝撃が伝わってきたが、最新モデルは違いを実感できるくらいマイルドになり、快適になっていた。さらに、パワーステアリング制御の変更により、ステアリングフィールはより滑らかになっていた。

そうした進化の中で最も驚いたのは、アクセルペダルを離した際のフィーリングだ。i3はアクセルペダルを戻すと、回生ブレーキがかかって電気をチャージする仕組みだが、初期モデルはその際の減速力が強すぎて、デリケートにアクセルペダルを戻さないと、同乗者が前のめりになるほどだった。

ところが最新型は、制御をより綿密にして減速Gの変化を穏やかにし、アクセルペダルを急に戻しても、スムーズに減速するように味つけを変更。従来のi3は、アクセルを踏み込めば加速、戻せば減速というワンペダルドライブが特徴だったため、独創性が失われたと見る向きもあるだろうが、乗りやすさや快適性については、新型の方が大幅にレベルアップしているのだから、歓迎すべき進化といえるだろう。

見た目はほぼ同じだが、中身は大幅に進化。そんな最新型i3に乗って改めて実感したのは、熟成によってクルマはどんどん進化していく、ということ。そして、モーター駆動車であっても、モーターやバッテリーの進化だけでなく、乗り心地やドライブフィールといったクルマとしての基本性能が重要というのは面白い。EVであっても、クルマとしての理想はやはり不変なのだ。

<SPECIFICATIONS>
☆アトリエ レンジ・エクステンダー装備車
ボディサイズ:L4020×W1775×H1550mm
車重:1440kg
駆動方式:RR
モーター最高出力:170馬力/5200回転
モーター最大トルク:25.5kgf-m/100〜4800回転
発電用エンジン:647cc 直列2気筒 DOHC
発電用エンジン最高出力:38馬力/5000回転
発電用エンジン最大トルク:5.7kgf-m/4500回転
価格:592万円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


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