【比較試乗】走りが格段に良くなった新プリウス、ゴルフGTEと比べてどうなの?

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先進的モデルとして、実験的な性格も持ち合わせていた初代プリウス。ハイブリッドシステムの本格的な普及を目指した2世代目。そして、2世代目から始まった“トライアングルフォルム”と名づけられたスタイルを踏襲しつつ、エンジンの排気量を1.5リッターから1.8リッターに拡大した3世代目。

そして今回の4世代目プリウスは、ハイブリッドシステムの基本はそのままに、クルマの走りに深く関わるシャーシ、プラットフォームを一新しました。もちろん、基本は変わらずとも、1.8リッター“2ZR-FXE”エンジンのさらなる高効率化、ギヤ類の配置の再考、モーターの小型高密度化、システムを制御する“PCU(パワーコントロールユニット)”の刷新など、乾いた雑巾をさらに絞るかのような燃費向上の努力が払われています。昨今の厳しい安全基準や環境要件に合わせての、カタログ燃費40.8km/Lという数値は立派です。

新たに採用されたプラットフォームは“TNGA”と呼ばれる高剛性&低重心タイプ。先代比60%アップのねじれ剛性を実現しました。ハイブリッドシステムをはじめ、パワートレインを低い位置に搭載できるのも自慢です。

サスペンションは、フロントがマクファーソンストラットを踏襲、リアはトーションビームからダブルウィッシュボーンに変更され、完全な4輪独立式となりました。そのポテンシャルの高さは、クローズドコースでの試乗で確認済み。また、電気モーターを用いた4WDモデルが設定されたのも、大きなニュースです。

12新型プリウスのグレード構成を見てみましょう。「リッター40.8km!」を実現したのは、“E”グレード(他グレードは37.2km/L)。プリウス中最もお安い、242万9018円のプライスタグが付きます。

プリウス Eは、軽量化のため各種装備を省略。例を挙げると、リアサスペンションのスタビライザー、エンジンのサイレンサー、リアワイパー、荷室カバー、そしてシートの上下調整などが省かれ、車重は、次の上位グレードの“S”より60kgも軽い1310kgとなっています。装備を簡素化しているにもかかわらず、S(247万9091円)との価格差はわずか5万円ほど。では、買う価値はないかというと、そんなことはありません。

Eグレードオーナーには、カタログ燃費に実燃費で“追いつけ追い越せ”という充実した毎日が待っているのです。“ストイックに燃費を追求して走る”ということには、峠でタイヤを鳴らすのとはまた違った“プレジャー”がある…そうです。まさにプリウスオーナーの醍醐味ですね!

“燃費スペシャル”以外のグレードは、普及版たるS、衝突回避支援、車線逸脱警報、前車追従式クルーズコントロールなどを含む“Toyota Safety Sense P”などを追加装備したグレード“A”(277万7563円)、そして、革内装を採用したその豪華版“Aプレミアム”(310万7455円)で構成されます。

S、A、Aプレミアムのいずれにも、ホイールを15インチから17インチにアップした“ツーリングセレクション”や、電気モーターを後輪駆動用に配した4WD版“E-Four”が用意されます。

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さて、そんな新型プリウスで横浜周辺をドライブしたところ…。

17インチタイヤを履く“ツーリングセレクション”は、「“走りの楽しさ”の向上」という新型プリウスの良さを体感しやすいモデルです。薄い“ヨンゴータイヤ”を履いた足まわりや、フィンの入ったリアのディフューザー(=リアバンパー)がスポーティ。ルックスだけでなく、乗ってもしっかりした印象を受けました。

一方“燃費のいい実用車”としてのプリウスを求める一般ユーザーには、15インチモデルがお勧めです。優しい乗り心地ゆえ、ステアリングホイールを握っていてリラックスできるはず。

今回は短時間のドライブながら「これは!」と思わされたのが、“Aプレミアム”の“E-Four”(4輪駆動)モデル。乗り心地がしっとりしていて、ステアリングを切った時の反応も落ち着いている。ちょっとオーバーないい方をすると、最も“ラグジュアリーな”プリウスでした。

プリウスのE-Fourモデルは、FF(前輪駆動)モデルと比較して、モーター、インバーター、ハーネス、トランクアクスル、それらを吊る(載せる)ブラケットなど、合わせて70kgほどの重量増となります。試乗車の“Aプレミアム E-Four”の車重は1460kgと、新型プリウスの中で最も重いモデルでした。

E-Four車は、いわば後席に男性ひとりが乗っている計算ですから、燃費は2駆モデルより3.2km低い34.0km/L。その分(!?)乗り心地はよくなり、前後重量バランスの改善がハンドリングにも好影響を及ぼすのでしょう。

4世代目プリウスは、“ハイブリッド”を枕詞にしない、ユーザーの人から“普通のクルマ”として評価されることをコンセプトに開発されました。日本では、乗用車に占める4WDモデルの比率が10〜15%といいますから、“普通のクルマ”として、このパイを見逃す手はない。ヨンクモデルの追加は、4世代目の開発当初からの決定事項だったとか。4WDモデルの追加で、新型プリウスは、黙っていても1割超の販売増が見込めるわけです(発売当初の受注比率は18%前後を記録!)。

4WDプリウスに搭載されるリアモーターの駆動力は、フロントモーターの約1/3(5.6kg-m)。通常は前輪だけを駆動させて燃費を稼ぎ、発進時や前輪のスリップを検知した時にリアモーターが働きます。発進時の前後駆動力比率はおよそ8:2。もちろん、その比率は状況によって変化して、場合によっては、フロントの駆動力を絞り、リア寄りの動力配分になることもあります。

最新4WD機構は、乱れた挙動を正す“VSC”と協調し、4輪を個別にコントロール。よりドライバーの思いどおりの運転ができるよう、縁の下で手助けしてくれます。運転していて気持ちいいだけでなく、安全性能の基礎体力が上がる側面もあります。4WDプリウスの価格は、2駆モデルと比べてそれぞれのグレードで19万4400円高となりますが、それでも、雪国の人以外でも購入する価値はある、と実感しました。

15さて、今回同行させたのはフォルクスワーゲンのゴルフ GTE。お値段499万円のプラグインハイブリッドモデルなので、新型プリウスとはマーケット的に被りません。とはいえ、プリウスのハイブリッドシステム“THS II”の実力を客観的にジャッジするために、感想を少々述べます。

ゴルフ GTEのハイブリッドシステムは、1.4リッターの直列4気筒ターボ(150馬力/25.5kg-m)とギヤボックスの間に、発電機を兼ねた電気モーター(109馬力/33.7kg-m)を挟む方式。いわば簡易的なハイブリッド機構で、従来のトランスミッションがそのまま残るので、運転した感覚は普通のエンジン車と変わりません。もちろん、モーターだけでの走行も可能で、33.7kg-mという最大トルクを見れば、ゴルフ GTEの力強さが分かるでしょう。

一方、プリウスのTHS IIは、エンジンからの出力を動力分割機構を使い“発電機”と(リダクションギヤを介して)“タイヤの駆動力”に振り分けます。さらにTHS IIは、回生時には発電機として働く駆動用のモーターを持っています。場合によっては、発電機で充電しつつ、バッテリーからの電気で駆動用モーターを回し、エンジン出力と併せてタイヤを回す、なんてことも行っています。複雑なんですね。

プリウスのドライブフィールを決定付ける要因のひとつが、無段階変速機(CVT)として働く動力分割機構でしょう。ベルト式のCVT車が市場に出始めた頃、「エンジン回転数と実際の速度がシンクロしないのがイヤ」という意見をよく耳にしました。

THSはブラッシュアップを重ね、エンジン回転数と速度が乖離する不自然さは大幅に改善されましたが、根本的なところでは、プリウスもベルト式CVT車と同じ課題を背負っています。守旧派が多い(!?)ヨーロッパで高速燃費が伸びないことと併せ、いまひとつプリウスが受け入れられない原因のひとつが、これなのかもしれません。一般的なギヤボックスを介し、いかにも“自動車然”とした走行フィールのゴルフ GTEを運転しながら、そんなことを考えました。

初代プリウスが出て、もうすぐ20年。トヨタのハイブリッドシステムに関する各種パテントもそろそろ切れるタイミングです。難しい制御を克服し、同じようなシステムを本格的に採用するメーカーが出てくるのか? プラグイン機構への対応は? パラレル式とTHS方式はどちらが有利なのか? はたまた、エンジンを発電機を回すだけに使う“シリーズ式”ハイブリッドの逆襲はあるのか!? プリウスには、そんな近未来のクルマのことを想像させ、考えさせる魅力があります。興味は尽きません。

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<SPECIFICATIONS>
☆トヨタ プリウス Aプレミアム E-Four
ボディサイズ:L4540×W1760×H1475mm
駆動方式:4WD
エンジン:1794cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:電気式無段階変速機
エンジン最高出力:98馬力/5200回転
エンジン最大トルク:14.5kg-m/3600回転
フロントモーター最高出力:72馬力
フロントモーター最大トルク:16.6kg-m
リアモーター最高出力:7.2馬力
リアモーター最大トルク:5.6kg-m
価格:330万1855円

<SPECIFICATIONS>
☆フォルクスワーゲン ゴルフ GTE
ボディサイズ:L4265×W1800×H1480mm
車重:1580kg
駆動方式:FF
エンジン:1394cc 直列4気筒DOHC ターボ
トランスミッション:6速DSG
エンジン最高出力:150馬力/5000〜6000回転
エンジン最大トルク:25.5kg-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:109馬力
モーター最大トルク:33.6kg-m
価格:499万円

(文&写真/ダン・アオキ)

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