ホンダ新型「フィット」はココがスゴい!“人研究”と割り切りが生んだ心地よさが新鮮

■徹底調査が可能にしたポジティブな割り切り

新型フィットのグレード体系は、(上の写真の左から)シンプルな「BASIC(ベーシック)」、快適性を高めた「HOME(ホーム)」、個性を強調した「NESS(ネス)」、流行りのクロスオーバーSUVスタイルを採り入れた「CROSSTAR(クロスター)」、そして、上質仕様の「LUXE(リュクス)」といった具合に、スタイルの違いで5つの個性をラインナップ。そのすべてに、柴犬をモチーフにしたエクステリアデザインを採用しているが、決して“犬の顔に見える”ことを目指したわけではない。柴犬はあくまでもイメージであり、親しみやすさを象徴する概念。ともかく筆者は、新型フィットをひと目見た瞬間に、「かわいいじゃないか!」と感じた。

そんな新型フィットは、心地よさをテーマに開発に取り組んだという。「技術があるから、他社がやっていることはウチでもできる」とばかりに、手当たり次第にアイデアを採り入れるのではなく、ユーザーが日常使いする中で、本当に役立つ機能や、心地よいと感じてもらえることなどをしっかりと調査し、考え、採用するか否かの判断を下したという。つまり、必要ないと判断されたものは「技術的に製品化が可能でも切り捨てた」わけだ。

その一例が、リアシートの背もたれ。先代フィットの後席は、2段階に背もたれの角度を調整できたが、新型フィットのそれは、先代の後ろ側の角度に相当する、27度の位置に固定してある。先代は、ラゲッジスペースを少しでも広く使ってもらおうと、背もたれを起こせる角度調整機構を設けていたが、ユーザー調査をしてみると、実際にはほとんどの人が、後ろ側に固定したまま使っていたという。そこで新型の開発陣は、後ろ側で固定する判断を下したそうだ。

一方、ハイブリッド仕様のリアゲートを開けてラゲッジスペースをのぞくと、後席背もたれの付け根部分がふくらんでいるのが目に入る。その中には、バッテリーを冷却するためのダクトが通っていて、一見「荷物を積む時に邪魔になりそう」と思うかもしれない。しかしこれも、実際の使われ方を調査した結果、編み出された形状だという。

例えば、スーツケースを積み込む場合、ケース上方の角が背もたれの背面に当たるため、実はふくらんでいる部分はデッドスペースとなる。そこで開発陣は「邪魔になりやすい荷室の手前側よりも、背もたれ付け根のデッドスペース部にダクトを配置しよう」と判断。こうして理に適った荷室レイアウトが実現した。

■人を研究することから生まれた新発想のシート

フィットの乗車定員は5人だが、実際の使用シーンでは後席に3人座る機会は少なく、1人または2人で乗るケースの方が圧倒的に多い。そこで新型は、リアシートの折り畳み機構用のヒンジ位置を、従来よりも外側へと移動させ、その分、座面のパッドを先代比で24mm厚くした。もちろんこれは、後席に座る人の心地よさを高める配慮。パッドを厚くした結果、太ももの外側をしっかり支える形状となり、座った時の安定性だけでなく、座る人の安心感をもアップさせている。

そんなリアシートは、スペース的にも申し分のない広さを確保。身長184cmの筆者が快適に座れる位置に前席を合わせ、その状態で後席に着座すると、ヒザの前にはこぶしが入るほどのスペースが残り、頭上のスペースにも余裕がある。その上、乗り心地も申し分なく、静粛性も高い。これなら高速道路を走行中でも、身を前に乗り出すことなく、前席に座る乗員との会話を楽しめるはずだ。

ちなみに新型フィットは、フロントシートも構造や素材を変更。それは、フィットのために開発されたもの、というよりも、今後登場するホンダ車のために、新コンセプトの下、開発されたものだ。導入のタイミングがたまたま今回のフルモデルチェンジと重なったため、新型フィットで初出しとなった。

これまでホンダは、「いいシートとはどんなものだろう?」とハードウェア視点で開発を行っていたというが、新しいシートは「人が心地よく座るために必要なこととは何か?」という、“人研究”の視点から開発されたものだという。人と疲れの関係を徹底研究した結果、たどり着いた結論は“骨盤を安定させること”。新たなコンセプトで開発されたこのシートを、ホンダは“ボディスタビライジングシート(カラダを安定させるシート)”と名づけたが、実際、座った瞬間にカラダの収まりが良いことに気づき、走行中もカラダが安定するため運転しやすい。これならロングドライブに出掛けても、疲れにくいだろう。

もちろんそうしたメリットは、ドライバーだけのものではない。ドライバーがブレーキを踏んだり、クルマが加速したりするシーンでは、助手席の乗員は無意識に、カラダの動きを抑えるべく足を踏ん張ってしまう。従来のホンダ車のシートは、乗員のカラダをしっかりサポートすることを目指していたが、新型フィットから採用が始まった新しいシートでは、触れていることが分かる程度の軽微なサポートに変更したという。開発陣によると、実はカラダが少し触れているだけで乗る人の気持ちに安心感が生まれ、車体が揺れる前から足を踏ん張るような動きがなくなるという。これも人研究を行った結果、編み出された賜物だ。

■開放感たっぷりの前方視界はかなり新鮮

新型フィットが初めて公開されたのは、2019年10月の東京モーターショーでのこと。そこで筆者が感銘を受けたのは、リアゲートを含め、ドアを閉める時の“感じのよさ”だった。

このクラスの日本車では考えられないほど品があり、意味もないのに開け閉めを繰り返したくなったのだ。聞けばこれも開発陣のこだわりのひとつで、「かなり意識した」部分だという。技術的なことをいえば、ドアの骨格構造を工夫するとともに、前後ドアとも完全なる二重構造にすることで、気密性を高めている(そしてこれは、静粛性の向上にも効いている)。また、ドアチェッカーの荷重の受け方にも気を配ったということだ。

そして、握り心地がやさしい太めのドアハンドルを握って運転席のドアを開け、シートに腰を下ろすと、未体験の景色が目に入る。ダッシュボードは上面がとことんフラットで見晴らしがいい。

開発陣によると、流行りの“HUD(ヘッドアップディスプレイ)”導入も検討したというが、熟考の結果、今回は採用を見送ったという。新型フィットのメーターパネルには、7インチのフルカラー液晶パネルが採用されているが、分かりやすさを意識したというその表示は、一般的なHUDの表示にとても似ている。手前と奥に似たようなインターフェイスを重ねて配置するよりも、新型フィットは開放感を重視したというわけだ。

未体験の景色をもたらすもうひとつの秘密は、フロントピラーを極細に仕上げたこと。一番前に位置する細いピラーは、フロントガラスを支えるためだけに存在し、万一の事故の際の衝突エネルギーは、前から2番目の太いピラーで受け止める。

フィットといえば、歴代モデルすべてでワンモーションのフォルムを継承しているが、死角を極力廃した広い視界と、フィットらしいエクステリアデザインを両立させるべく、このようなピラー構造に落ち着いたという。その効果は絶大で、開放感たっぷりの前方視界はかなり新鮮だ。

今回、新型フィットのエクステリアとインテリアをじっくりと観察し、クルマに触れ、なぜそういう機能やカタチになったのかを開発陣に直撃した。それぞれの背景を知れば知るほど、使う人のためを思って設計されたクルマであることがひしひしと伝わってきた。新型フィットは決して、かわいい顔で人に媚びるだけのクルマではないのだ。

※「Part.2」では、新型フィットの走りの実力に迫ります

<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV HOME[ホーム](FF)
ボディサイズ:L3995×W1695×H1515mm
車重:1180kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:98馬力/5600〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:109馬力/3500〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3000回転
価格:206万8000円

<SPECIFICATIONS>
☆NESS[ネス](FF)
ボディサイズ:L3995×W1695×H1540mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1317cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:98馬力/6000回転
最大トルク:12.0kgf-m/5000回転
価格:187万7700円

(文/世良耕太 写真/&GP編集部)


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