懸案の乗り心地も良化!トヨタ「ハイラックス」は日常使いできる硬派な趣味グルマ

■現行ハイラックスはタイで生産される輸入車

いきなり個人的な話で恐縮だが、筆者はハイラックスが大好きだ。ハイラックスはトヨタがタイで生産し、日本に輸入しているピックアップトラックで、一般的なトラックとは異なり、ボンネットが前に突き出ているのが特徴。そのためトラックといっても、セダンに近い感覚で運転できる。

こういったタイプのクルマは、25年ほど前までは日本でもよく見掛けた。ハイラックスのほかにも、日産自動車からは「ダットサントラック」が、三菱自動車からは「フォルテ」や「ストラーダ」が、そして、いすゞからは「ファスター」や「ロデオ」が販売されており、乗用というよりは“働くクルマ”として使われるケースが多かった。

しかし気づけば、商用トラックはボンネットのない小型トラックへとどんどん置き換わり、日本では新車のピックアップトラックが販売されない時期も。そのためピックアップトラックは、一時期、すっかり忘れられた存在となっていたのだ。

そんな中、異変が起きたのは2006年のこと。三菱がタイからの輸入車として「トライトン」の販売を始めたのだ。結局トライトンは、2011年に日本での販売を終了したが、一定の人気を獲得。そうした中、今度はトヨタが、2017年に同じくタイからの輸入車としてハイラックスの販売を始めたのである。

ちなみに、ハイラックスとトライトンがともにタイからの輸入車扱いとなっているのは偶然ではない。タイはピックアップトラックの人気が高いのに加え、日本メーカーが世界各地へ輸出する際の生産拠点にもなっている。一方、ピックアップトラックは日本にある工場の製造ラインに載せるほどの販売台数を望めないこともあり、タイで生産された車種が日本市場へと運ばれてくるのである。

■昔ながらのタフな四駆に通じるクルマ作り

日本市場では貴重となったピックアップトラックのハイラックス。その魅力とは一体何か? それは、そこかしこから漂う硬派な雰囲気にほかならない。軟弱なクルマ(とそのオーナー)なんか相手にしない無骨さと潔さに心惹かれるのだ。

かつては商用車の色合いが濃かったハイラックスだが、現在、日本で販売されるモデルは日常使いもこなせるだけの質感と快適性を備えている。2020年夏のマイナーチェンジではエクステリアがリファインされ、フロントグリルがより大きく力強くなるなどワイルドな印象を強めながら、メッキパーツを随所にあしらうことで見栄えが格段に良くなった。

インテリアも同様。上級グレードの「Z」になると、光沢あるピアノブラックのパネルやメッキパーツで飾ったダッシュボードに革巻きハンドルを組み合わせ、メーターにも自発光タイプをおごるなど、ちょっとしたミドルクラスSUV以上の質感を誇る。さらに、非接触式キー&プッシュ式スターターといった快適装備はもちろん、夜間の歩行者まで検知する衝突被害軽減ブレーキやレーダー式クルーズコントロールまで備え、乗用車として見ても不満のない装備レベルとなっている。

しかも、4ドアのダブルキャブ仕様のためリアシートにもラクにアクセスできるし、後席自体もビックリするほど広い。5.3mオーバーの全長こそ持て余してしまう恐れがあるが、それさえ除けば、普段使いもさほど苦にならない。

だからといって、ハイラックスが軟弱なクルマになってしまったのか、といわれれば、答えは「ノー!」だ。例えばシャーシは、伝統的なラダーフレーム式を採用するなど強靭さを重視。さらに4WDシステムは、4WDのローレンジも選択できるコンベンショナルな機械式パートタイム仕様を組み合わせる。つまり、クルマ作りの基本的な思想は、「ランドクルーザー70」を始めとする昔ながらのタフな四駆のそれに則っているのだ。

ちなみにハイラックス自体は、海外市場向けに車高の低い後輪駆動モデルも用意するなど、すべての仕様が本格オフローダーというわけではないが、日本で販売される4WD仕様は“ランクル”に匹敵するほどの優れた悪路走破性を誇り、それもまた人々の冒険心をくすぐる大きな魅力となっている。イマドキの都会派SUVとは一線を画す、根底にあるクルマ作りの精神こそが、ハイラックスの硬派な魅力といえる。

先のマイナーチェンジでは、内外装デザイン以外にも大きな改良が施されている。例えばエンジンには、アイドリングストップ機能を追加。これによりカタログ記載のJC08モード燃費が15%以上も改善された。

また、サスペンションやパワーステアリングなども改良されたほか、滑りやすい路面において左右輪個別に自動でブレーキを掛け、タイヤの空転を防ぐ“オートLSD”機能も新搭載。さらにZグレードには、車両前後の障害物を検知してドライバーに知らせるクリアランスソナー&バックソナーも標準装備するなど、日常使いにおける使い勝手を高めている。

このほか新型は、サスペンションの改良によって従来モデルより乗り心地が格段に向上。ロングドライブ時の疲労感が軽減されている。これならファミリーカーとして使っても、家族からクレームが起きることはないだろうし、ハイラックス好きの筆者から見ても、ますます魅力的になったと思う。

■いい意味でのユルさが漂う独特の乗り味

そんなハイラックスの走りは、やはりイマドキのSUVとはひと味違う。ひと言でいえば、懐かしさを伴う乗り味なのだが、それはそれで味わい深く、むしろこのクルマの美点にもなっている。

昨今はSUVであってもオンロードにおける性能が重視され、ドライバーの運転操作に対する俊敏性や緻密な挙動などが向上している。それこそ、峠道でも驚くほど速く、シャープな走りを楽しめるSUVも少なくない。

しかしハイラックスは、そうした時流には乗らず、精密さとは無縁のユルい操縦性から、昨今のクルマに比べて強めの衝撃を伝えてくる乗り心地まで、いい意味でのユルさが漂う乗り味をキープしている。機械的に「いい」とか「悪い」で評価すれば、決して高い評価は与えられないものの、どこか人間味があって、魅力的に感じるドライブフィールなのだ。「ああ、昔のクルマってこうだったよな」という懐かしさに加え、妙に心が落ち着き、乗っているだけで心地良くなってくる。イマドキのクルマが失った“温かみ”のようなものが感じされ、「細かいことなど気にせず前に進んでいこう」とクルマが語り掛けてくる気がするほどだ。だから淡々と走らせているだけで、なんだか元気になれる気がする。

昨今の自動車マーケットを俯瞰すると、ハイラックスはとても特殊なクルマだ。乗用車としての快適性は少々見劣りするし、全長が5.3mをオーバーするため駐車場を選ぶこともある。しかも、1ナンバー登録のため毎年、面倒な車検を通さなければならず、高速料金も高い。荷物をたっぷり積み込める広い荷台はあるけれど、日々の暮らしの中でそれを必要とし、使いこなせる人はここ日本にはそう多くないだろう。

それでも一部の人にとっては、そうしたネガを超える魅力を備えた、唯一無二のクルマになり得る。そうした人々を虜にする要素は、実用性の高さや優れた悪路走破性かもしれないし、懐かしい乗り味を含めた他のクルマにはない個性かもしれない。ピックアップトラックのマーケットはニッチだが、ハマる人にとってはこれほど幸せになれるクルマはないだろう。新しいハイラックスは働くクルマであると同時に、日常使いもできる硬派な趣味グルマでもある。常識にとらわれない選択肢として、ハイラックスはかなり魅力的な存在といえそうだ。

<SPECIFICATIONS>
☆Z
ボディサイズ:L5340×W1855×H1800mm
車重:2100kg
駆動方式:FR/パートタイム4WD
エンジン:2393cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:150馬力/3400回転
最大トルク:40.8kgf-m/1600〜2000回転
価格:387万6000円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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