電動化で“らしさ”が明快に!EV版「DS3クロスバック」の走りはクラスを超越

■3年3万kmでの所有コストはガソリンターボとほぼ同等

DSオートモビルはプジョーやシトロエンと同様、フランスのグループPSAに属しているが、2014年の分離独立後は開発陣やデザイナーが完全に別部隊となり、ブランドの独自性を強めている。

ここ日本には、DS 7 クロスバックとDS 3 クロスバックという2モデルが導入されていたが、先頃、バッテリーに蓄えたエネルギーでモーターを駆動するピュアEV、DS 3 クロスバック E-TENSEのデリバリーが始まった。

ちなみにDSオートモビルは、今後、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)といった電動化車両に“E-TENSE”のサブネームを使用していく意向で、すでに欧州では、ガソリンエンジンに加え、前後に1基ずつモーターを配置したPHEV「DS 7 クロスバック E-TENSE」も発表されている。

DS 7 クロスバック E-TENSE

一般的に、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関を搭載するモデルに対し、EVは値が張るというのがこれまでの常識だった。クルマの価値やグレードが価格に比例するという旧来的な考え方であれば、内燃機関を搭載した仕様よりもEVの方が上級、ということになる。しかしDSオートモビルでは「コストではなく、純粋に使い方と乗り方に応じて内燃機関モデルがいいか、EVがいいかを選んで欲しい」というメッセージを我々に投げかけている。

DS 3 クロスバックの内燃機関モデルは、1.2リッターの3気筒ガソリンターボエンジンに8速ATを組み合わせる。最高出力は130馬力、最大トルクは23.5kgf-mだ。一方、ピュアEVのE-TENSEは、最高出力136馬力、最大トルク26.5kgf-mのモーターを搭載する。スペック的にはお互い似たようなものだが、それぞれの価格は内燃機関モデルが373万円と426万円、E-TENSEは499万円と534万円となっている。

同じグレードどうしで比べると、内燃機関モデルとEVとでは100万円以上の価格差があるが、インポーターであるグループPSAジャパンによると「保険料やメンテナンス費用、月々のガソリン代と電気代、EV購入時に利用できる補助金や低金利プランなどを勘案すると、3年3万km乗った場合の所有コストは、ほぼ同等になる」という。要するに“パワー・オブ・チョイス”であり、内燃機関モデルにするかEVにするかの選択は、コストではなく単純に好みに応じて選べばいいわけだ。

■懐古に走らずモダンなデザインへと昇華

スタイリング上の差はほとんどない、とはいえ、ガソリンエンジンを積むDS 3 クロスバックと、EV版のDS 3 クロスバック E-TENSEとでは、ラグジュアリーの度合いが異なっている。見るからに、よりラグジュアリーなのはE-TENSEの方で、DSオートモビルが目指す世界観がより色濃く投影されている。

例えばエクステリアでは、ボンネットフード先端に付くバッジが専用品となるほか、フロントグリルはアントラシートグレー(フランスの伝統色である黒に近いグレー)で、ホイールはサテンクロームで仕上げられている。

対するインテリアは、まさに圧巻のひと言。シートやダッシュボード、ドアトリムをホワイトで統一したインテリアは、ラグジュアリーモデル定番の仕立てともいえるが、中でも上級グレード「グランシック」では、インテリアをパリ1区のリボリ(Rivoli)通りになぞらえ、ハンドルまでオフホワイト(正確にはパールグレー)で統一している。ここまでホワイトのオンパレードなのに、いやらしさを感じないのはデザイナーの手腕によるところが大きい。

DSオートモビルでは“サヴォアフェール(Savoir-Faire)”を意識してクルマづくりを行っているという。英語的に表現すれば“フレンチノウハウ”だし、日本語に意訳すると“匠のワザ”となるが、単にフランスの伝統技法を適用するにとどまらず、より良いもの、より美しいものを希求する前向きな姿勢がそこには込められている。

DSの各モデルには、アールデコと呼ばれる1920年代半ばにパリで起こり世界へと広がった幾何学模様がデザイン上の特徴だが、モチーフを引用するだけの懐古に終わらず、モダンなデザインへと昇華させているところが、まさにDS流のサヴォアフェールといえるだろう。

話をインテリアに戻すと、内燃機関モデルでは空調のアウトレットとスイッチパネルにひし形のパターンがあしらわれているが、E-TENSEではそれに加え、ダッシュボードやドアトリム、シートのサイドサポートなどにも展開され、統一性を高めている。

ホテルの部屋に例えるなら、E-TENSEのインテリアは内燃機関モデルのそれに対し、ひとつ上の空間へとグレードアップしたかのような印象だ。

■1日40km走る人でも充電は1週間に一度でOK

DS 3 クロスバック E-TENSEに採用されるプラットフォームは、グループPSAのコンパクトカーセグメントをカバーする“CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)”と一括して開発された、EV版の“eCMP(エレクトリック・コモン・モジュラー・ プラットフォーム)”だ。そのためハードウェアの多くを、同じeCMPを採用するプジョーのEV「e-208」や「SUV e-2008」と共有している。

グループPSAの考え方が独特なのは、内燃機関モデルとEV仕様とでプラットフォームの基本構造を共有していること。フォルクスワーゲンやBMW、アウディなどのように、EV専用のブランドやプラットフォームを設けることなく、同一モデルにおける動力源のバリエーションとして、EV版を設定しているのだ。

その際、使い勝手に関して一切妥協しないのが、グループPSAのこだわりともいえる。多くのEVは、床一面にバッテリーを敷き詰める構造を採り入れているが、これだとフロア位置が高くなり、リアシートに座る乗員は足の置き場に困ることも。その点eCMPは、そうならないよう後席乗員の足下を避けるカタチで、フロントシート下やセンターコンソール、そして、リアシートの下にバッテリーを搭載する。

実際、後席に座ってフロントシート下につま先を入れてみたが、バッテリーの存在はさほど気にならず、快適に移動することができた。もちろん、バッテリーはラゲッジスペースを浸食しておらず、荷室の使い勝手も内燃機関モデルと変わらない。

ちなみにバッテリーの容量は50kWhで、カタログに記載されるJC08モードでの一充電走行距離は398kmをマークする。実際の“電費”はその7割だと仮定すると、280km走れることになる。通勤などで1日40km走る人なら、1週間に一度充電すればいいという計算だ。これなら自宅に充電設備がなくても、EVライフを送れるのではないかと思わせるに十分なスペックだ。

なお、DS 3 クロスバック E-TENSEは、“CHAdeMO(チャデモ)”規格での急速充電(50kW:80%充電まで約50分)や、家庭用のコンセント型普通充電(3kW/200V:100%充電まで18時間、50km充電まで約3時間)、そして、街の一部店舗などに設置されるウォールボックス型普通充電(6kW/200V:100%充電まで9時間、50km充電まで約1.5時間)に対応している。

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