ドライバーに異常が生じたら自動で運転!マツダ“CO-PILOT”のドラテクはプロ級だ☆岡崎五朗の眼

■居眠りや急性疾患による事故から人々を守る

「ではここで、気絶したフリをして下さい」と、プロトタイプの助手席にいるマツダのエンジニアからいわれた。いくら控えめな速度、しかもテストコース内とはいえ、60km/hでクルマを走らせながら“気絶”するのはかなり勇気がいることだ。

意を決してガクリと首を下に傾け、ステアリングからも手を離す。すると…3秒後くらい経っただろうか、「ピピピピ」とアラームが鳴るとともに、「ドライバーの異常を検知しました。安全なところまで走行し、停車します」というアナウンスが流れ、それと並行してクラクションとハザードで緊急事態が発生したことを周囲にアピールする。

見事なのはここからだ。ドライバーの運転操作ゼロ(=気絶状態)のまま、軽くブレーキを掛けて高速道路の最低速度に合わせた50km/hまで減速(一般道の場合は状況によってさらに速度を落とす)。と同時に、ステアリングアシストが作動して車線内を維持しながら走行を続ける。のだが、安全な場所に停車するには前もって左側車線に移動しておく必要がある。そこで、センサーや12個のカメラを使ったシステムが周囲の交通状況をモニターし、安全と判断した段階にて自動で車線変更。搭載する詳細マップを元に弾き出した最寄りのパーキングへと自動運転を続ける。

もちろん、本当に気絶していたわけではないので、一連の動きをすべて観察していたが、コイツは本当に運転が上手い。減速、車線変更、パーキングへの侵入、停止など、一連の動きがきわめて滑らかで安心感が高い。高速道路ではなく、カーブが連続するセクションでも試したが、ステアリングを切り込むタイミングや速さ、戻し方などなど、まさに「プロドライバーが丁寧に運転するとこうなる」という動きだった。

さっきは気絶だったが、このシステムは居眠りの検知も目指すそうだ。目をつぶると、ステアリングコラムにある3個、液晶モニター脇にある1個、計4個のセンサーがドライバーの居眠りを検知し、気絶した際と同じモードが発令される。しかも、単に目を開けているか、閉じているか、脇見をしているか、を見ているだけでなく、脳科学の考えを採り入れ、カメラから得た情報と視線の動きを比較し、体調になんらかの異常が起きているかどうかの判定もするという。一見、元気なように見えても、毎日、顔を合わせている家族なら「今日はなんか様子が変だな」と感じることがある。そうしたチェックをクルマが行い、てんかん、脳血管疾患、低血糖、心疾患などを原因とする体調急変の予測と検知を行うというわけだ。

ここまで踏み込んで居眠りや急性疾患による事故からドライバーと乗員と周囲の人々を守るのが、マツダが開発中のMAZDA CO-PILOT 2.0だ。試乗したのは開発中のプロトタイプだったが、技術的にはかなり練り込まれているし、後述するように法規制とのすり合わせも進んでいるようだ。

■自動運転で楽ちんに走行…という選択肢はナシ

ここまで読んでいただいた方は「なるほど優れたシステムだね」と思う一方、「コレ、自動運転じゃないの?」とも感じていると思う。なぜなら、ドライバーが気絶した後の振る舞いは自動運転そのものだからだ。

しかし、自動運転か自動運転じゃないのかという観点でいくと、MAZDA CO-PILOT 2.0は自動運転ではない。あくまで緊急時の事故を防ぐための安全装備であり、最近、普及が著しい衝突被害軽減ブレーキの高度版という位置づけとなる。これについてマツダは「運転する歓びを提供するのが我々のコアバリュー。人中心の安全技術によって、ドライバーが自らの意思で運転し自由に移動する歓びをサポートするために開発した」とアピールする。自動運転に前のめりなメーカーが多い中、マツダのこのポリシーはかなりユニークだ。分かりやすくいえば、「運転という素晴らしく楽しい行為をクルマに任せちゃうなんてもったいないじゃん!」ということである。事実、今回体験したMAZDA CO-PILOT 2.0のプロトタイプでは、ハンズオフ運転も自動車線変更も安全なスペースへの誘導も、ドライバーになんらかの異常が発生しない限り発動しない。自動運転スイッチをオンにして楽ちんに走行…という選択肢は用意されていないのだ。

もったいない論でいくと、数多くのセンサーやカメラ、詳細地図データといったコストの掛かる技術をてんこ盛りし、ハンズオフや自動車線変更が可能とする実力を備えながら、他社が一部の車種ですでに商品化しているそういった機能を自由に起動できないというのももったいない話ではある。何しろ、ホンダが世界で初めて世に送り出した“自動運転レベル3”である「レジェンド」の“ホンダ センシング エリート”に匹敵する機能を持っているのだ。

もちろん、MAZDA CO-PILOT 2.0が生み出すリスク低減能力には最大限の称賛を送りたいし、それによる安心感にも大きな価値があることは認める。しかし、そのために数十万円の価格アップが生じたとして、疲れていてある程度ラクに運転したいと感じている時でもドライバーの意思では起動できないシステムに対し、果たしてユーザーはお金を払ってくれるだろうか。そこに一抹の不安が残る。

その辺りはエンジニアとかなり突っ込んだ議論をしたが、マツダのポリシーは結構固いなと感じた。しかし、完全否定ではない感触があったのも確か。現在マツダが展開する先進安全技術“i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)”に、MAZDA CO-PILOT 2.0の技術をフィードバックした“i-ACTIVSENSE 2.0(?)”の登場が完全否定されているわけではないことは、期待を込めてお伝えしておきたい。

■深謀遠慮の末、あえて「自動運転ではない」とアピール!?

一方、これはあくまで私見だが、マツダは深謀遠慮の末、あえてMAZDA CO-PILOT 2.0を「自動運転ではない」とアピールしているのではないか、とも思う。ホンダ センシング エリートのエンジニアに聞いたのだが、大変だったのは機能そのものもさることながら、レベル3を実現するために用意した幾重ものバックアップシステムだったという。自動運転レベル3は条件付きでクルマが運転操作をする(作動中は法的にはスマホ操作も可能)。いい換えれば、自動運転中の事故は、ケースにもよるがメーカー側が負うという、メーカーにとってきわめてリスクの高い商品なのだ。そのため、誤作動や故障のリスクを徹底的、それこそ必要以上につぶしていく必要がある。結果、ホンダ センシング エリートは自動運転レベル3の認証獲得と引き換えに、およそ300万円の価格上昇を伴った。

その点、MAZDA CO-PILOT 2.0は、上述したように自動運転ではなく緊急危険回避装置であり、徹底的なバックアップシステムも、厳しい国からの認証基準も、レベル3よりははるかに低くて済むためコストを抑えられる。実際、気絶→安全な場所までの移動中に事故が起きたとしても、緊急危険回避中の事故とみなされるそうだ。これは開発、実装のハードルを下げるという意味で非常に大きい部分だ。

そういう意味で、MAZDA CO-PILOT 2.0はとてもよく練られたシステムだと思う。残る課題は、このシステムが持つ美味しいところをいかに上手にピックアップして、ユーザーの購買意欲を喚起する商品にまとめていくかだろう。今後の動きに要注目だ。

文/岡崎五朗 

岡崎五朗|多くの雑誌やWebサイトで活躍中のモータージャーナリスト。YouTubeチャンネル「未来ネット」で元内閣官房参与の加藤康子氏、自動車経済評論家の池田直渡氏と鼎談した内容を書籍化した『EV推進の罠』(ワニブックス)が発売中。EV推進の問題だけでなく脱炭素、SDGs、ESG投資、雇用、政治などイマドキの話題を掘り下げた注目作だ。

 

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