マツダ「CX-3スーパーエッジー」のハイセンスな色気は驚くほど手間の掛かる塗装に秘密あり

■CX-3の魅力はなんといっても優美なデザイン

最量販モデルの「CX-5」を始め、「CX-30」、「MX-30」、「CX-8」、そしてCX-3と、いまやフルラインSUVメーカーの様相を見せるマツダ。その中で、今回フォーカスするCX-3は、マツダのSUVラインナップで最もコンパクトなモデルだ。

CX-3について改めておさらいすると、プラットフォームは「デミオ」改め「マツダ2」と同じタイプを採用。ホイールベースも2570㎜で共通だ。ボディサイズは、全長4275㎜、全幅1765㎜で、日常でも取り回しのいい大きさ。ボディサイズからいえば、ライバルはトヨタの「ヤリス クロス」や日産「キックス」辺りになってくる。

そんなライバルに対するCX-3の魅力は、なんといっても優美なデザインだ。2015年2月のデビューなので、すでに登場から7年が経過。その間、デザインにおいて大きなテコ入れは施されていないが、今なお色褪せないのは素のデザインが美しいからにほかならない。

まさにCX-3は“小さくて美しいのが素敵”という価値観で作られたデザインコンシャスなモデルであり、SUVながら機械式立体駐車場を利用できる全高としたことで、SUVというよりも少しだけ背の高いハッチバックといった感覚が強い。

デザインの方向性は異なるものの、コンセプトとしてはコンパクトクロスオーバーSUVの先駆者ともいえる日産「ジューク」に近いだろう。そんな初代ジュークと同様、CX-3もデザイン重視のモデルだけに、実用性は高くない。リアシートもラゲッジスペースも、ファミリーユースを考えると明らかに物足りない。

とはいえ、その問題についてはすでに決着がついている。マツダはCX-3の実用性の課題を解消するモデルとして、リアシートを拡大してラゲッジスペースも広いCX-30を投入済み。CX-30の全長は4395㎜とCX-3よりひと回り大きいが十分コンパクトで、小さいボディと使い勝手との両立を求めるニーズはCX-30でカバーしているのだ。

■コンパクトSUVとは思えないほどの色気とドレッシーさ

その結果CX-3は、実用ニーズに縛られることなく、美しいコンパクトSUVとしてのポジショニングを改めて確立することができたのではないだろうか。そのことを実感させるのが、先頃設定された特別仕様車のスーパーエッジー(Super Edgy)だ。

CX-3は2011年10月に商品改良を実施。と同時に、キャラクター性を強めるべく、スーパーエッジーを設定した。そのネーミングには「最先端を狙っていきたい」「尖った、先鋭的なコンセプトを表現したい」との願いが込められているという。

そんなスーパーエッジーの最大の特徴は、特別仕立てのボディカラーである。ルーフや“クラッディング”と呼ばれるタイヤ周囲の樹脂パーツを光沢のあるブラックに塗り分けたツートーン仕様で、センスは抜群。このカラーリングの狙いはエレガントさの表現で、ドアを開けて車内を目にした時、スーパーエッジーのような塗り分け具合の方が、より上質に見えるという。

ちなみにブラック以外の部分は、試乗車のプラチナクォーツメタリックのほか、ソウルレッドクリスタルメタリック、ポリメタルグレーメタリック、セラミックメタリックの計4色が設定される。

中でも“上品に見せるカラー”として設定車種で人気が高まっているプラチナクォーツメタリックとの組み合わせは、コンパクトSUVとは思えないほど色気があってドレッシー。アスリートがフォーマルな衣装に身を包んだら驚くほど優雅だった、といった感じの変身ぶりだろうか。おそらくセラミックメタリックの無機質な感じも似合うことだろう。

■メイン色を塗った後にドアとボンネットを外して黒を塗る!?

色気があってドレッシーなカラーリングが特徴のスーパーエッジーだが、最大の驚きはドアやボンネットフードを開けた時にやってくる。ドアの開口部やエンジンルーム内が、ボディのメインカラーではなくブラックに塗られているのである。(試乗車の)プラチナクォーツメタリックとのコントラストはもちろんのこと、その意外性に意表を突かれる。

スーパーエッジーのようなツートーンカラーのクルマの場合、まずはボディ全体を黒以外のメインカラー(試乗車の場合はプラチナクォーツメタリック)で塗るのが一般的だ。そのためドアの開口部やエンジンルーム内は、メインのボディカラーとなるのが常識。しかしスーパーエッジーはそうではない。ドアを開けると、開口部が黒くなっている。これは常識外れのことなのだ。

さらに驚くのは、その塗装方法だ。一般的に、ドアの開口部やエンジンルームをブラックにする場合、まずは全体を黒で塗る。しかし、スーパーエッジーはそうではない。まずはボディ全体をメインカラーで塗装した上で、組み込まれていたドアとボンネットフードを外し、エンジンルーム内とドアの開口部、そしてルーフをブラックに塗装。その後、再びドアとボンネットフードを取り付けるという、なんとも手間の掛かる工法をとっている。量産車の常識では考えられない面倒かつ複雑な塗装工程を経て、スーパーエッジーの特別なカラーリングは完成するのである。

もちろん、こうした工程は意味なく行われているわけではない。最初にボディ全体を黒で塗らない理由は、黒の塗装の質感にこだわったため。さらに、ルーフを塗り分ける際のマスキング材を減らすことで、製造に伴う廃棄物を大幅に削減するメリットもあるという。プレスリリースには「大胆な配色にきめ細やかな作りこみ」としか記されていないが、これほどの手間を掛けて作り込まれているとは、開発陣や製造現場の情熱に頭が下がる思いだ。

■ブラック=スポーティではない居心地のいいインテリア

一方、スーパーエッジーのインテリアは「おしゃれな人の着こなし」がコンセプト。ブラックとホワイトのコントラストが鮮やかな上、同じ色調でも、スエード調の人工皮革“グランリュクス”の黒と、合成皮革の黒とを巧みに使い分けることで色の質感を変え、豊かな表情を演出している。

加えて、シートの一部やエアコン吹き出し口のリングに挿し色として添えたカッパー(赤胴)のアクセントが、上質さを引き立てている。マツダらしく、単純にブラック=スポーティとはならない、居心地のいい空間に仕立てられている。

ちなみに、従来の7インチから8インチに拡大されたセンターディスプレイや、オプションで用意されるスマホの非接触充電器やApple CarPlayワイヤレス接続機能、そして、最新の四角いものに変更されたキーシェルなどは、標準車にも反映される先の商品改良のポイントである。

■1.5リッターガソリンでも必要にして十分の動力性能

最新型のCX-3には、1.8リッターのディーゼルターボと1.5リッターのガソリンエンジンが設定されている。特別仕様車のスーパーエッジーにも双方のエンジンが設定されるが、今回の試乗車が搭載していたのは後者の方だった。

CX-3といえば、当初はディーゼルターボのみの設定で、追ってガソリンエンジンがラインナップに加わったという経緯がある。しかもガソリンエンジンは、当初、排気量が2リッターだったものの、価格を引き下げる目的もあってか、今では1.5リッターへと排気量がダウンしている。

そんな経緯を知る人ならば、CX-3の1.5リッターガソリンエンジンは“安価なグレードのためのパワートレーン”というイメージを抱くかもしれない。

しかし、今回久しぶりにドライブして感じたのは、日常的なシーンにおいては全く不足を感じないということ。バイパスなど交通の流れの速いルートでも、余裕を持って運転できる。険しい上り坂以外は「これで十分」という印象だ。

デビューから7年は経ち、CX-3は熟成の域にある。そんな今こそ、オシャレな内外装のコーディネート重視で、特別仕様車のスーパーエッジーを選ぶのも大いにアリだ。

<SPECIFICATIONS>
☆15Sスーパーエッジー(2WD)
ボディサイズ:L4275×W1765×H1550mm
車重:1210kg
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:111馬力/6000回転
最大トルク:14.7kgf-m/4000回転
価格:255万3100円

>>マツダ「CX-3」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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