50周年の節目に登場した「シビックe-HEV」は”あの時代”を知る人にこそ乗ってほしい完成度

■ハイブリッドのほうがハンドリングがいい!?

車体こそ大きくなりましたが、現行の11代目「シビック」も“走りがいい”というイメージは間違いなく受け継いでいます。2021年の発売時にガソリンエンジン(1.5Lターボ)モデルに乗った際も、路面に張り付くようなコーナーリング性能や、芯が通ったような剛性を感じることができました。同時に、しなやかな足回りによる快適性や上質さも印象に残っています。

ハイブリッドが追加されたと聞いたとき、どちらかというと“走り”よりも“快適性”のほうに軸足を置いたモデルなのかと想像していましたが、実際にハンドルを握ると、その予想は良いほうに裏切られました。路面に張り付くような感覚はさらに強まり、コーナーを曲がるとリア周りの剛性が高まっているようで、フロントで与えた舵角に対してリアが追従してくる感覚が向上しています。

リチウムイオンバッテリーをリアシート下に格納することによって低重心化を果たしていることに加えて、バッテリーを含むインテリジェントパワーユニット(IPU)を剛性材として用いることで、リア周りの剛性アップを実現。ガソリンエンジンモデルに対して、100kgほど重量がアップしているのに、意のままに動く軽快感はハイブリッドのほうが上なのでは!? と感じるほどです。

 

■スポーティなエンジン車のようなフィーリング

もうひとつ驚かされたのが、ハイブリッド車でありながらドライブ中は「エンジン車に乗っているのか!?」と思ってしまうほど、フィーリングがエンジン車に近かったことです。

ホンダの「e-HEV」システムは、かつて「i-MMD」と呼ばれていたハイブリッドシステムを進化させたもので、エンジンは基本的には発電機として用い、駆動は電気モーターが担う仕組み。かつては、エンジンの回り方がいかにも発電機的なもので、効率の良い回転数で回り続けているようなフィーリングだったのですが、「シビック e-HEV」ではその点が払拭されています。

搭載されるエンジンは、新開発の2.0Lアトキンソンサイクル直噴エンジン。どちらかというと、燃費と静音性を重視したエンジンですが、前述のようにドライブするとシステム全体では気持ちの良いフィーリングに仕上がっています。

そのポイントのひとつが「リニアシフトコントロール」と呼ばれるCVTの制御。車速の伸びに合わせて、エンジンの回転数を段階的に上昇させるもので、有段トランスミッション車を運転しているようなリズミカルな回転数変化が味わえます。アクセルを踏み込みに合わせてリニアに回転数が上昇するのも、気持ち良さを向上させているポイントです。

もうひとつ、気分を盛り上げてくれるのが“音”です。エンジンそのものは、静音性の高いものですが、走行モードで「SPORT」を選択すると、加速時に車室内のスピーカーからエンジン原音から抽出したサウンドがドライバーの耳に届きます。最近は、採用している車種が増えている機能ですが、知らなければエンジン音だと思ってしまうくらい自然に耳に入ってくる。それも、エンジン原音の気持ち良い部分を抽出しているとのことで、ついついアクセルを踏み込みたくなるサウンドです。

ほかにもワインディングを走行しているときは、アクセルオフでもエンジンを止めない制御や、高速巡航時にエンジンでドライブする領域を拡大するなど、エンジン屋であるホンダらしい工夫が随所に施されています。こうした工夫の積み重ねによって、ハイブリッドでありながら、エンジン車をドライブしているようなフィーリングを実現しているのです。

聞けば、今回の「e-HEV」システムの開発を担当したパワーユニット開発統括部の齋藤和弘さんは「EF」型の「シビック」を今でも所有しており「あのエンジンの気持ち良さをe-HEVでも味わってもらえるように」と意識しながら、開発に当たっていたとのこと。同世代の筆者としては“あの時代”を知る人が、手掛けたシステムだけあると感じた逸話でした。

もちろん、アクセルを踏み込んだ際のモーターによる加速感や、静粛性などハイブリッドの美点は活かしたまま。ちなみに、ハイブリッドの試乗後にガソリンエンジンの「シビック」にも乗らせてもらいましたが、加速感だけでなく車体の剛性感、タイヤの路面追従性、ドライバーの意図通りに動く運動性能に至るまで「e-HEV」のほうが上だと感じました。

価格は394万200円と安くはありませんが、上質さや走りにこだわる人こそ「シビック e-HEV」を選んでほしいと思います。

【SPECIFICATIONS】
サイズ:4550×1800×1415mm
車両重量:1560kg
最高出力:184PS
最大トルク:315Nm
燃料消費率(WLTCモード):24.2km/L
価格:394万200円

<取材・文/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

 

 

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