セイコー プロスペックスの新生「スピードタイマー」誕生ストーリーと人気の理由

今からおよそ半世紀前、1960年代にセイコークロノグラフ開発史の象徴である「SPEEDTIMER(スピードタイマー)」が誕生した。当時、東京で開催された国際的なスポーツ競技でセイコーはオフィシャルタイマーとして高精度なストップウオッチを導入。アスリートたちの情熱を支え「正確な時を計る」というシンプルかつ究極の目的を果たす、そうしたセイコーによる計時の技術は現代へと連綿と続いてきた。

その証として、現代のセイコーのスポーツウオッチを司るプロスペックスよりスピードタイマーの名を受け継ぐモデルがこのたび姿を現した。登場するやいなや話題をさらい、またたく間に人気モデルとしての地位を確立。最新の技術でよみがえったスピードタイマーは、大きく分けて“機械式”と“ソーラー駆動”の2モデルとなっている。

ミニマルデザインやシンプルさが好まれる昨今、クロノグラフがなぜ受け入れられたのか。その人気の理由を、登場したばかりの新作モデルも交えながら解き明かしていく。

■スポーツ計時の歴史を現代に蘇らせる

セイコー プロスペックス
「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ SBEC009」
33万円

▲自動巻、SSケース、ケース径42.5mm、10気圧防水、ワンプッシュ三つ折れ方式

1964年に開発された、国産初のクロノグラフ「クラウン クロノグラフ」からインスピレーションを得たメカニカルクロノグラフモデルは、セイコーらしいソリッドな針とストップウオッチとしての視認性の高さ、クラシカルな雰囲気が漂う。そこで今回のプロジェクトリーダーを務めた、セイコーウオッチの加藤さんに話を聞いた。

セイコーウオッチ・商品企画二部
加藤秀明(かとうひであき)

2007年にセイコーウオッチ入社。営業部門を経て同社のプレス担当を長らく務め、2018年より現職。2級時計修理技能士の資格を持つ。

 

「スピードタイマーは計測機器としての役割を持たせるため、ダイバーズのように太い針ではなく、しっかりとインデックスを指し示せるように長く設計しています。より細かく、正確に、計測できることが目的です」(加藤さん)

構想を含めて2年以上かかったというスピードタイマーだが、セイコーが持つスポーツ計時の歴史を伝えるためにプロジェクトは開始された。もともとダイバーズに強いセイコーだが、「プロスペックスには、スポーツウオッチブランドとして何か足りないピースがあると感じていた。それが“クロノグラフ”だった」ともいう。

同ブランドにおいて、メカニカルのクロノグラフは決して主流ではない。そのためムーブメントも新開発され、「キャリバー8R46」を採用。ベースは2009年に登場していたが、垂直クラッチに加え、確実な操作感や安定した動作を実現するコラムホイールを継承している。カチッとした押し感が特徴で、強い力でなくてもボタンを押し込める感覚がまさにストップウオッチのようだ。

▲「操作性」「指示性」「判読性」が融合した、新たなクロノグラフコレクション

十数年前に登場したムーブメントの改良ということで、当初社内では賛否両論あったが、逆に「セイコーファンにとってのヘリテージとしてストーリー性を持ったスポーツウオッチとしてユーザーに受け入れられたのでは」と加藤さんは分析する。

■試行錯誤を重ねて実現したノスタルジックなブルーダイヤル

セイコー プロスペックス
「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ SBEC011」
(セイコーウオッチサロン限定/2022年2月11日発売)
33万円

▲自動巻、SSケース、ケース径42.5mm、10気圧防水、クロコダイルストラップ

厚みのあるケースは重厚感があるものの、腕に乗せるとそこまで重みは感じない。これは裏ぶたを逆テーパーに絞り込み、デザイン上で薄く見せるといった手法をとらなかったため、接地面積が増えて快適に身に着けられる設計になっているとのこと。さらにムーブメントも重心を下げることで、装着時のバランスの良さが配慮されている。

▲ストップウオッチを思わせるりゅうずは、無骨なまでの金属っぽさがあり質感を高めている

そこで新作となるブルーダイヤルについても聞いてみた。

「まさに1960年代に思いを馳せるような、少しレトロ感のあるブルーを再現したかったんです。しかし、この淡さを表現するのが難しくて……。ムラになったり、歩留まりが悪くなったりとかなり試行錯誤を重ねました。特に今回のような針が多い、多段式のダイヤルだと高低差ができて塗料の吹き溜まりができてしまいます。そこで作り方の工程を変え、前もって小さい穴を空けてから塗るというのを試したところうまくいったので、とても満足しています」

▲色合いの薄いブルーダイヤルは海の青ではなく、1960年当時セイコーの計時機器に採用されていた青を表現するため何度も試作を重ねて作られた

ナチュラルというより人工的なブルーを目指した新色は、古いブラウン管テレビの時代を思わせる、くすんだエイジング感が再現されている。高級感を出すためにクロコダイルストラップにしているのも、このエレガントなブルーとの相性を考え抜いた理由だ。しかも裏側に縫い目や汗が入りにくいようにするため、別の革を一枚貼るといった工夫がなされており、スポーツウオッチとしてのレザーバンドを目指した結果が見て取れる。

■アスリート・山縣亮太選手の限定モデルも登場!

セイコー プロスペックス
「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ SBEC013」
(セイコーウオッチサロン限定・数量限定100本/2022年2月11日発売)
33万円

▲自動巻、SSケース、ケース径42.5mm、10気圧防水、カーフストラップ

さらにブラックダイヤルにゴールドの秒針を持つ新作が、アスリートの“山縣亮太モデル”。モダンでストイックに仕上がっており、印象的にゴールドが使われている。ケースがオールブラックのため、他モデルより締まって見え、高級スポーツウオッチとしての佇まいがある。

▲針とセイコーのロゴに使われているゴールドが印象的

とここで、時計ジャーナリストの篠田哲生さんにも、今回のスピードタイマーについて人気の理由を聞いてみた。

時計ジャーナリスト・篠田哲生

篠田哲生|男性誌の編集者を経て独立。コンプリケーションウォッチからカジュアルモデルまで、多彩なジャンルに造詣が深く、専門誌からファッション誌まで幅広い媒体で執筆。時計学校を修了した実践派でもあり、時計関連の講演も行う。

「垂直クラッチは見ることはできない機構ですが、現在の機械式クロノグラフで好まれる方式。そしてクロノグラフの作動がスムーズで、針飛びが生じにくいメリットがあります。垂直クラッチもコラムホイールも、計測機器として考えられた証拠。そういう歴史的な物語も楽しめる時計ですし、2インダイヤル式は1960年代に流行したスタイル。レトロモダンな雰囲気は時代に左右されない魅力があります」とのこと。

▲シースルーバックの裏ぶたにはシリアルナンバーと、山縣亮太選手のサインが入っている

 

■手に取りやすいソーラークオーツモデルが大人気!

セイコー プロスペックス
「スピードタイマー ソーラークロノグラフ」
7万4800円

▲ソーラー駆動、SSケース、ケース径39mm、10気圧防水(左からSBDL085、SBDL091、SBDL087、SBDL089)

また機械式クロノグラフと対を成す存在のスピードタイマーが、4つのソーラー駆動モデルだ。エントリー層へのアピールも含めて用意したというが、むしろマニアもこぞって購入しているという。

「こちらもカラーやサイズ感を含めてクラシカルな雰囲気を大事にしました。39mmというケースサイズはまさに1960年代に流行っていて、今でも着けやすいですし、特にゴールドは真鍮をイメージしたレトロ感があります」(加藤さん)

プライス的にも機械式に比べて格段に手に取りやすく、かつデザイン性や機能性は納得の出来栄え。ホワイトダイヤルは品薄の状況が続いているなど、予想を大きく上回る反響だという。「全カラー大人買いするマニアの方もいらっしゃいますね」と加藤さん。

前述の篠田さんも、「もはや“メカ>クオーツ”という時代ではないですし、やや小ぶりなケースサイズ、ボリューム感のあるケースフォルム、パンダダイヤル(白文字盤)といった組み合わせは、レトロなクロノグラフそのもの。でもソーラークオーツ。このひねりが楽しい」とのこと。

機械式、ソーラークオーツともに次代のプロスペックスを担うシリーズとして、今後もさまざまなモデルが登場しそうだ。最後に、モデル名についてのこだわりを加藤氏に聞いたところ、

「やっぱり“スピードタイマー”という名前の響きがいいですよね。新たな次代の時計なんだから、ネーミングを変えるという案もありましたが、ここは譲れなかった。スッと耳に入る名機として、これまでもこれからも正確な時を刻んでいってもらいたいです」

半世紀前から続くカルチャーに、進化を続けるセイコーの技術と想いが詰まった“新生”スピードタイマー。その行く先から目が離せない。

>> セイコー プロスペックス「SPEEDTIMER(スピードタイマー)」

<取材・文/三宅隆(&GP) 写真/江藤義典 スタイリスト/宇田川雄一>

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