【検証2017-2018年の注目車①】599万円〜のボルボ「XC60」が日本でNo.1に輝いた理由

■XC60は時代の先端を行っている印象が強い!

実は過去にも、輸入車が日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたことがある。2013年のフォルクスワーゲン「ゴルフ」がそれだ。

つまり前例はある。しかし、XC60と異なるのは、ゴルフは200万円台から購入できる“一般的な日本車に近い存在”だったこと。対してXC60は、エントリーモデルでも約600万円。そういった意味でも、かなり“よほどのこと”がなければ、受賞は難しいはず。ではその、かなり“よほどのこと”とは、一体なんだったのだろうか?

その理由を考える時に、まず思い浮かぶのは、XC60は世界最高峰の先進安全装備を搭載していること。しかも、全グレード標準で。

今や、自動ブレーキなどの先進安全装備を抜きに、クルマは語れない。自動ブレーキは、対クルマだけでなく、夜間の人間や自転車、そして、北欧だとトナカイなどの大型動物にも対応するし、交差点の右折時などでは対向車との衝突を防いでくれる。しかもXC60では、自動ブレーキの作動時において、衝突を避けるためにブレーキ制御だけでは足りないと判断した場合、ステアリングでの回避を行う“ステアリングサポート”、対向車が来ているにもかかわらずドライバーが意図せず対向車線にはみ出した場合に走行車線に戻るようステアリングをアシストする“オンカミング・レーン・ミディゲーション”、後方から車両が近づいているにも関わらずドライバーが車線変更操作をして接触の可能性が高まった場合にステアリング制御で走行車線へ戻す“ステアリングアシスト付BLIS”など、先進安全装備のデパート状態。事故を減らすために最善の努力を行うという、ボルボの執念にも似たこだわりすら感じさせる、安全装備の充実ぶりだ。

昨今、クルマの予防安全が声高に叫ばれている。だから、これほどまでの安全装備の充実を高く評価しないわけにはいかないだろう。これらを全グレードに標準装備するボルボは、やはりさすがである。

しかし、それだけでイヤーカーに輝けるほど、日本カー・オブ・ザ・イヤーは甘くないはず。実は、車体がそれほど大きくない(見えない)点も、好意的に評価されたようだ。全長は約4.7m、全幅は1.9mを超えるのだから、決してボディは小さくないのだが、大きさを感じさせないのは、日本の道路環境にとっては大切なこと。実際、運転してみても…例えば、車庫入れや狭い道での走行では大きさが苦にならない。多分そこには、映像を継ぎ目なく美しく、しかも、大型画面に映す“全方位モニター”の効果も相当効いている。いずれにせよ、(実際には小さくない車体ながら)日本の道でも運転しやすいのは、XC60の魅力のひとつといえる。

走りがスポーティという点も、XC60が好評博す要因になったと思われる。日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、走りの性能を重視する傾向が強く、実用性よりも走行性能の高いクルマが高評価を受ける傾向がある(今回「10ベストカー」入りしたクルマの顔ぶれを見てもそれは明らかだ)。そういった面でも、XC60のスポーティなハンドリングフィールは、有利に働いた。

その上で「新鮮で凝っている」という点も、XC60の美点だ。例えば、インパネは従来のボルボとは異なり、操作ボタンやダイヤルの数を大幅に減らす(わずか8個しかない!)と同時に、9インチの大型ディスプレイを組み込んで斬新な空間を創出。スマホライク(というかタブレットのよう)なタッチパネルの操作感に、音声操作やスマホ連携といった時代の先端を行くIT機能を盛り込み、時代の先端を行っている感がビンビン感じられる。この点は、今年の10ベストカーの中でも抜きん出ていると断言できる。「従来のクルマとは異なるインターフェイスを広く普及させた量産車」という、未来の扉を開いた立役者的な存在感も、高く評価されたに違いない。

キー(カギ)のデザインにこだわり、シート表皮とコーディネートしたレザーを配したり、スターターを美しいダイヤルにしたり、プラグインハイブリッド車「T8ツインエンジン」ではシフトレバーにクリスタルを採用したりと、XC60は、とにかくドライバーが実際に触れる部分にも凝っている。オーナーの“所有する歓び”を高めてくれるクルマ、という印象が強い点も、このクルマの美点だろう。

満足度が高い、といえば、パワートレインの選択肢が広いのも魅力。「T5」そして、その高出力版の「T6」という2タイプの2リッター直列4気筒ガソリンターボエンジンに加え、ディーゼルの「D4」もあるし、プラグインハイブリッドのT8ツインエンジンだってある。そこに、3つの装備仕様を用意するバリエーションの広さも、購入する際にはありがたく感じるだろう。

ところで、ハイブリッドカーといえば、世間一般的には“エコなクルマ”をイメージするかもしれない。しかし多くの欧州ハイブリッドカーと同様、XC60のT8ツインエンジンも、燃費はガソリンエンジン車より優れるのは事実だが、エコというひと言だけでは片づけられない魅力を備える。

例えば“速さ”は、ガソリン高出力仕様のT6と同等の318馬力エンジンを搭載し、そこに87馬力のモーターを追加。シリーズで最もパワフルなのが、プラグインハイブリッド車なのである。つまり、XC60のプラグインハイブリッド仕様は「エコ、なのに速い」のだ。

さらに、停止状態からの発進を基本的にはモーターが担うので、T8ツインエンジンはガソリン車やディーゼル車よりもはるかに快適。ストップ&ゴーを繰り返すような街中や渋滞路での動きが滑らかなのである。発進時に、静けさの中、突然ノイズが響いて振動も発生するアイドリングストップ後のエンジン再始動がないから、どんなエンジン車よりも同乗者が快適。意外に知られていないが、ハイブリッドカーは快適性も大きな長所なのである。

そんな、エコ、パワフル、そして快適と、3つのキャラクターを1台に兼備したXC60 のT8ツインエンジンを、今回改めて日常使いしてみた。そこで実感したのは、とても“馴染むクルマ”だということ。

大きく感じないサイズ感、センスのいいインテリア、そして、快適であり先進装備に守られているという安心感。XC60を運転していると、ずっとドライブしていたい気分になる。どこまでも走りたい気持ちにさせてくれるということは、つまり、心地良いクルマだということに尽きる。

なんだかんだいって、この心地良さこそが、XC60を所有する最大のメリットなのではないか。年末の少し混みあった道を走るXC60の運転席で、そんな思いを改めて強くした。

<SPECIFICATIONS>
☆T8 ツインエンジン AWD インスクリプション
ボディサイズ:L4690×W1900×H1660mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 水冷直列4気筒 ガソリンターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8速AT
エンジン最高出力:318馬力/6000回転
エンジン最大トルク:40.8kg-m/2200〜5400回転
モーター最高出力:34馬力/2500回転(前輪)、65馬力/7000回転(後輪)
モーター最大トルク:16.3kg-m/0〜2500回転(前輪)、24.5kg-m/0〜3000回転(後輪)
価格:884万円

(文&写真/工藤貴宏)


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