【VW ゴルフトゥーランTDI試乗】高速クルーズが得意な趣味人たちの良き相棒

■クリーン性能も万全の新ディーゼルを搭載

昨今の日本市場において、売れ筋のクルマといえばSUVとミニバン。SUVに関しては、世界的にも大ブームとなっていますが、ミニバンについてはお国柄があるのか、若干違いがあるようです。

例えば、ドイツにおける新車販売ランキングを見ると、上位につけるのはVWのゴルフや「ポロ」といったハッチバックで、メルセデス・ベンツ「Cクラス」などのサルーンも常連です。それに続いて、10位前後にミニバンのトゥーラン、というのが、最近の状況でしょうか。ともあれ、SUVやミニバンに対し、やや厳しいドイツ市場でも、トゥーランはデビュー以来、好調なセールスを続けています。

そんなトゥーランですが、本国における販売上の主流は、やはりクリーンディーゼル搭載モデル。VWのディーゼルといえば、例の排ガス不正問題もあり、懐疑的な印象をお持ちの方も多いと思いますが、トゥーラン(を始めとする現行の日本上陸モデル)に搭載されるのは、問題となったユニットではなく、新世代のクリーンディーゼルとなっています。

今回、日本仕様に加わったトゥーランTDIのエンジンは、排気量2リッターの直列4気筒、直噴ディーゼルターボで、最高出力は150馬力、最大トルクは34.7kgf-mを発生します。最高出力こそ、従来のガソリンターボと同等ですが、最大トルクでは9.2kgf-mほどのアドバンテージを誇ります。

また、気になる排気ガス浄化システムは“DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)”と“尿素SCRシステム(選択式還元触媒)”、“高圧/低圧EGR”を組み合わせていて、日本の“ポスト新長期排ガス規制”に適合しているのはいうまでもありません。尿素SCRシステムは、触媒内で排出ガスに“AdBlue(アドブルー/尿素水)”を噴霧することで、窒素酸化物を分解します。そのため、AdBlueの補充が必要となりますが、一般的な使用状況(年間1万km走行)であれば、補充サイクルは1年に1度から2度程度といったところ。

メーター内のディスプレイにも、AdBlueの残量から割り出した走行距離を表示可能ですから、扱いに関して神経質になることはなさそうです。

■各部に通じるドイツ車らしいガッチリ感

早速、気になる走りの話題に移りたいところですが、まずはトゥーランについて簡単におさらいしておきましょう。

気になるボディサイズは、全長4535mm×全幅1830mm×全高1670mmと、ステーションワゴンの「ゴルフヴァリアント」に比べ、40mm短く、30mmワイドで、185mm高いというディメンション。いわゆる5ナンバー枠のトヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」よりひと回り大きく、トヨタ「アルファード」や日産「エルグランド」といったラージミニバンよりもひと回り小さいサイズ、というと、その大きさをイメージしやすいのではないでしょうか。

こうしてライバルを見回してみると、トゥーランはありそうでいて、なさそうなサイズ。そういうと半端なサイズかと思ってしまいますが、街中でも取り回しに困らず、しかも、十分な室内空間を確保できる絶妙なサイズといえそうです。ちなみにTDI搭載モデルには、スタンダードな「コンフォートライン」(369万9000円)と、多彩な機能を装備する「ハイライン」(407万9000円)の2グレードが用意されています。

運転席へと乗り込み、ややアップライトなドライビングポジションをとるシートに腰を下ろし、ドアを閉めるという一連の流れを経て、真っ先に感じたのは「このガッチリした感じ、やっぱりゴルフの一族だ」ということ。ドア開閉時の重厚な感触、シート調整時に伝わる建てつけの上部さなど、さまざまな手触りについては、誰もが思い描くドイツ車らしさが満点。こうしたガッチリ感は、インテリアのあらゆる部分に共通していて、例えば2列目/3列目シートの格納・展開時も、シートバックのズッシリとした手応えから作りの良さが伝わってきます。

インテリアやダッシュボードのデザインは、ひと言でいえばVWらしくコンサバな印象。使いやすく、見やすく、初めて乗っても基本的な操作で迷うことはありません。また、今回の試乗車は、上位グレードのハイラインでしたが、マイクロフリースとファブリックのコンビネーションシートは、さらっとした手触りで、こちらもなかなか好印象。各部に配されるクロームパーツやツヤのある化粧パネルと相まって、高級感が漂います。

また、リアシートに移動すると、運転席と助手席の背後に折り畳み式のピクニックテーブルが備わるほか、後席用のエアコン吹き出し口&コントローラーも配置されるなど、装備面も充実しています。

また、3つの席が独立した2列目シートは、ガッシリと剛性感のある作りで掛け心地も良好。前後スライドのほか、リクライニングや可倒機能も備えているので、体格や用途に合わせたポジションを取ることができます。一方、3列目シートは、エマージェンシー用といった設え。レッグスペースや肩周りの空間も息苦しさを感じないレベル…ではありますが、1、2時間程度のドライブなら、乗る人から苦情が出ることはなさそうです。

そして、トゥーランの魅力として忘れてはいけないのが、多彩なシートアレンジ。2列目/3列目シートは個別に格納できますし、床面もしっかりフラットになります。また、助手席も前方に折り畳めるので、サーフボードのような長尺モノも積み込めます。

ちなみに、2列目/3列目シートを格納した状態での荷室容量は、ゴルフヴァリアントの1620Lをしのぐ、1857Lを確保しています。

■TDIのメリットを享受できる長距離クルーズ

エンジンを始動させると、ガソリンターボ車とは異なり、ディーゼルらしい鼓動を感じます。とはいえ音質は「コロコロ」と軽やかなタイプで、耳障りではありません。

まずは一般道を走りますが、出足は軽快にして自然。ディーゼルターボというと、その加速は強大なトルクを武器に、スタートからパンチの効いた走り、をイメージしがちですが、トゥーランTDIはスムーズで穏やか。右足の動きに対する過剰な演出こそないものの、出来の良い6速のデュアルクラッチ式トランスミッション“DSG”と相まって、シーンを問わず扱いやすく、軽快に走ります。

一方、ちょっと気になったのが、車内に侵入してくる音の変化。アクセルオンの状態では、少々勇ましいエンジン音がフロントシート周辺に響きますし、車内後方にも若干こもったような音を感じます。しかし、アクセルをオフにするとこれらの音は収まり、すっと静寂が戻ります。絶対的な音量は大きくないものの、オン/オフの差が大きいのが残念といえば残念。せっかくの3列シート車だけに、移動中も会話を楽しみたいという方は少なくないでしょうから、この辺りはもうちょっと頑張ってもらいたいところです。ちなみに、ガソリンターボ車ではこうした音量の変化を感じませんから、家族や仲間といっしょに出掛ける機会が多い方は、購入前に乗り比べてみることをおすすめします。

とはいえ、舞台が高速道路へと移ると、TDIが本領を発揮。気持ちのいいクルージングを楽しめます。特に、制限速度でひたひたと遠くまで、といったシチュエーションでの快適さは、さすがというレベルにあります。試乗車は上級グレードのハイラインでしたから、“ACC(アダプティブクルーズコントロール)”のほか、“レーンキープアシスト”や“渋滞時追従支援システム”、さらには“駐車支援システム”に至るまで、予防安全・運転支援システムがフル装備。特に、近年では当たり前の装備になりつつあるACCも、TDIエンジンの豊かなトルクやスムーズな吹け上がりといったキャラクターと相性がいいようで、前走車の加減速に対して巧みに追従してくれます。

また乗り心地に関しては、硬からず、柔らか過ぎず、快適のひと言。特に、高速道路では大きめの目地段差などを通過しても、振動がステアリングやフロアを揺らすことがありませんし、直進安定性も良好。ミニバンといえば、低速のコーナーや曲がり角などで、ゆらゆらと車体が揺すられるようなことがありますが、そういった不快さも感じません。この辺りは、やっぱりアウトバーンで鍛え抜かれたブランドのクルマだ、と感じるところです。さらに、「エコ」、「ノーマル」、「スポーツ」、「カスタム」と、走行モードの切り替えも可能で、シーンや用途に合わせて走りの特性を選べる点も、ロングツーリング派には魅力に映るのではないでしょうか。

さて、3列シートを配置するミニバンでありながら、走りも満足いくレベルにあるトゥーランTDI。クセのない運転感覚、ひたひたとどこまでも走っていけそうな乗り心地、3~4名乗車では十分すぎるラゲッジスペースなどを備えていることを考えると、多趣味、かつドライブ好きの方にピッタリなクルマではないかと思います。例えば、キャンプや自転車、マリンスポーツなどの愛好家で、荷物はかさばり目的地もそれなりに遠い、だけど行くなら、皆でワイワイと…といった趣味人にとって、このトゥーランTDIは良き相棒となってくれそうです。

<SPECIFICATIONS>
☆TDI ハイライン
ボディサイズ:L4535×W1830×H1670mm
車両重量:1630kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル+ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:150馬力/3500~4000回転
最大トルク:34.7kgf-m/1750~3000回転
価格:407万9000円

(文&写真/村田尚之)


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