混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力①:岡崎五朗の眼

■軽自動車や定番コンパクトカーの実力が大幅アップ!

ダイハツ「タント/タントカスタム」

ダイハツの「タント」は、助手席側中央のピラーをドアにビルトインし、前後ドアが大きく開くようにした“ミラクルオープンドア”が特徴だ。この構造を始め、大きく開くリアゲート、面積の広いフロントウインドウ、前方視界確保のために細くしたフロントピラーなど、徹底した使い勝手の追求により、タントのボディはいわば“穴だらけ”の状態。走りを左右するボディ剛性の面では、不利な設計であることは否めない。にもかかわらず、新型タントは軽自動車として上質な乗り味を実現している。その要因はやはり、ダイハツの新しい車両開発・生産手法“DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・ アーキテクチャー)”によって生まれた新プラットフォームの恩恵だろう。近年の軽自動車の進化を、まざまざと見せつけてくれる。

抜群の使い勝手や上質な走りなど、多くの魅力を備える一方、デザインはもうちょっと頑張って欲しかった。他のダイハツ車にもいえることだが、デザインの方向性に一貫性が感じられないのだ。ライバルメーカーが手掛けるスズキ「ワゴンR」やホンダ「N-BOX」は、全体のフォルムやヘッドライトの形状など、モデルチェンジを繰り返しても継承されるアイデンティティが随所に見られるが、ダイハツ車のデザインは丸いものが四角くなったり、ライト周りの意匠が大きく変わったりと、世代ごとに大きく変化する。新型タントのエクステリアでも「これぞタントだ」というアイデンティティは見つけにくい。

さらにインテリア、特にメーター周りのデザインは、個人的には最悪だと思う。速度やシフトポジションの表示部、車線逸脱などのワーニング部、そして、それらの周囲を飾るデコレーション部のすべてが白く点灯するが、すべての明るさ、色味が異なっているのだ。これはデザインの常識からすれば、あり得ないこと。デザイナーの目が行き届いていない、なんてことはないはずだから、メーターユニットを完成させるに当たって、それぞれのパーツを安いところから買い集めてきた、コスト重視の弊害なのだろう。こうしたデザイン面での洗練度に欠ける点が、新型タントにおける一番の弱点だと思う。

近年、“スーパーハイトワゴン”と呼ばれる背の高いモデルが軽自動車の人気を牽引しているが、走行安定性などの面で不利に働き、しかも、車体が大きい分、価格も高いこのカテゴリーが人気なのはなぜだろう? リアの左右にスライドドアを採用することも人気の秘密だが、やはり一番の購入動機は、サイズに制約のある軽自動車であっても、乗員の頭上空間が抜群に広いことで狭さを感じさせないことだと思う。実際、新型タントの車内も、狭いスペースに押し込まれているといったネガな印象が一切ない。というよりも、フロントシートに座った際の視界の良さ、“パノラマ感”は圧倒的で、まるで小田急ロマンスカーの最前席に座っているかのように開放的だ。こうしたクルマ作りのアプローチは、今後、他カテゴリーの軽自動車にも生かされるのではないだろうか。

 

トヨタ「カローラ/カローラツーリング」

2018-2019年シーズンの10ベストカーに選出された「カローラスポーツ」と同様、「あのカローラがここまで変わった!」というのは、自動車業界にとって大きなトピックだ。

1966年のデビュー以来、’91年登場の7代目まで、カローラというクルマはモデルチェンジのたびにどんどん進化していった。だが、バブル崩壊後に開発された8代目以降、カローラは“デフレ圧力”にさらされ、どんどん安いクルマへと成り下がっていく。その最たるものが、先代モデルだ。プラットフォームは格下の「ヴィッツ」と共用。安い、壊れないといったこと以外、取り柄のないクルマになってしまった。旅先で借りるレンタカーに先代カローラが出てくると、乗った瞬間からテンションが下がり、せっかくの旅もつまらなく感じることさえあったくらいだ。まっすぐ走ることさえ難しい先代モデルは、単なる移動の道具として見ても成立していなかった。まるで、歩くとマメができるランニングシューズみたいなものだったのだ。

落ちるところまで落ちたカローラだけに、個人的には「次の世代はない」と踏んでいた。ところがカローラは、どん底から復活を遂げる。2018年に登場したカローラスポーツは、実に完成度の高いクルマに仕上がっていたのだ。

とはいえ、カローラのメインストリームは、やはりセダンとステーションワゴン。期待を込めて日本仕様をチェックすると、海外仕様と比べて全幅を狭くする(1745mm)など、ボディサイズを日本の道にアジャスト。その上で、価格もリーズナブルな設定とするなど、日本というマーケットを徹底的に意識したモデルとなっていた。

乗った印象はどうなのか? ひと言でいえば、相当出来のいいカローラスポーツの走りを、ほぼそのまま踏襲している。乗り心地はしなやかで、路面へのタッチがものすごく優しく、乗っていると癒やされるという印象。それでいてコーナーでは、しっかり曲がってくれる。一度、ハンドルの舵角を決めると、きれいにねらったラインをトレースしてくれるのだ。従来モデルは、まっすぐ走るだけで不安を覚えたが、新型は、直進性に優れるのにコーナーを曲がるのも嫌がらないという、全く別物に仕上がっている。少なくとも走りの面では、Cセグメントの代表モデルであるフォルクスワーゲン「ゴルフ」やプジョー「308」に匹敵するハードウェアを手に入れた。先代カローラのオーナーが新型をドライブしたら、きっと驚くはずだ。

新型カローラの進化は、先代を知る者にとって、逆転満塁ホームランくらいのインパクトがある。とはいえ、我々ジャーナリストやメディアの働きにもかかってくるが、営業車とクルマにこだわりのない人にしか需要のなかったカローラが、素晴らしいクルマに進化したということを人々に浸透させるというのは、相当に大変なことだと思う。

そうした変化を最も効果的にアピールできるのは、デザインの変化だろう。先代カローラは退屈なデザインだったが、新型はトヨタ車に共通する独自の“キーンルック”を採用しながら、「プリウス」ほどアクは強くないという、いい着地点を見つけたように思う。

とはいえ、同時期にデビューした「マツダ3」ほどのオシャレ感はない。インテリアにしても、せっかくの“ディスプレイオーディオ”が全体のデザインに溶け込んでおらず、インフォテイメント系を担当する部署とインテリアデザイナーとが、まるで連携できていないように感じる。クルマ全体で統一感あるデザインに落とし込むという作業は、次の世代に期待といったところだ。

【次ページ】トヨタのクルマ作りはどのように変わったのか?

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